日本人女性の痩せすぎは危険信号
日本は、先進国なのに健康が心配されるほど痩せている女性が多い国です。なぜでしょうか?
日本人女性の痩せは突出
海外在住者が日本に一時帰国すると、日本女性が痩せていることに気付く人が多いと思います。カナダでMサイズを着ている私は日本の既製服はLサイズ以上でないと入りません。以前テレビで、日本人女性の体形がスリム化し、それに合わせてマネキンも細くなったというマネキン製造会社の話を聞いたことがあります。
日本人女性の痩せは世界的に見ても突出していると言えます。痩せの基準はBMI18.5以下で、日本では憧れのシンデレラ体重と言われていて、多くの日本人女性がこの値以下に存在します。グラフのように日本の成人女性の約10人に1人が痩せであり、それは見た目を気にすることで有名な韓国を上回り、貧困ランキング2位のナイジェリアと等しいという状態です。特に、20代女性においては、5人に1人が痩せに該当するそうです。
日本人女性が痩せているのは「食べない」からです。以前日本からカナダに、当時50代の友人が遊びに来て小食なので驚いたことがあります。20代女性はもっと過酷にダイエットをしており、1日のエネルギー必要量は20代女性で2000kcalですが、実際は1600kcal程度しか摂っておらず、戦後の食糧不足時の摂取カロリーさえも下回っており、豊かな国であるはずの日本で栄養不足が懸念されています。
痩せているのに痩せたい
日本では太っている人を揶揄しても良いという風潮があり、特に女性の外見に対する社会的な圧力が強く、多くの女性が痩せることを目指す結果となっています。このような状況は、日本の男女平等ランキングが低いことや、多様性を受け入れない文化にも関係があるのではないかと私は考えます。私は子どもの頃からぽっちゃり体形だったのですが、それに対して祖父や従弟、赤の他人からも心無い言葉を何度もかけられました。写真を見ると、そこまで言われないといけないほどではなかったのですが。
1970年代の日本の女優たちは現代の日本女性と比べて頬がふっくらしており、むしろ健康的に見えました。しかし、今の日本では、痩せていることが美しさの基準とされ、テレビや雑誌にはスリムな女性が溢れ、すでに痩せている一般女性でさえも過度なダイエットをしてさらに痩せたいと考えます。
2006年以降、世界中でファッションモデルの摂食障害による急死が次々と報告されました。そのため、各国で痩せすぎモデルの採用を規制したり、医師の痩せすぎではないという証明書の提出を義務付ける動きがあります。
(日本ではその動きは皆無です。)その最低ラインはBMI18程度だそうで、日本人パリコレモデルの冨永愛さんは当時それを下回っており、いくつかのショーは出演をキャンセルされたそうです。冨永さんはラーメンを年に1回しか食べないそうで、ダイエットの厳しさは想像以上ですが、日本人女性の多くがパリコレモデル並みの飢餓状態と言えます。
女性が社会的に痩せを求められる環境は、健康問題や低出生体重児の増加を助長しています。
低出生体重児は10%
過度な痩せ願望は、単なる見た目の問題ではありません。痩せているから健康ではなく、必要な栄養素が不足して、糖尿病や転倒・骨折の発症リスクが高まります。痩せすぎると疲れやすく、活力が下がり、若い人では妊娠しにくくなったり、閉経を境に骨粗しょう症にかかりやすくなります。私の周りでも骨粗しょう症になっている中年以上の女性がたくさんいます。
また、痩せた母体は2500グラム未満の低出生体重児を生むリスクが高まります。日本では、1975年には5.1%だった低出生体重児の割合はその後増え続け、2015年にはほぼ2倍の9.5%に達しています。OECD平均は6.5%で、日本は先進国の中では最多、OECD諸国の中でも最上位に位置します。
また、低出生体重児は、成人後に糖尿病や心筋梗塞などの成人病のリスクが高まることが知られています。飢餓状態の胎内環境では遺伝子スイッチが入り、栄養を吸収しやすい体質になるそうです。自分が生れたときの体重をチェックしてみるのも、将来の成人病リスクを知るためには良いかもしれません。
日本で、妊娠中に糖尿病や妊娠中毒症の予防のために、体重管理を強いられた経験のある人もいるでしょう。(カナダでは妊婦に太ってはいけないとは言わないようで、好きなものを好きなだけ食べている妊婦を見ると、これも違う気がしますが。)私は90年代に日本で子ども2人を妊娠出産しましたが、妊娠中は体重を増やさないようにと、妊婦検診のたびに厳重注意されました。現在ではすべての人を厳しい体重管理の対象に当てはめるべきではないということが分かり、2021年に、妊婦の体重増加についての基準が緩和されたそうです。
「太った?」や「丸くなったね」という無意識な言葉が、実は日本女性を追い詰め、ひいては次の世代の健康にまで影響を及ぼしています。自分の言動を今一度ふり返って考えてみる必要があるようです。
参考:日経BP, Beyond Health「若い女性の『やせ対策』が急務なワケ」2020.7.28 https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00003/061500126/?P=1, 男女共同参画局 低出生体重児の割合と過去25年の変化(国際比較)https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-00-30.html
この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2024年9月号に寄稿したものです。 ☞ https://torja.ca/kaede-trilingual-55
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