「特急の紳士」

WEDNESDAY PRESS 067

京阪電車にプレミアムカーが登場してから、自動車で通勤することが極端に減った。
真冬のある朝のこと。ホームで一人の男性が気になった。帽子は見るからにボルサリーノのブラウン。コートも同系色のブラウン。スーツもダークブラウンであった。その男性もプレムアムカーに乗った。あとを追うように僕も乗車した。男性は、一番前のシートに座ろうとし、まずコートを畳み棚に乗せる。同じくマフラーも帽子も、である。ここまでは、僕も全く同じ動作であり、思わず微笑したのであった。違いは、ネクタイ。男性は普通のネクタイ。僕は蝶タイである。
だが、次の動作に目を見張った。男性は、ジャケットを脱ぎ、なんと手持ちのハンガーにかけ、それを見事に棚にかけたのであった。確かに時ジャケットを着たまま座ると背中にシワが入ることもある。自動車の運転をするときも、できるだけ上着は脱いで!とブティックのスタッフに諭されたことがある。その言葉が蘇ってきた。ましてや、その一連の動作が流れるように美しいのだ。明らかに自分のリズムが出来上がっている。
最初は、外観ばかりに注目していたが、それをいかに扱うか、という視点が欠けていることに気づいたのである。

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