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見栄と自立心の狭間で

年長の息子がいる。
来年には小学生、身の回りのことを少しずつできるようになってもらおうと、最近は毎朝着る服を自分で選ばせている。
今日は何をするのか、暑いのか涼しいのかなどを考えて選べるようヒントだけ出して、本人の決定にはあまり口を出さないようにしたいと思っている。

その日は、息子の保育園のプチ遠足だった。
運動会や遠足などの行事が中止になってしまったせめてもの代わりとして、少し離れた大きな公園にみんなで行ってお弁当を食べようというものだ。
私はお弁当を作るのに手一杯だったので、息子はひとりでクローゼットのある寝室に行って着替えていた。

「きがえたよー」
明るい声に振り返ると、そこには黄色のTシャツを着て黄色のハーフパンツを履いた息子がいた。

あ、これおさるのジョージで見たやつだ……!

Eテレで土曜の朝に放送しているアニメ「おさるのジョージ」に、その名もズバリ「黄色い帽子のおじさん」という、全身黄色ずくめの登場人物がいるのだ。
脳内で黄色い帽子のおじさんが「やあジョージ!」と言うと同時に、これは息子なりのオシャレなのだということもすぐに分かった。

息子はピカチュウが大好きで、ピカチュウの黄色は一番好きな色だ。楽しみにしていたプチ遠足だから、好きな色の服を選んだのだろう。なんてかわいくいじらしいんだ。
うーん、かわいい。幼い息子の思い、大切にしたい。
でも目の前にいるのは真っ黄色マン……!

息子にどう言おうか、さまざまな考えが頭の中をめぐり、そして気づいた。
息子の保育園では屋外の活動時にクラスごとに色分けされた帽子をかぶるのだが、あろうことかそれも黄色なのだ。リアル黄色い帽子のおじさんが爆誕してしまう。

さらに、
今年はコロナ禍の影響で運動会などの主だった行事が軒並み中止になっている。
卒園アルバムにはこのプチ遠足の写真がたくさん使われるんだろう。
そこに写る黄色い帽子のおじさん。

……いやむしろ面白いじゃんそれで行こうよ、と悪魔が囁いた気もしたが、私は息子に言った。


「○○公園は草が伸びてて蚊もいるから、こっちの長いズボンにしようかー」


息子はちょっと考えたあと、納得したのかすぐにズボンを履き替えた。

そう、私は黄色づくしのコーディネートの問題を、ズボンの丈というTPOの問題にすりかえたのだ。
我ながらずるい、いや高等なことをした。
すりかえすりかえすりかえチェーンジ。にゃっはー。

息子よ、君の自立心は大事にしたいけど、母ちゃん見栄を取ったよ。すまんね。でもあまりに黄色いんだもん。

そんなこんなでプチ遠足は無事終わり、息子はとても楽しかったようだ。
たくさんお話してくれたし、早速保育園のサイトに写真もアップされた(保護者だけが写真を見られるようになっている)。

黄色い帽子とTシャツに、グレーのズボンを履いた息子の写真を見ながら、あの日の黄色いおじさんを思い浮かべた。
君がみんなに見せたかった姿は、私がちゃんと覚えているからねと思った。


決めた方針が揺らいだり、頭では分かっているつもりでも全然行動に結びついてなかったり、育児はままならないなあと最近よく感じる。
その「ままならなさ」が、丸ごと人間のおもしろさなんだろう。
子供は親の思い通りになんかならないと肝に銘じつつ、私は私が大事だと思うことを伝えていくしかないと思っている。



そして、コーディネートの概念は大事だとよく分かったので少しずつ教えていきたいと思います。

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