「ヤクザの息子だけがお嬢様の秘密を知っている」第3話


教室の中で多くのクラスメイトがザワついている。
その様子を見て、優瑠の机の対面に座っていた柊夜が首を傾げた。
柊夜「今日は一段と騒がしいですね」
優瑠「教室に入ってきたら不良とお嬢様が対面してるんだから そりゃ驚くだろ」

ヒソヒソと優瑠達から離れて話すクラスメイト達。
クラスメイトA「おい なんで西条院さんがあの不良と!」
クラスメイトB「まさか 脅されてるとか...」
クラスメイトC「でも さっきからなんか仲良さげだし...」

大きく溜め息をつく柊夜。
柊夜「はぁ...」「聞こえないと思っているのでしょうか」

単語帳を閉じ、頬杖をつく優瑠。
優瑠「昨日まで接点がなかった二人がこうして顔を突き合わせてる時点で 話題にはなるだろ」「ただでさえ 俺らは別方向で有名なわけだし」

クラスメイトに視線を移すと、皆が一斉に怯えたように目を逸らす。
優瑠「友達云々はもういいが」「そういうのは放課後限定っていうのもいいんじゃねぇの」

柊夜がそれを聞いて肩を竦める。
柊夜「放課後だけで親睦を深められると思っているのですか」
優瑠「なんで俺が説教されてる雰囲気を出してんの?」

柊夜が優瑠の置いた単語帳を指でいじる。
柊夜「私は周囲の目を気にして生きていたくはありません」「己の行動が他者によって縛られるなど 窮屈以外の何ものでもありませんから」

優瑠は押し黙り、柊夜の顔を見る。
柊夜「そもそも 顔色を窺って行動するような人達と共に行動しても得られるものはありませんよ」

頬杖をついて、優瑠は考え始める。
優瑠(こいつは 今までの現状に満足していなかったのかもな…)

楽しそうに会話していたクラスメイトと柊夜の回想。
モノローグ「西条院が中心の会話」「基本的に周囲は西条院に色々な形で近づこうと下心がある」

もう一度背もたれにもたれ掛かる優瑠。
優瑠(んで 西条院はそれを嬉しくは思っていなかった)(だから気兼ねない友人がほしかった…ってことか?)

もう一度喋り始める柊夜に「ん?」と反応する。
柊夜「だからこそ 竜胆さんとは元から仲良くしたいと考えておりました」

柊夜が嬉しそうな見蕩れる笑みを浮かべる。
柊夜「あなたは 私を私としてちゃんと見てくれそうだと思っていましたから」

一瞬だけ呆けたような顔を見せたあと、優瑠は気恥ずかしそうに顔を逸らす。
優瑠「…そりゃ 顔色を窺う必要がないからな」
柊夜「ふふっ もちろんあなたと私が似たような境遇《ふりょう》というのもありますが」

柊夜が優瑠に顔を寄せてスマホの画面を優瑠に見せる。
柊夜「それより見てください」「見事なローキックではないですか?」
優瑠「ほぉー」「綺麗に太ももに入ってんな」

楽しそうな柊夜と、画面に興味を持つ優瑠。
柊夜「これ 喧嘩する時にかなり有効打になると思うんです!」
優瑠「身長高い相手とかだと入りやすいしな」「ってか これ誰の動画?」
柊夜「オーチューブに載っていたのですが───」

楽しそうな柊夜を横目に、優瑠は微笑ましそうな顔をする。
優瑠(確かに こんな顔は見たことねぇな…)

頬を膨らませる柊夜に苦笑する優瑠。
柊夜「───って 聞いているのですか?」
優瑠「聞いてるよ」

ザワつくクラスメイト達をバックに、優瑠はもう一度柊夜を見る。
優瑠(騒がしいのは 大目に見てやるか)


第1話のシーン④で訪れた廃墟の入り口で単語帳を開きながら立って待つ優瑠。
そして、そこへ声をかけられる。
モノローグ「───放課後」
柊夜「お待たせしました」

現れた人を見て、優瑠は怪訝そうな顔をする。
優瑠「...なぁ」「その服装は必須なのか?」

廃墟の入り口からマスクをつけたスケバン姿で現れる柊夜と、恨めしそうに柊夜を見る美奈。
柊夜「もちろん必須に決まっているではありませんか」
優瑠「隣の子の顔を見た方がいいぞ」

頭を搔いて二人に近づく優瑠。
優瑠「んで なんで俺までお前の喧嘩について行かなきゃいけないんだ?」

柊夜は嬉しそうに胸を張る。
柊夜「もちろん お友達だからです!」
優瑠「............」

近くを見渡す柊夜。
柊夜「そういえば 竜胆さんの後輩さんの姿が見られませんね」

大きな溜め息をつく優瑠の横で美奈が小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
優瑠「…お前の今の姿を見せるわけにはいかねぇだろうが」
美奈「そもそも あいつが来たらそっこーで死にやがりますよ」

両手を合わせて子供らしい笑みを浮かべる柊夜。
柊夜「まぁ いいです」「であれば 早速向かいましょう!」



夕暮れ時、人気の少ない住宅街の中にある廃墟の前で一台のリムジンが停まる。
そこから柊夜、美奈、頬を引き攣らせる優瑠がゆっくりと降りてきた。
柊夜「着きましたね」
優瑠「…どこの時代だよ」「呼び出しにリムジンで向かうスケバン女子」

振り返って不思議そうに首を傾げる柊夜。
柊夜「隣町に行かなければならないのに 電車で行くとなると絵面が…」
優瑠「それこそ お前の好きな不良はバイクじゃねぇの?」

きつく優瑠を睨む美奈。
美奈「お嬢にそんな危ない乗り物の免許を取らせられるわけないじゃないですか」
優瑠「なら まず危ないことをやめさせろよ」

外壁がところどころ剥がれ、コンクリートの壁と柱が剥き出しになっている廃墟の中をゆっくり歩く三人。
優瑠「にしても 地区を制覇した『女帝』様はすぐに別の地区を潰しに行くんだな」「狙うは東京制覇か?」
柊夜「そのようなことは考えていませんよ」

前を歩く柊夜が振り向く。
柊夜「お誘いされましたし」「喧嘩ができますので 足を運ばない理由はありません」

それに、と。至極真剣な顔をする柊夜に真顔でツッコミを入れる優瑠。
柊夜「同じ地区制覇をした竜胆さんが喧嘩をしているのも 私と同じ理由なのでしょう?」
優瑠「戦闘狂《バトルジャンキー》と一緒にしないでくれる?」

ボロボロの階段を上がる三人。
柊夜「そうなのですか?」
優瑠「絡んでくるから喧嘩してるだけだ」

次の階上がった途端、女不良が声をかける。
優瑠「まぁ 嫌いってわけでもねぇし」「あながち否定はでき」
リーダー「ようやく来たな 『女帝』」

スケバン服ではなく、たありきたりな学生服を着崩している女不良達の集団の姿。
その集団から一歩前に出てバットを肩に担ぐ金髪のリーダー。
リーダー「最近ちょーしに乗ってるらしいじゃねぇか」「ここいらで一発お灸を据えさせてもらうぜ」

柊夜を見て優瑠は不良女子集団を指差す。
優瑠「いいか 西条院」「あれが本来の不良女子だ」
柊夜「やる気を感じられませんね」
優瑠「いや バッド持ってる時点でやる気はあると思うぞ」

見下すような目を、リーダーは柊夜から優瑠に向ける。
リーダー「しかしまぁ」「まさか男連れとはなぁ」

美奈は鼻を鳴らすと、集団の後ろに立っている大きな体躯をした不良の男に目を向ける。
美奈「あなただって男連れてるじゃねぇですか」

物静かに立っている男を振り向かず指さすリーダー。
リーダー「やっぱり 保険ぐらいは賭けとかなきゃいけないしね」

舌打ちをする美奈の横でゆっくりと肩を回しながら一歩前に出る優瑠。
優瑠「…………」

優瑠は一瞬で地を駆け、一目散に男の方へと突っ込んでいく。男は驚きつつも拳を振るったが、身を屈めた優瑠は華麗に躱し、顎目掛けて鋭い蹴りを放った。
そのまま白目を剥いて倒れる男を見て、呆気に取られる不良女子達。
優瑠「これはてめぇらが『女帝』に売った喧嘩だろ―――」

倒れている男を背後に、鋭い瞳を向ける優瑠の姿絵。
優瑠「ガキの喧嘩ぐらい 正々堂々とやれや」

悔しがって一歩後ずさるリーダー。優瑠の姿を見て口元を綻ばせた柊夜は一気に地面を駆けて不良女子の下へ突っ込んだ。
柊夜「やはり 私はあなたを友達に選んでよかった」

一番近くにいた不良女子の顔に拳を叩き込む。そこへ横から別の不良女子がバットを振り下ろすものの、柊夜がバク転で躱し、合わせ様に背後にいた不良女子の脳天へ蹴りを放つ。そして、バットを持っていた不良女子に迫り、もう一度振り下ろされたバットを蹴り飛ばし、顔を思い切り殴った。

「あっ!」「ぎっ!」と声を発しながら倒されていく不良女子達を見て呆然と立つリーダー。
リーダー(なん だよ...これ! 数はこっちが圧倒的に有利だったはずなのに!)

呆然としているリーダーの背後に柊夜の影が一瞬で入る。
リーダー「これが───」

リーダーの頭を柊夜が思い切り地面に叩きつけた。
リーダー「じょて...ッ!」

手を払い、立ち上がりながら白目を向くリーダーを見下ろす柊夜。
柊夜「...何か仰いましたか?」

その様子を、男の上に乗りながら苦笑いをしながら見る優瑠。
優瑠「...やっぱお嬢様とは思えんな」

美奈にタオルで汗を吹いてもらいながら口にする柊夜。
柊夜「先程はありがとうございました」
優瑠「あ?」
柊夜「その男とも喧嘩してみたかったですが」「女同士の喧嘩には無粋なものでしたので」

柊夜達の横を通り過ぎて外へ出ようとする優瑠。
優瑠「余計なことじゃなくてよかったよ」「邪魔されるのが気分悪いっていうのは理解しているからな」

いきなり目の前に手を握ってきた柊夜が現れて驚く優瑠。
柊夜「流石は竜胆さんですっ!」
優瑠「うぉっ!」
柊夜「私の気持ちを理解してくれるのは やはり竜胆さんだけですよ!」


リーダー達と同じ制服を着た少女達が楽しそうな会話をしながら薄暗い住宅街の道を歩いている。
女子A「でさー 昨日うちの彼氏がー!」
女子B「えー!」

ふと、身長が高い肩口まで切り揃えた少女(司馬久遠《しば くおん》)が通り過ぎようとしていた廃墟前に「ん?」と視線を向ける。
そこには、柊夜が腕に抱き着き、煩わしそうにしている優瑠と面倒臭そうに後ろを歩く美奈の姿があった。
柊夜「竜胆さん! 次は竜胆さんの喧嘩が見てみたいです!」
優瑠「俺は絡まれねぇとやらねぇ...ってか さっさと離れろお嬢様!」

久遠が立ち止まって思わず呟いた。
久遠「...坊ちゃん?」

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