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批判理論としての民俗学

批判理論としての民俗学(Critical Folkloristics)という分野が実際にあるのでしょうか。アメリカ民俗学ではそのような特集がなされたことがあるので存在しているとも言えますが、日本では実体はありません。しかしD.グレーバーがアナキズム人類学の実在について述べたと同じように言うならば、批判理論としての民俗学はまだ(日本に)存在してはいないけど、事実上既に存在している、と言うことができるでしょう。というわけで、2024年後半、下記の授業を行っていますのでシラバスを転記します。

文化人類学特殊講義(批判理論としての民俗学)
【授業の目的】批判理論とは一般的にはフランクフルト学派にルーツを持ち、不平等性を生み出すイデオロギーや権力構造を批判的に分析することで、社会の変革を目指す理論と理解できます。ジェンダー研究やレイシズム研究にも通じる批判理論と、民俗学との繋がりをすぐにイメージすることは困難かも知れません。実際民俗学は、現実政治や社会において周辺的な(重要ではない)事柄を扱っている学問、と見なされているからです。

しかし、この世界に本質的に些末で「周辺」的な存在があるわけではありません。何らかの人・場所・歴史などの存在が、様々な権力関係のなかで「周辺」化されているのではないか、と考えることもできます。アメリカで議論が重ねられてきた「批判理論としての民俗学」、あるいは「批判的民俗学」(Critical Folkloristics)は、マイノリティの文化的実践を主たる研究対象に、「周辺」化を促す権力構造をあぶり出し、「周辺」化された存在の主体性回復を試みる公共民俗学的な色彩を持ってきました。

この授業では、現実社会の課題に様々な形で対応しようとする、日本、アメリカ、ヨーロッパなどの新たな民俗学の潮流を学びます。「批判理論としての民俗学」は、いまだ形の定まっていない未成の研究分野ではありますが、「私たちの日常」をベースに社会的課題に応答しようとする、若い世代の民俗学者によるエスノグラフィーが生産されています。他方で、批判性という観点で日本の民俗学の古典を振りかえると、意外にも社会変革を語った研究を掘り起こすことができます。授業では新旧のエスノグラフィー(民俗誌・民族誌)を読みながら、民俗学の立場から、「別様でもある世界」を探究する視座を得ることを目標とします。

【キーワード】オルタナティブ 文化運動 エスノグラフィー ユートピア思想

【授業計画】なぜ民俗学を批判理論として読む必要があるのでしょうか?民俗学はもっと「楽しい学問」であってもいいのではないか、という考えもあります。しかし、批判的民俗学という新たなジャンルは、20世紀末以来、「民俗学は社会とどう関わるべきか」という学問の存在意義に関わるラディカルな自問の中から生まれてきたものです。単なる権力批判ではなく、かといって権力に迎合する学問ではない民俗学独自の批判性について、以下のトピックに関する文献を取りあげる予定です。

・批判的民俗学と「周辺化されたもの」
・ディープフォークロア
・政治意識と公民
・マルクス主義と民俗学
・谷川雁と文化運動
・水俣病と桜井徳太郎
・離島文化運動と宮本常一
・山口昌男と「敗者」たち
・オルタナティブ民俗学
・スペキュレイティヴ(思弁的)なフィクションと民俗学
・負の歴史と文化遺産
・ヴァナキュラーアート
・グリーンレジスタンス
*順番や取りあげるトピックは変更される可能性があります。

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