『World without Work』解説
せっかく作ったのだけれど、意外とあんまり聞かれない。1億回再生を目指してるんだけどね。
というわけで、ちょっくらこの曲を自分で解説しようと思う。
こういうものは、作り手のこだわりには誰も気づいてくれないのが普通だ。熱烈なファンがいれば気づいてくれたり、こだわったわけでもないところを深読みしてくれるわけだが、僕のような新人アーティストだとそうもいかない。
ならばセルフ解説をしなければならない。ソムリエの蘊蓄を聴くからワインは美味いのだ。音楽も同じだろう。
■サウンド解説
この曲のモチーフになった曲はいくつかある。
一曲はホンダのCMのBGM。チルで後ろ倒しのリズムを取るピアノ伴奏の雰囲気がエモくて、CMが流れるたびに聴き入ってしまっていた。
(本当はこのリズム感を再現したかったのだが、打ち込みで表現するのが難しくて、諦めた)
あとはこのあたり。
要するにピアノのリフを繰り返す感じでオケを作ってみたかったのだ。僕はこれまでギターロック畑の人間で、バンドでオリジナルを作るときもピアノを入れたことがなかった。なのでちょっとしたチャレンジであった。
コード進行は以下の通り。
いやらし過ぎず、単調すぎず、いいコード進行だと我ながら思う。ギターで弾くには地味なコード進行だが、ピアノなら様になる。同じコードでもこうも印象が変わるのか、という発見があった。
オケはピアノの伴奏とリフと、それにドラムとベースを合わせて、ほんのちょっとだけバイオリンを入れただけで、ほぼ素材の味で勝負している。本当はもっと効果音を入れたり、ボーカルのサンプリング音を入れたり、ヒップホップ感を出したかったのだが、やってもやってもしっくりこず、結局いまの構成になった。
ちなみに、オケはiPhoneに初めからインストールされてる GarageBandっていうスマホアプリで打ち込んだ。ボーカルはiPhone付属のマイク付きイヤホンで撮っている。
つまり、これくらいの曲ならiPhoneを持ってる人なら誰でも作れてしまうというわけだ。ほんと、いい時代になった。
■歌詞解説
さて、紆余曲折の末にオケにラップを乗せることにしたわけだが、僕は日本のヒップホップに影響を受けていて、フロウではなくライム重視でリズムを作っていくタイプである。
が、ライムしすぎると意外と単調になるし、かつメッセージ性も弱まる。タイトにライムする場面と、軽めにライムまたはライムしない場面を入り混ぜていくことで、ちょうどいいバランスになると思っている。その信念に従ってこの曲も作った。
この辺りはプロローグといったところか。なんとなくアンチワークなテーマを語るっぽい印象を与えつつも、軽めにaeの母音でライムしている。若干リズムがもたついているのはご愛嬌。
この部分はかなりドヤ顔で書いている。「た(だ)くろう」の同音異義語でライムしまくって、労働に疲れたサラリーマンの情景を描写している。自分的にもかなり高評価のリリックだ。
こういう同音異義語ライムはやっぱり好きだ。
急にメロラップっぽくなってまたラップに戻るようなパターンをやってみたかったのでここでぶちこむ。イメージはmu-tonだったのだが、そんなにカッコよくできなかった。
ここはデヴィッド・グレーバーの『負債論』とニーチェの『道徳の系譜』を意識して書いた。負債や金といった約束を忘れたとき、人はどんな約束を交わすのか。その余白を描写しやうとしたら、缶チューハイでオールするという大学生みたいな歌詞になった。
個人的にそこまで固い韻ではないものの、一晩中と缶チューハイとアバンチュールでライムしているのは気に入っている。
リフのメロディをなぞるだけの手抜きフック。でも仕方ない。色々考えたけどここに帰ってきたのだ。一周回って卵かけご飯が一番うまい、みたいな感覚である。
サビ感を出すためにボーカルはダブルで録って左右に振り分けた。あと、分かりにくいがオク下のパートも入れた。若干高音が出ていないが‥妥協した。
このサビは「パーティ わーぎ たいやつはホーミー」「なーり たーり これからはラッキー」と明らかに発音していない部分がある。
これはこの曲のサビを意識している。
この曲のサビは「感じ合うsurround 夜が明けるまで」という歌詞なのだが、明らかに「感じ合うサランドゥーがけるまで」と発音している。どう頑張って聴いても「夜」は絶対に言っていない。初めて聴いたとき「そんなんありかよw」と驚いたのと同時にその自由奔放っぷりにクールさを感じた。
そこで、歌詞に縛られないで発音するというパターンをこの曲で真似したわけだ。
「腹の虫が鳴り響きラッキー」というのは、腹が減った人に飯を振る舞う喜びを表現している。アンチワーク哲学の重要な概念である貢献欲を体現した歌詞だ。
みんなで歌える歌にしたかったのでシンガロングを入れた。ちなみにここから上ハモリが入ってくる。主メロ、3度上のハモ、オク下というORANGE RANGE方式である。
ここからは2番。どこにでもいける渡り鳥がダンスする光景、抱え込まずに自由な様、気まぐれに直線的でない人生。そういうアンチワーク哲学の雰囲気を伝える歌詞だ。
クラークの件は息継ぎが間に合わないのでKing Gnuっぽいエフェクトのコーラスで処理したが、本当は畳み掛けるライミング感を出すために繋ぎたかった。が、これはこれでサウンドにメリハリがあって悪くない。
ここはサン=テグジュペリの『人間の大地』を意識している。サン=テグジュペリマニアなら何をどう意識しているかよくわかると思う。
個人的に「攻略本なしで試行錯誤」というラインは一番気に入っている。
こういう畳みかけ感はFORKとかZORNの影響だと思われる。やっぱりこういう韻固いラップが好きだ。
労働の定義問題に関わる歌詞。収穫という本来は労働に分類されるような行為すら、自発的に取り組めば楽しいことを伝え、それを根拠に労働廃絶を訴えるのがアンチワーク哲学だが、ここでは複雑な議論を展開するのではなく、楽しげに収穫する雰囲気だけを伝えている。
R指定がやってそうな急に声をひっくり返すフロウをやってみた。あんまり上手くできた感じはしないが、まぁバリエーションが出たのでヨシとしている。
ちなみにメッセージ的にはここが一番伝えたいところかもしれないい。
ここも伝えたいポイント。だからライムも控えめ。投げやりだが、真面目に言っている。
ちなみに、ここは思いがけず娘の叫び声が入っている。サビへ向かっていい感じに勢い付けてくれたので、撮り直さずそのまま使った。
サビをもう一回。どうでもいいけど、なんでヒップホップはサビの歌詞変えないんだろうね?
2回目のシンガロング部分。冗長にならないようにフェイクを入れてみた。
シンガロングにフェイクを入れる曲は色々あるけれど、強いて言えばこういうところに影響受けてるかもしれない。
後半、midGでロングトーンをかます部分は声量不足を誤魔化すためにあれこれ音声を弄っている。実を言うと歌には自信がないのだ。
そしてそのままフェードアウトへ。
■余談
音楽ってその場のノリと楽しさをひたすらに追求する営みであって、そういう意味では非常にアンチワーク哲学的だ。今後ももっと音楽は作っていきたいのだけれど、いかんせん時間がない。ピアノで曲を作りたいのだ。
誰かフューチャリングしてくれればもっとやる気も出るかもしれない。どうだろう? あなたの中に眠るモーツァルトを叩き起こしてみてはいかが?
1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!