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「才の祭」 小説部門 かっちー賞発表

130もの作品が寄せられた「才の祭」小説部門。今日は、大賞、特別賞の講評と、xu賞、rira賞、かっちー賞の発表。

大賞、特別賞の講評と、xu賞、rira賞の発表はこちら


私からは、かっちー賞を発表する。

選定にあたって

正直、心苦しかった。
選ぶ企画で一番苦しいところ。

光を当てる角度が変われば輝き方も変わる。応募作の中には、初恋にキュンとする話も、失恋に涙する話もあった。多分、そのような話のほうがクリスマス企画の受賞作に相応しいだろう。しかし今回、そちらは公式審査員のxuさん、riraさんに任せ、かっちー賞からは外した。私の言語センスでは、「愛」ではなく「恋」と思われたこともある

そう、テーマは「二人の愛」であった。

これを機会に「愛とは何ぞ」を再び考えつつ、全130作品を読ませていただいた。「愛」についての記述が私の琴線に触れた作品の中から、かっちー賞は選ばれせていただいた。小説としての完成度等、別の角度から光を当てると、別の結果が出る。

どうか、ご理解、ご容赦いただきたい。

「才の祭」小説 かっちー賞発表


①ばんだごろごろさん「幼なじみ」

10年ぶりに再会した穂高と遼一。偶然出会った瞬間、二人の間の空白の時間が消え、互いに強くひかれあう。刹那の感情のたかぶりの後、再びそれぞれの道へと戻っていく。

作品にあるようなきわどい関係ではないが、私にもこういう友人がいる。普段から連絡を取りあう仲ではないものの、5年おきくらいになぜかきっかけがあり、ヒョコっと会い、5年間のお互いのドラマを一晩で語り合う。そして、それだけでお互いが通じあっていると確信出来る。普段からよく会う友人よりも深い話が出来たりするから不思議だ。友情とは違う何か。愛の一種なのかもな、と思わされた作品。

ぱんだごろごろさん かっちー賞の受賞おめでとう。

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②riraさん「喋れない僕と、歩けない君。」

 車椅子の少女に惹かれていく主人公の話。主人公も、人前でうまく喋れないというハンディ、コンプレックスを持っている。

パラリンピック選手の自信溢れた笑顔等に、ドキッとすることがある。身障者とは「手を差し伸べられるべきかわいそうな弱者」という先入観を揺さぶられるからだ。コンプレックスを克服した人間は、たとえ障害があっても健常者よりも強い。
そして、そのような強い人間を見ると、リフレクションとして自分の弱さを見る。自分の方が全然恵まれてるじゃないか...

しかし、弱みの発見は克服のチャンスでもある。主人公は、彼女の前では、いつも以上にたくさん話せる自分に驚く。彼女を愛することで、自分自身を一層愛することに近づくということだ。
構成、筆致も含めて素晴らしい作品。

riraさん かっちー賞の受賞おめでとう。

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③ゆずさん「サンタクロースになりそこねた私」

93歳の老人から、介護施設で暮らす90歳の妻へのラブレター。コロナ渦で面会は出来ない。持参のメッセージカードには、「貴女を愛してます」とだけしたためられた筆字が。

「好き」は感情だが、「愛してる」は意思、態度だと思っている。現在、未来のどんな障害も乗り越え、相手を受け入れようとする覚悟。これを自己確認出来たとき、初めて口に出せる言葉こそ、本当の「愛してる」だと思う。

作品中の老人は、何十年も前に妻と結ばれてから初めて、「愛してる」を形にしたと読んだ。長い面会謝絶期間を経て、妻を愛していたことを確認出来たからこそ、たった一行のメッセージを、自分の足で施設に持参したのだ。永遠の別れの前に必ず伝えなければならないこととして。

結婚して27年。私もまだ「愛してる」が言えていない。恥ずかしながら、自己確認出来ていないからだ。作者のゆずさん同様、死ぬまでの宿題である。
老いた両親のことも思い出し、目が潤んだ作品。

ゆずさん かっちー賞の受賞おめでとう。

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④おはようよねちゃんさん「太陽に刺さった塔」

高く高く立っていた寂しい塔が、太陽に刺さってしまう。「塔は熱っと言い、太陽は痛っと言った。でも、太陽はなぜか嬉しそうに輝き、そして沈んでいった。きれいだね。街中の人々が繋いだ手と手は、塔の灯が強くした。太陽に刺さった塔は、赤赤と喜んだ」

お互いが傷つくことをおそれているかぎり、決して生まれなかったセレンディピティ。多くの人は、いつもの心地よい人間関係に安住しがちだ。しかし、多少熱かったり、痛かったりするような異質同士の共創にこそ、人を感動させるイノベーションは生まれる。大きな愛を実現させるには、多少は傷つく覚悟も必要なのだと思う。

みんなの俳句大会を共催している、すみかと私の関係もそんな感じだ。二人は決して甘い関係ではない。俳句大会期間中は、意見が割れてヒリヒリすることも少なくない。だからこそ、多くの人に「感動した」と言ってもらえる大会を運営できているのだと信じている。

おはようよねちゃんさん かっちー賞の受賞おめでとう。

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以上4作品にかっちー賞を贈ります。
作者の皆様、あらためておめでとうございます。



さて、冒頭にも述べたが、光の当たる角度が変われば、輝き方も変わる。審査員の読解力の限界もあるだろう。受賞から外れた方もどうか落胆することなく、これからも創作を続けて欲しい。


【小説家のための次のチャレンジ機会】


■応募期間■
2021年12月28日(火)0時から
2022年1月3日(月)24時まで
※応募はお1人さま、1作品のみになります。
■テーマ■
「あかり」
来年が明るい年になるように、との思いをこめてこのテーマにしました。
心にぽっ、とあかりが灯るような内容の作品を募集いたします。
■文字数■
800字~1200字(厳守)



私も運営メンバーに加わっている「沙々杯みんなの俳句大会」は12/25投句開始。こちらもよろしくお願いします。


審査員のxuさんの「才の祭」スピンオフ企画もよろしくお願いします。


「才の祭」もまだまだ続く。





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