幸福の紅葉

私が幸せだと思うのがどんな時か知ってる?

と彼女に聞かれたことがある。
僕は、普段の彼女を想像した。  

彼女は食べることが好きだから、
お腹いっぱい美味しい料理を食べた時?
切り花を買ってきて花瓶に生けてる時?
2人で映画を観てる時?  

いくつ言っても首を振るばかりだった。
もうわからないや、と降参し、
正解は?と聞くと  

全部ハズレ。
貴方の腕のなかで眠ってる時だよ。
眠るときってね、その日に起きた出来事を振り返る時間なの。だから、何も考えずにただ貴方に包まれている瞬間が好きだったの。

僕は当時、一度だけ彼女を不安にさせたことがある。職場の女性の先輩と飲みに行ったと言わずにいて、しかも何度も飲みに行っていたのを知られてしまったことがあった。

僕よりも年上で恋愛経験もそれなりにあって、なんなら、浮気のひとつやふたつ、軽く受け流してくれる性格の女性だろうと思っていた。
詳細は省くが、断じて浮気はしていない。  

けれど、彼女は言った。  

私に言えなかったんでしょ?
それが悲しかったんだよ。

僕は何も言えなかった。
"友達と飲みに行く"と彼女に嘘をついていった僕。
先輩とはいえ女性。2人だけで飲みに行って。
しかも、先輩は、彼女がいることを知りながら、僕に好意を持っていた。男って馬鹿だから、好意を持たれたらむげにできないんだよね。先輩だったし。

先輩の気持ちを知りながら、断らなかった僕の落ち度ではあるかもしれないけど、正直そこまで悪いことしてるか?と僅かに思っていたのは事実。

謝りはしたものの、自分の中で飲みに行くのくらいいいだろう、と思っていたし、浮気=どんなこと?みたいな境界線談議もめんどくさいと思っていたから。  

彼女は、悲しかった、と普段よりもか細い声で言って、それ以上その話題をだすことはなかった。実際、あの時、彼女のなかで僕との関係を考え直すきっかけになったのかもしれないと今では思う。だって、それまでは喧嘩もなく、仲良く過ごしていたと思っていたから。僕にはわからなかった。  

あんなに生き生きと青く枝先についていた葉が、様々な色に変化していく様を見て、私たちみたいだね、と真っ赤に染まった紅葉がひらりと落ちた時に言った。  

なんか、苦しいや。

これは、葉が色づき始めた季節の話だ。

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