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【シーソーシークワサー 39 シナモンロールクエスト】

【シーソーシークワサー 39 シナモンロールクエスト 】

 そういえば、僕は彼女が何を好きなのか知らない。このところ1ヶ月ほど絢の部屋に入り浸っているというのに、だ。彼女の冷蔵庫には常時ストックしているものがあるわけでもなく、その日の気分で何かが入っている。もちろん、同じ食材もある。玉ねぎ・人参・長ネギ・じゃがいも・卵・鶏肉・豚バラ・ミンチ・納豆・牛乳はほとんど切らしていないようだ。



 彼女はすんなりと家事の一部を僕に託した。一宿一飯の恩義はすでに30泊30飯を過ぎた。マンションから一番近いスーパーよりも、500m歩いたところの業務スーパーの野菜の方が新鮮だとわかった頃だった。そろそろ、今後のこと話そうといううちに毎日が過ぎていく。主夫状態の僕を受け入れているのか、僕の打ち明けるタイミングを待っているのか、それとも僕のように、このままの状態をもう少しだけ噛み締めていたいと考えているのか、それは分からなかった。

 元々店の厨房のことも切り盛りしていたし、少しばかりの調理の知識はあったが、家にいる時間が長くなると、3日に1回のチャンプルーでは飽きてくる。そのうちに絢に教えてもらった献立アプリを参考に、節約とヘルシーを心がけてスーパーを巡ってみる日々が続いた。「食費はここから使っていいよ」という絢の言葉に、「まだまだ貯金があるから、せめて食費だけは出させて」と強がってみても、働かざるは減っていくことは目に見えていた。

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