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7days Book cover Challenge-⑤ ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』

ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』(2000年8月30日/訳:小川高義/新潮社)

これこそbook cover challengeだった。
佃にあった小さな本屋の書棚に、幾つものスパイスが整然と並んだ写真の表紙を見つけた。
“停電の夜に”というタイトルも何かを予感させるではないか。
九つの短篇が収録されている。
「停電の夜に」が巻頭で、全体のタイトルでもあるのだが、英語のタイトルは「Interpreter of Maladies」で、目次の三番目に「病気の通訳」と記されている。
これもいい作品だが、こっちが日本版のタイトルだったらきっと手に取らなかったろう。
やはり、ジュンパ・ラヒリへのアプローチは「停電の夜に」からがいいと思う。

まだ若い夫婦。
夫は大学院の論文が仕上がらなくてずっと家で悶々としている。
理想的な家庭人だと思っていた妻は、働きに行くようになってから夫との距離を取るようになる。それは夫も同じで家の中で、なるべく妻と接触しないようにしている。

ある時、電気工事の関係で毎夜8時から電気が消えることになる。
夫婦は、お互いが胸に秘めている事を告白するゲームを始めるのだが・・・・。

これがデビュー作。
淡々と重く深い。

ベンガル系インド人の系譜。
彼女の作品からいつも感じるアイデンティティのゆらぎ。
イギリスに生まれ、米国で育ち家庭を持ち、創作においても高く評価され続けてきた。

イタリア語を習い、家族でイタリアへ移住し、イタリア語でエッセイ『べつの言葉で』を著し、昨年、最新の小説『わたしのいるところ』もイタリア語で出版した。

島国日本で生まれ、半世紀以上を日本で暮らす僕にも、彼女の心情が何となくではあるが解るような気がするのだと云ったら言い過ぎだろうか。

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