上エ地圭二について・雑記

上エ地圭二について、もにゃもにゃと考えていることがある。

上エ地圭二とは
漫画「ゴールデンカムイ」に登場する、金塊の隠し場所のヒントとなる暗号が彫られた脱獄囚、通称「刺青囚人」の一人。顔を含む全身に入った自作の刺青や、細かい三つ編み、派手な帽子など独特のファッションが特徴。

「上エ地圭二は何の為に生きていたのか?」
物語上の役割・立ち位置ではなく「上エ地圭二」一個人として、彼が何の為に生きていたのか、ということをぼんやりと考えている。
「人のがっかりした顔を見るため」
以下に記述する文章はあくまで個人的な解釈でしかないということはご留意いただきたいのだが、私はこれは解ではないと考えている。

無二の友であった犬のジローの失踪(=死)が上エ地の人生の転換点となったことは言うまでもない。父親がジローを殺害したと確信した上エ地は自らの顔に刺青を入れ、「がっかりした顔」を見る快感を知る。

「天から役目なしに降ろされたものはない」
これはゴールデンカムイの作中でしばしば語られるアイヌの諺であり、物語自体のテーマの一つになっていると思われる。
「役目」とは?
人間社会においてはおそらく、「居場所」「生きる意味」「生きる価値」と解釈することも可能だろうと考えている。
かつての居場所を失い、旅をしながら藻掻いている杉元、民族の未来を守るという役目を見出したアシㇼパ、「アシㇼパを祖母の元に帰す」という役目を見つけた谷垣……他にも役目を果たすために走り続ける者、役目を果たして散って行く者など。ゴールデンカムイの登場人物には、この諺を知る知らぬに関わらず、根底にこの考えが根差している気がする。


では、上エ地の中にも「天から役目なしに降ろされたものはない」の考えがあったのでは?
そう仮定した上で冒頭の疑問に向き合ってみる。

上エ地は何の為に生きていたのか。
それに対する私の答えは「自己否定」である。
上エ地に役目があるならば、上エ地を形作ったジローの死には意味があったということになってしまう。ひいては、父親がジローを殺害した(真偽は不明だが少なくとも上エ地はそうだと思っている)ことにも肯定的な意味が付与されてしまう。
ジローはあなたのために死んだのよ。
お父さんはあなたのためにそうしたのよ。
全部あなたのためよ。
だってあなたには役目があるんだから。
そんな事を言われたとして、溜飲を下げられるだろうか?

だから、上エ地はそれを否定しているのではないだろうかと思う。
背理法のようなものだ。
結論が間違っているのだから、仮定が間違っているのだ。

ジローの死には意味があった。
ジローが死ぬ必要なんてなかった。
お父さんは僕のためにジローを殺した。
父がやったことは残虐で非道で、許せぬ行為だ。
僕には役目がある。
じゃあ今の僕はどうしてこうなったって言うんだ?


だから、僕には役目なんて、価値なんて、存在しない。


上エ地はジローの死に意味を持たせないために、自分自身を否定し続ける必要があった。
自分に向けられる失望の顔は、自分に価値のないことを示してくれる。
刺青を入れる痛みは、父に従うしかなかった少年時代の弱い自分を消し去ってくれる。
手に持った縄は、過去の自分を縊り殺してくれる。
彼は暗号の刺青を塗り潰したことでウイルクに与えられた「金塊の在り処のヒント」という役目をかなぐり捨てた。自分に役目などない、自分はエラーであると世に知らしめることでジローの死を、父親を否定した。
二度と帰らぬ友と、もう後戻りのできない自分。
生きるために自分を否定し続け、自分を否定するために生き続ける。

「上エ地圭二は何の為に生きていたのか?」
「自分に価値が無いことを証明する為に生きていたのではないか?」

「道化囚人」上エ地圭二のおどけた笑みの奥には限りない自己否定があったのではないかと、私はもにゃもにゃ考え続けているのである。


ここまでお読みいただきありがとうございました。
「ゴールデンカムイ」の中で一番好きなキャラクターである上エ地圭二について最近考えていることをわぁーっと書いたので何とも取り留めのない文章になってしまいましたが、鉄を熱いうちに打っておこうと思った結果です。本当に申し訳ない。

上エ地と「役目」について考えていたらこういう着地になりました。
もしこの解釈が合っていたら、暗号の仕組み(全部なくても解けるよ)を示す、読者にとってはそこそこ大事な「役目」を背負わされたというのはなんだか皮肉な話です。
まあ何が言いたいかって上エ地圭二がめちゃくちゃ好きなんですよね。
めっちゃ顔可愛いから。

以上、かえるでした。
2024/5/16

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