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どんぐりと山猫と往復はがき
2週間前のこと。郵便屋を早期退職した友人に、往復はがきを100枚もらった。はじめわたしは「メール魔なのではがきをもらっても使わないよ」と言ったが、友人は「遊びでもいいから使ってみてよ」とのこと。遊ぶ物には困っていないし、なにより要らないものは部屋に置きたくないと言うと、友人は寂しそうな顔をして口をつぐんだ。郵便屋を早期退職したとはいえ、彼の飯の種の象徴のような物を要らないなんて言うべきではなかった、とわたしはすぐに後悔し、「うそ、うそ」と急いで冗談のニュアンスをつけくわえ、包みを受け取ったのだった。
家に帰ってカルピスをのみベッドに腰かけて、往復はがきをとりだした。往復はがきはふつうのはがきが二枚、「往信」と「返信」がおもてうら逆にくっついた形をしている。
思い立って、往信の裏にフレッド・アステアの絵を描いてみる。手元にある古いキネマ旬報がフレッド・アステア特集だった。模写というよりはユニークな線画という感じで集中して描いてみると、出来が悪くない。誰がどう見ても、あのおでこが可愛くて目がくりくりした、お茶目なアステアだった。空きが真っ白でさびしくなり、なにか文字を書いてみることにする。目的もないのに文字を書いたのは、最後がいつだったろうか?
あなたは、ごきげんなよで、けつこうです。
わたし、あやしもので、ありません。
さんがつみつかに、いのかしらこおえんで、あいましよう。
すてっき、もたないでくだはい。
あすてあ 拝
と、書いて、わたしはロマンのあるはがきが仕上がったことがわかって満足する。もちろん、「どんぐりと山猫」のパロディだ。
それからわたしは、返信はがきのうらに
しゆうせき・けつせき
ごほおめい:
と書いた。そして返信の宛先に自分の住所を書き、往信の宛先にでたらめに井の頭線沿いの住所を書き、ポストに投函した。
* * *
二週間ほどたつと返信が戻ってきた。「けつせき」に丸がついて、「ごほおめい」には「じんじや・ろじやす」とだけあった。
(文・すいーとめもりー)
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