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あなたたちに花束を

8月12日。私は多分生まれて初めて、自分自身のために花を買った。それは何か嬉しいことがあったからではなく、強いて言えばその日「POP×STEP!? TOUR 2020」のツアーの8月分の中止がお知らせされていたからだった。

状況的に行われるとは到底思えなかったけれど、どれだけ覚悟していても中止という二文字はいつだって厳しい。私はこのご時世に長距離移動を含む遠征は不可能だと判断して既に北海道公演の払い戻しの手続きを済ませていたけれど、それでも中止になったライブに行けるかもしれなかったファンたちの気持ちや、何よりライブを行おうと尽力してくれたSexy Zoneのことを考えるとやりきれない思いだった。
そのやりきれなさをどうにか慰めようと、花を買った。セクラバ、事ある毎に花を買っているイメージがある(風評被害では?)。
縁がなさすぎて花の買い方が分からない人間だったのでちゃんとした花屋さんに足を踏み入れるのは何だか気後れしてしまい、スーパーの1コーナーで売られている一束350円の花を買うことにした。時期が時期だけに仏花を買ってしまいそうだったが、何となく心を慰めてくれそうなオレンジのカーネーションを無事購入して、スーパーを出たときだった。

手癖で開いたTwitterが、見たことのないざわつき方をしていた。ぬか喜びをしないようにTLを遡って、あらゆるメディアからそのニュースが告げられているのを見て、私は愕然としてしまった。

聡ちゃんが、復帰する。

全然そんなつもりはなくて、ただ新聞紙に包まれただけの350円のカーネーションを手にその場に立ち尽くしてしまった。人が人生初の経験でほのかに心を慰めているうちに、どえらいニュース来てるやんけ。

私は2018年の紅白で初めてSexy Zoneに興味を持った人間なので、この日までリアルタイムで5人揃った彼らの姿を見たことがなかった。いつかはそういう日が来てほしいな、と思いつつ、それがいつになるのだろうと期待することすらも回り回って彼の負担になってしまいそうで憚られるような気がしていた。
慌てて家に帰り、FC動画を見て、『5人のSexy Zone』が並んでいるところを初めて目にした。目頭が熱くなったり胸が熱くなったり忙しい動画だったし、安定して治安の悪いツッコミも秩序も不在のトークに微笑ましくなった。

5人での活動は、今後少しずつ再開させていくらしい。最初は会報の撮影とかになるのかな?と思うし、いつか、そう未来のいつかにまた5人のSexy Zoneで彼らが何かしらの番組に出たり、ライブをしたりと無理のないペースで活動が再開されていくといいなと思う。今の世の中と同じだ。今すぐに劇的に変わることはないし、きっと何もかもが完全に元通りにはならないだろうけれど、それでも未来への展望は消えていない。そう思うと心が温まる。

発表のタイミングにも思うところはあった。私は汚い大人なので、メンバーの復帰が決まっていたら安直にシングルの発売の前後に重ねて話題性を求めただろうけれど、彼らはきっと自分自身の意志でそれをしなかった。
すごいな、と思った。利になるやり方も、巧いやり方も、いくらだってあっただろうに、敢えてそれを選ばずにただファンを喜ばせるためにこのニュースを知らせてくれたSexy Zone。しみじみと彼らを好きで良かったなぁ、と思う。

350円のカーネーションじゃこの喜びを昇華するには役者不足だと思い、次の日今まで前を通り過ぎるだけだった近所の花屋さんに初めて足を踏み入れた。昨日はあれだけ気後れしたというのに、これだけ嬉しいことがあると人は未知に挑戦することを恐れなくなるんだな……と思った。オタクなのでただ花屋に行くだけのことを大げさに言ってしまう。
しかし人生で初めて自分のために花を買った次の日に、また花を買うことになるとは思わなかった。緑をメインに花束を作ってくれというやりづらすぎるリクエストに応えていただいて本当にありがたい。喜びのあまり一人きりの部屋で花束の写真を撮ったりした。

この嬉しいニュースがあってから数日経ち、また状況も変わってきた。年内のすべてのライブが中止になり、ライブが配信されることになり、中島さんと電話が出来る夢女子生成機みたいな企画が始まったりした。世界、始まってるな……。

私は相変わらずゆるっとSexy Zoneのファンをやっている。キャパシティが小さいのでやっぱりすべての供給を受け止めることはできないし、雑誌もラジオも追うことはできていないままなのだけれど、それでも彼らのファンである自分について、胸を張って生きていこうと思う。いつか来る、エンタメの春を満面の笑みで迎えるために。