読書記録:生命式

グロテスクな内容が含まれます

村田沙耶香さんの書く本は、お前や社会が抱いている常識や価値観、"普通"なんて脆くて残酷なものだと、内臓や生殖を通してまざまざと見せつけてきて好きだ。それらは生物として切り離せないけれど、近代の人間として、動物でない人間を求めている社会にとって、生生しいとして避けられているもので、それを通して表現しているのがごちゃまぜになって嚙み合わない感覚を表していると思う。

今回の生命式では、その"普通"の変化に取り残された人間が苦悩する様や、変化する様を描いた短編がいくつか収録されていた。他にも、その普通に染まれずに普通を演出している短編も入っている。

生命式
葬式の形が、故人を食べてその葬式で出会った人と生殖行為をすることで命を繋ぐという形に変化した話。
自分の死体はどんな味がするのだろうか。運動はある程度けど、脂肪が多い印象だから豚バラ肉みたいかもしれない。タバコとか吸うとお肉ににおいが移りそうだから嫌だな。自分だったらどんな風に食べたいだろうか。ハンバーガーにしてジャンクに食べてもいいかもしれない。
食べてる途中で、その人のことを思い出して吐き出しそうである。銀の匙と同じで、名前を付けて飼った豚を食すようなものなのだろうか。何故、その個体について知っているだけで、人間って食べることに拒否感を覚えるのだろう。仲間意識があるから?
この短編では、逆に友人だけを自発的に食した。

孵化
周りの調和を乱さないように、人格を何個も形成してきた人の話。
周囲が求めているように振舞うことを求められることがあったので、身の回りにもいそうだなあと思った。コミュニティごとに、ある程度性格が変わってくるのはよくあることだと思う。立ち位置とかあるし。この人の場合、メインのコミュニティが変わっても、昔のコミュニティとの繋がりを切らなかったから、人格というか性格がいくつもできてしまったのではないのだろうか。体力と人に合わせて対応を考える賢さ、器用さがすごいなと思った。

素晴らしい食卓
食事とはその人の文化だとして、それぞれの文化を大切にする人たちと全部に迎合する人を描いた話。
自分の確かな価値観を持たないはツヨイんだなと思わせられる作品。セミナーが好きで、ハイソなものが好きな夫がいい味を出している。価値観を変えるスパンが早い。それに本当に、色んな”文化”を食したのがすごい。それぞれが気持ち悪いと思っているものを全て食したことで、それぞれの”文化”から異物として扱われていたのが面白かった。自分が受け入れられないものを受け入れられる人は異物なのだ。自分が受け入れているものは他人に受け入れるよう強要するのに。

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