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みんなで業界を育てていきたい— 『ポストイクメンの男性育児 妊娠初期から始まる育業のススメ』の書評を書きました

今週も文春砲が世間に轟いていますね。
そんな週刊文春に私の書評が掲載されています。まだ見本誌が届いていないため、著者の平野翔大さんのツイートを貼らせてください。

書評を書いたのは『ポストイクメンの男性育児 妊娠初期から始まる育業のススメ』(中公新書ラクレ 791)です。

著者の平野翔大さんは私よりもずっと年下。産科医であり産業医でもあり、男性育休をとることが当たり前になった世代のサポートをする立場です。出産や育児、仕事の両立といった、女性なら「お母さんになるんだから」とお母さんになるつもりはなくても浴びせられる情報からなぜ男性が阻害されてしまうのかについて客観的なデータを用いながら解説しています。

SNSではなにかと現代の父親たちに対して厳しい声が書かれがち、育児を主体的にやらない男性ばかりがクローズアップされがち。でも育児を主体的にやる父親もたくさんいる。けれど女性がマジョリティの育児業界では孤立しがちだそうです……って、この本を読んで初めて知ったみたいな言い方をしているけれど、もちろん知ってた!!!!! 近所にも仕事先にもそういう男性はめっちゃいます。

『対岸の家事』を一緒に作った編集者さんは男性でしたが、打ち合わせ中はずっと「土日も子供といっしょ」「たまには一人で出かけないと」「でも土日はいっしょにいてあげないと」「その思考が育児ノイローゼの始まりだよ!」などと深夜のデニーズで(交代要員が帰宅した後に集合する)ママ友と交わすような育児の弱音を吐きあっていました。

ちなみに平野翔大さんは『対岸の家事』も読んでくださっていたそうです。

この小説の中で、主婦の詩穂が、公園で出会った育休パパが娘の髪を難なく結ぶのを見て「こやつ育児をやってるな」と思うシーンがあります。

よくある育児ものでパパが子供を抱きあげて笑顔になるシーンが「よいパパ」の表現として描かれたりしますが、現役育児従事者としては「それむしろ育児してないパパじゃ…」と思ってしまうのです。主体的に育児してるパパはだいたいいつも疲れています。休めてないから。子供が保育園から出てきても目がドロンとしています。これはママも同じです。
それより、ファミレスで子供が一ミリだけ手を上げた瞬間です。子供の前にある水の入ったカップを光のような速さで避難させたパパを見ると思います。「やってるな」と。何度も、何度も、床を拭いたのでしょう。謝ってきたのでしょう。その経験が光の速さを出すのです。

でもそれくらい頑張っても、「育児してるっていっても、所詮男性は"手伝い"程度でしょ?」と今の育児現場なんか知らない人たちから舅姑目線で見られてしまいがち。いや若い父親たちはきついだろうなと思ってきました。

思えば……私が総合職女性になったときも、「腰掛けでしょ? 恋愛しにきてるんでしょ?」という先入観はまだあったのです。女性漫画家が描くお仕事ものでも、上司にいきなりキスをされるとか……部下の男性にモーションかけるとか……それはセクハラ……セクハラです……。

話がずれましたが、『対岸の家事』にこんなシーンを書きました。兄妹を別の保育園に通わせていて疲労している礼子に、同僚のイマイが「それはクソゲーだ」いうシーンです。

「ルール設定がめちゃくちゃだったり、厳しすぎたりして、誰もクリアできないゲームのことです。ファミコン初期のころに出回ったんです。お年玉を貯めて買ったのがそれだったりすると腹立って、ゲーム会社に電話したこともありますよ。クソゲーとも言います」

「ゲームでも同じです。プレイする側がバグを見つけて、メーカーに報告することなんかざらですよ。そうやって業界を育てていかなきゃだめなんです」

『対岸の家事』の感想を書いてくださった方のかなり多くが、このセリフを引用していてくださっていました。

育児に限らず、新しい人たちが業界に参入してきて、うまくやれていないとき「本気でやってない」と精神論を言う人たちがいます。でもそれこそが業界のバグだと私は思います。今の時代のゲームには親切なチュートリアルがあるのが普通じゃないですか。「本気でやってない」ように見えた人がいたとしても「チュートリアルが足りてないのかな?」と思うようにしたい。
みんなで業界を育てていきたいなと改めて思いました。