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「うるわしの宵の月」やまもり三香⁡

書物巡礼
2022.3.8


「ひょろりと伸びた体躯
やや低めの声
親譲の男顔
瀧口宵 高校1年 性別、女。」

「べつに女子がみんな淑やかである必要なくね?たまには王子っぽい女の子がいたっていいでしょ
実際さっきのアレ、めちゃくちゃトキめいたし、オレ」

「んだこれ
心臓やっべぇ」

「私、先輩にちゃんと好きになってほしいって思ってる」


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学生時代の恋は蜃気楼。
遠く揺らめく景色。惹かれ近寄ると姿はない。もう実体化することのない恋愛のカタチ。
好きと嫌い。その2つだけを天秤にのせていたひととき。

今思えば、拙かったこと、随分と相手にひどいことをしていたと思うこと、色々あるけれど、
総じてかわいい日々であった。
懸命にまつ毛を上げて、慣れないヒールを履いて、普段しないお菓子作りなんかして。
彼に会いた過ぎて授業やバイトをサボってしまった時のあの背徳感も、デートの日に限って変なところにニキビが出来て泣きたくなったあの自己嫌悪感も。
必死に、文字通り命懸けで誰かを想って生きていたあのひたむきさ。

大人になっても純粋に誰かを好きになりたいし、そうであるつもりでいても、10代のあの頃と同じにはもう愛せない。
衝動的感情に突き動かされていた懐かしい私を、「うるわしの宵の月」を読んで最近よく思い出している。

容姿端麗、高身長、「王子」と称される高校1年主人公、宵。その宵が口説かれているのは同じ高校で2年の琥珀、あだ名は「王子」。
"女の子らしさ"から縁遠かった宵が琥珀の出現で少しずつ変化する心もよう、そして欲の無かった琥珀が「初めて欲しいと思った」宵と出逢い、知っていく"人を好きになる"ということ。
ピュアで胸キュンでありながらも、甘ったる過ぎない心地良さは主人公宵のイケメン(女の子だけど)ぷりのおかげであろうか。
私は絵がどタイプでジャケ買いしたのだけど、ストーリーもステキだし、宵ちゃんの「ザ・女の子、と縁遠い自分」という自己認識に共感も出来て(宵ちゃんも空手やってたし)、彼女が少しずつ「女の子」な表情になっていく様に嬉しくなると同時にちょっと刺激もされている単純な私。

蜃気楼はここからどんな景色へ変貌するのか、蜃気楼を眺める私にどんな現実を恋していくのか。
お互い見ものですな。

#読書
#やまもり三香
#うるわしの宵の月
#書物巡礼

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