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セルフしつもん読書3『雪沼とその周辺』堀江敏幸


【本日出来上がったの魔法のしつもん】

 Q. 日常でない行為の場はどこにありますか?


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 本棚から飛び出して、バスルームの外の棚に並べられていた本の中で、ついに半年以上開かなかった本。それが『雪沼とその周辺』でした。
 この本との出会いについては、よく覚えています。どんな書き方をすればいいのか、どこに向かって書いていけばいいのか悩んでいた頃(今でもそれはぶり返すのですが)、私は出会う人、会う人、誰でも彼でもに、好きな著者とその作品を聞いていたのです。よく行く珈琲店のカウンターに隣り合わせ、目が合うや否や、ニコニコしながら「どんな本を読まれますか?」と聞くのですから、変な人だなとお思いになったことでしょう。
 ある日、隣り合わせた若い女の子が「堀江敏幸さんが好きです」とおっしゃった。可愛い笑顔に、その場でクリック、即購入。
 お察しの通り、そうしたはいいが、私が素直なのはそこまで。1ページ開いた次の日には、また別の本を購入していました。
 そんなことを続けておりましたら、いつの間にやら、本棚は溢れ返りました。すぐに読了する本、なんだか乗らない本に分かれていき、しばらくするとブックオフに持っていくということを繰り返していました。あの時は、自分がどこにいて、何をターゲットにする作品を作りたいかも分かっていないまま、闇雲に走っていたのです。(あー、類稀なる怖いもの知らず。そして今でもその傾向はある)


頭の中にあるイメージを外に出してしまわないかぎり作業を進めることができない。『雪沼とその周辺』(河岸段丘)より

 

 ようやく私は今夜、雪沼という町に旅をしました。紛れもなく架空の場所。街ではなく、町。そこに暮らす人の姿が見える。章ごとのタイトルからも、町の情景が浮かぶ。そこを訪れ、静かに筆を運んでいる著者、堀江敏幸さんの姿さえ。


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 とどめは、ラストの池澤夏樹さんの解説(ご本人は「解説というより付録と思って」と述べておられますが)。すっかり復習になってしまいました。まるで雪沼に旅したあと、帰宅してからも、写真をうっとりと眺めているように。


 小さな寂びた町。章を追うごとに、場所が介在していく人々の距離感とそれぞれのストーリー。それはあくまでも静かに起こっています。雪の積もった朝の静けさに似た町なのです。

 読者の私にとっては、あてもなく鈍行で旅をして、誰も知らないような無人駅で降りたような感覚。私だけが知りえた町。SNSにも投稿せず密やかにおいておきたい記憶の中の町。ふらりと入った洋食屋で美味しいオムライスを食べ、「また来ますね」と言ったものの、いつの間にか歳をとってしまって、写真だけを見返して懐かしむ行為そのものでした。


 一冊の小説を読むというのは、その間だけ別世界に居を移すことである。(「解説 しばらく雪沼で暮らす 」池澤夏樹より)


 小説を読むという目線で、書き手も最後の最後まで諦めずに仕上げていけたならいい。設計にも似た緻密な作業になることを覚悟しながら、出来ることなら、それ自体を楽しめるようになるまで。



しつもん読書会
認定ファシリテーター 香月にいな



では、わたしなりの答えを


A. 創作している時。それは、日常では無い行為の場。日常とも密接に関わる心の中にあるのかも。恋にも似ている。


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