【LUMIX S5 Ⅱ 実写レビュー】コスパも画質も太鼓判! ただし期待の像面位相差AFは暗いシーンで問題あり……
パナソニックから「LUMIX S5 II」が登場しました。2020年9月末に発売されたLUMIX S5の後継機です。すでにSNS等での先行レビューが賑わっていますので、本機の存在を知っている人も多いことと思います。
まずは初代LUMIX S5について
まず、2020年発売の初代LUMIX S5について簡単に紹介しておきましょう。初代はフルサイズミラーレスの「LUMIX Sシリーズ」のスタンダードモデルとして、ハイエンドモデルに近い撮影性能をコンパクトなボディに凝縮したカメラです。もちろん、ボディ内に5軸手ブレ補正機構を持っていますので、三脚が無いシーンやスローシャッターを使う状況でも安定した撮影を楽しめます。動画性能も非常に強力でフルサイズでは最高4K30p、APS-Cクロップでは最高4K60p記録がそれぞれ可能でした(アスペクト比は16:9ですが)。
もう ひとつ特筆すべきはS5と同時に登場したキットレンズの「S 20-60mmF3.5-5.6」です。一般的な標準ズームが24mmや28mmスタートのところを大幅に広角化し、動画撮影に適した20mmスタートとした新発想のキットレンズで、ボディと組み合わせても約1.1kgという軽量さも魅力です。
また、外観デザインもカメラ然とした意匠で、どこか安心感も漂います。
S5 ⅡはLUMIX初の「像面位相差AF」を搭載
さて、いよいよLUMIX S5 IIです。最大の注目点は撮像センサーとAFシステム、映像エンジンを刷新したこと。画素数こそ初代S5と同じ2400万画素ですが、動体に対して高いAF追従性を期待できる「像面位相差AF」というAF方式をLUMIXではじめて採用しました。像面位相差AFはキヤノンやソニーなど他メーカーでは主流の方式です。なお、従来のコントラストAFも併用されており、像面位相差AF方式とコントラストAF方式との切替はカメラが適宜判断して制御されます。
一方、これまでのLUMIXはコントラストAF方式を採用していました。各方式のメリットデメリットは以下の通りです。
コントラストAF
像面位相差AF
このように、どちらも一長一短のあるシステムなので、優劣を付けるのが難しくはありますが、ことコンティニュアスAF(AF.C)を用いた撮影では像面位相差AFのメリットが勝るというのが現状です。LUMIXでは上述のとおり、画質を最優先にするという思想の下でコントラストAFを採用していましたが、S5 ⅡはLUMIXとしてはじめて像面位相差AFを採用し、カメラファンからの注目を集めています。
AF機能に目を向けると、自動認識(被写体認識)ではソニーやキヤノン、ニコンのように乗り物に対する認識は行なえませんが、他のLUMIX Sシリーズと同様に、人物(人体)のに加え、鳥、イヌ科(オオカミなどを含む)、ネコ科(ライオンなどを含む)の動物認識に対応しています。S5 Ⅱでは人物の検出性能が強化されており、得意なものを伸ばす、というコンセプトのようです。なお、検出できる被写体は今後のファームアップで増える可能性もあります。
AFシステム以外の進化
このAFシステム以外では、動画性能の拡張のためペンタ部(LUMIXロゴがある部分)に放熱ファンを搭載しているほか、インターフェイスが強化され、HDMIはフルサイズのTypeAに、USBは3.2 GEN2となり、前者は強度や信頼性といった点で、後者は通信速度の強化で動画ユーザーへのアピールを強化しています。
ボディサイズは若干大きくなっていますが、フットプリントはほぼ同等に維持されていますので、バッテリーグリップや動画用リグの底面部分については初代S5のものが流用可能です。
6Kに対応! 大幅にアップデートされた動画まわり
また、動画性能の進化は強烈。撮像センサーをフルに活かしたアスペクト比3:2のフルフレームや映画業界で使われる17:9のアスペクト比で最高6K30Pの記録が可能になりました。初代S5は16:9の4K30Pでしたから相当強化されています(なお、APS-Cクロップでは初代S5同様に4K60pの動画記録が可能)。しかも、動画記録時間については、6K24pや4K60p以下のモードでバッテリかメディアが尽きるまで録画可能という、いわゆる無制限記録を実現しています
6Kなんて過剰と思われるかもしれませんが、6Kと4K解像度の差を活用してズームレンズを使わずともズームイン・ズームアウトを可能にする「ライブクロップ」機能など新しい試みが実装されています。
さらに、5月には動画性能を強化した「S5 IIX」が登場予定。強化されるポイントはHDMIによる動画のRAW出力対応とProRes形式での記録対応、USBから外付けSSDへの書き込み対応、ALL-Iの記録対応、ライブストリーミング機能などがある他、外装の印字が反射や写り込みを抑えたグレーやブラックのステルスタイプとなっています。
S5IIからS5IIX相当へのファームウェアアップデート対応は有償で行うようですが、外装はS5IIX専用デザインです。
目を見張るコストパフォーマンス
本機のレンズキットでの販売価格には眼を見張るものがあります。特に標準ズームレンズと50mmの単焦点レンズがキットになったものは、目の覚めるような爽やかなお値段を実現していて素晴らしいコストパフォーマンスです。
実写インプレッション(1):得意不得意がハッキリしているAF性能
像面位相差AFを採用していますので、AFの感触チェックを中心に、動体撮影シーンを掘り下げてテストを行いました。
明確な改善を実感できるポートレート撮影
まず、写真からは少し分かりにくいですが、人物撮影のテストではこれまでよりモデルさんに大きく動いてもらっているにもかかわらず、撮影中はより安定して瞳AFできていました。モデルだけでなく、撮影者である筆者がフットワークを活かしてみたり、明暗差の大きなシーンや背景に水面の反射があるシーンを持ってきても安定して瞳にAF出来ており、AFが迷うシーンが初代S5に比べて明らかに減っていたことが確認できました。
S5でもピントをロストさえしなければポートレートシーンでは非常に強力なAF性能を楽しむことが出来ていましたが、S5IIでは安定感が明確に増しています。
写真撮影時の瞳認識の様子です。
動画でのAFも試してみました。4K30Pで撮影しています。
担当編集氏にも撮影感触のチェックをしてもらいましたが、強力なAF性能とスペックから期待するよりも強力なボディ内手ブレ補正に感心していました。以下はモデルさんが手持ちで歩きながら自撮りした例です。動画手ブレ補正の効果に注目してみてください。
低照度での動体撮影は初代S5よりは改善しているもののソニーやキヤノンには及ばない
ポートレートシーンでの感触が非常に良かったので、さらに撮影条件を厳しくするために室内で鉄道模型を狙ってみました。瞳認識や人体認識が機能するポートレート撮影と異なり、被写体認識機能に頼ることはできません。しかも、鉄道模型は撮影距離が近くうえ、室内ですので光量が少なくカメラにとってはやや難しい条件ですが、条件が安定しておりテストには最適です。他のシーンでの感触からS5 IIでは問題無く対応可能と予想していましたが、結果は期待通りとはいきませんでした。
まず、追尾AFで撮影を開始しましたが、AFが動作したり、しなかったり、と挙動が安定しなかったため、ゾーンと1点+補助を中心に撮影を続行しました。こういったシーンでは追尾AFによってフレーミングの自由度が上がるので期待していましたが、どうやら撮影時の明るさによって追尾AFが動作する・しないケースがあり、追尾AFに設定していたとしても静止している被写体向けのシングルAFになってしまう場合があるようです。なお、パナソニックにどう言う場合に追尾AFができなくなるのか問い合わせたところ「撮影条件によって最適なAF駆動方式を採用しております。それ以上についての仕様の公開予定はございません」と言う回答でした。
ゾーンAFではAFゾーン内で測距した部分に細かくAF枠が表示されますが、その表示が更新される頻度が遅く信頼感が不足しています。というのも、表示だけが遅れていて内部的には正しく測距出来ているのか、どちらも遅れているのかの判断がつきません。撮影結果はそこまで悪くはありませんでしたが、AFの追従が少し遅れてしまうシーンや、狙い通りにAFしてくれないという印象を持ってしまった場合に印象がさらに悪くなってしまうからです。
ちなみに過去に同様のシーンで撮影経験のあるソニー「α7 IV」やキヤノン「EOS R6」などでは苦もなく高精度でAF追従できていましたので、今回の条件ではライバル機に対して後塵を拝している、という評価になります。ただ、20万円台前半で購入できるS5IIの価格帯で言えば決して悪くない性能であることは事実です。
念の為、S5でも同じシーンで撮ってみましたが、こちらは満足に撮影することが出来ませんでしたので、S5IIが大きく進化していることに疑いの余地はありません。
そんなS5ですが、以前家電批評でテストした際に、高速で通過する新幹線に対して非常に高い精度でAFC出来ていましたので、今回の撮影条件(近接で低照度)はこのカメラにとってかなり厳しいシーンであることが分かるかと思います。
スナップでピントが掴みづらいことも……
撮影条件の難しさは相対的であることが多く、大きな物体が遠くで高速で移動するよりも小さな物体が近くで遅く動く方がカメラにとっては厳しかったりもします。これは像面での移動量が後者の方が大きいから、ということが理由になります。ですので、ミニ四駆などの、比較的近い距離を小さくて速く動く物体は撮影が難しい対象のひとつです。
またスナップシーンでは、フルサイズ機ならではの高ISO感度性能や強力なボディ内手ブレ補正を活かして暗所で撮影しようとすると、特にフルエリアAF設定時にピントの掴みが悪い印象がありました。
このようにS5 IIのAFは得手不得手がハッキリしている、というのが現状での評価。他機種と比べるなら5年前に発売されたソニー「α7 Ⅲ」にやや劣るというのが正直な実感です。
パナソニックに低照度下でスムーズにAF測距を行うおすすめの設定などあるのか確認してみましたが「環境や使用レンズによっても測距速度は変わってまいりますので、一概にお答えできるような設定はございません」との回答でした。
実写インプレッション(2):S5Ⅱの良さを実感しやすい日中のスナップ撮影
少しネガティブな話題が先行してしまいましたが、日中に撮影するにおいては非常に快適です。
スペックに表れない道具としての進化
AF性能もさることながら、AFカーソルを操作するためのジョイスティックの形状が変わったこととコレまでの縦横4方向に対する入力から、縦・横・斜めの8方向に対する入力に対応したことで、より直感的かつ迅速にAFカーソルを操作することが出来るようになりました。またグリップ性も改善されていますしEVFの覗き心地も良くなっています。そうしたカメラの道具としての性能がグッと良くなっていますので撮影により集中出来るようになりました。こういった使い勝手に関する性能は、筆者がS5から最も印象的に進化したと感じたところです。
本機に限らず、一般的な撮影シーンに対してカメラ性能は既に十分に高くなりました。以前はプロの撮影領域であった条件であっても、現在ではビギナーが簡単に撮影できるようになっています。それでも安定して結果を出そうとすると、道具としての性能も重要になってきます。というのも人間がカメラを正しく操作できないと安定した結果は望めないからです。
撮影性能は大きくレベルアップしていますが、操作性についてもワンランク上のカメラになっていますので、さらに直感的で今まで以上に容易にカメラの性能を発揮できます。こういった道具としての扱いやすさはカタログでアピールすることが難しく、アイキャッチとしても弱いので注目されることは少ないですが、例えばS5のユーザーであれば、S5IIの進化をより実感できるでしょう。
バッファーの増強で連続撮影が大変快適
またバッファ性能が大幅に増強されたことも注目したいポイントです。S5は性能に対してバッファがやや貧弱でした。RAW+JPEGでは30コマ程度で息継ぎしてしまいましたが、S5 IIでは200コマ以上息継ぎ無く撮影できました。しかも連写速度は秒間7コマから秒間9コマ(電子シャターでは30コマ)に向上しているにも関わらずです。また2つあるメディアスロットのどちらもUHS-II対応になったためスロット間での書き込み速度の差がなくなり、よりストレスなく連続撮影を楽しめます。
バッテリ消費について、デフォルト設定でEVFを主に使用しての撮影ではS5と比べて10%程度悪化している印象です。撮影枚数の多い筆者の撮影スタイルではメカシャッターの単写で800ショット程度がバッテリ交換の目安でしたが、参考にする場合はここから20%ほど減らした650ショットが、バッテリ1つで対応出来る撮影枚数の目安になりそうです。
機能面で惜しいのは撮像センサーに付着したゴミを落とす機能。超音波で撮像センサーに付着したゴミを落とすダストリムーバーを装備しておらず、手ブレ補正ユニットを動かしてホコリを落とすタイプであることです。センサーゴミは超音波によるダストリムーバーを持つ機種と比べて、付きやすい印象でした。実は2019年ごろまでLUMIXのミラーレスにはSSWFと呼ばれる超音波タイプのダストリムーバーが搭載されていただけに残念です。
新レンズLUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACROの作例もどうぞ!
今回、最新の広角ズームレンズ「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」も撮影に使用しました。以下、いくつか作例を掲載します。
画質と新機能
S5 IIは2400万画素という解像度こそ変わっていませんが、初代S5より画質の印象が少しアップしました。初代S5も素晴らしい画質でしたが、本機は1枚の写真としてのクオリティが上質になっているように感じられました。少し表現が難しいのですが、「あれ?なんだかいつもより眼を惹かれる写真が多いぞ」や「写真が少し上手になったかな?」という感触です。この小さな違和感は背面モニターでチェックしていても筆者的には感じられたので、撮っていて気分が良く、撮影が捗りました。これは新しく採用された新インテリジェントディティール処理などの新エンジンが持つ画像処理技術の効果に加えて、覗き心地と精細感が増したEVFの効果だと思われます。
新機能リアルタイムLUT
また絵作りでは新機能「リアルタイムLUT」が搭載されています。これは、映像制作の分野で培われた手法を静止画に持ち込んだおもしろい試みです。
動画撮影の分野ではLUT(ラット:ルックアップテーブル)というカラーグレーディングの機能があります。LUTを静止画に適用するリアルタイムLUTを使うと色や明るさの独自表現を簡単に得られるのです。詳しい説明は省きますが、LUTで検索すると世界中のクリエイターが作成したLUTがあり、.cube形式のLUTをメディアに入れてカメラで参照させることで、撮影時にリアルタイムで反映させることがS5IIでは可能です。
今回はLUMIX BASE TOKYOのサイトにメンバー登録することで利用出来るLUMIX Color Labからダウンロードして利用可能なLUTを用いたものと、LUMIX独自の絵作りを用いて、同じシーンで表現がどのように変化するのか?を試してみました。
リアルタイムLUTを利用する上での注意点として、LUTで撮影した画像に対して後からカメラ内RAW現像で別のフォトスタイルを適用することが現状ではできませんでした。将来的にどうなるかは分かりませんが念の為記述しておきます。
まとめ
撮影が楽しく、動画・静止画のどちらもハイレベルな結果を期待できるカメラが、レンズキットで30万円で収まるという非常に魅力的なモデルの登場はとても喜ばしいことです。
この価格内でレンズ2本が揃うフルサイズ・ミラーレス機は他にもありますが、発売されているほぼ全てのカメラをテストしたことのある筆者の経験で言えば、20万円台で購入できるミラーレスで撮影性能や満足度でS5IIを超えるモデルは思いつきません。これからフルサイズミラーレス機で写真や動画をはじめたい、というのであれば、コスパ的にも性能的にも最適解であると太鼓判を押せます。
厳しい視点で評価するならば、S5 IIよりもAF性能が高いカメラは存在します。像面位相差AFの恩恵で何でも撮れるぞ!と期待してしまうと肩透かしを食うシーンがありそうですので、見極めは難しいところです。しかし、ライバルメーカーの同価格帯のモデルより道具としての魅力は上、かつLUMIXの画質を今まで以上に多くのシーンで楽しめるというのはとても良いことなので、今後の展開にはとても期待しています。
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