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【企業分析】Verizon Communications (ベライゾン・コミュニケーションズ)

VZ (NYSE)
時価総額: 1,520億ドル
株価:37ドル
売上高: 1,336億ドル
営業利益: 324億ドル
(2021年)

事業内容: 電気通信
設立年:1983年、2000年上場
本社: 米国🇺🇸ニューヨーク州
代表者: Hans Vestberg (会長兼CEO)
従業員数:11.8万人
子会社: Yahoo (10%)

概要

ベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications Inc.)は世界最大級の通信インフラ事業者。米国最大の携帯電話事業者であるベライゾン・ワイヤレスを子会社にしています。

ベライゾン・ワイヤレスはアメリカの3大キャリア(他2社はAT&TモビリティとT-Mobile US)の一つでシェアトップとなっています。

日本で言うと、ドコモやKDDIのような会社です。

1970-80年代当時に通信分野で独占状態にあったAT&T(発明家グラハム・ベルのベル電話会社)の政府による反トラスト訴訟の和解の結果、AT&Tの長距離交換部門以外が地域ベル電話会社7社(BabyBells)として地域電話部門が分割され、市場競争への道が拓かれました。

ベライゾン本社

ベライゾンは、同様に地域ベル系を再統合したAT&TとともにベライゾンとAT&Tで長く米国の通信事業で2強時代を築いてきました。

2013年には英ボーダフォンとの合弁事業Verizon Wireless(ベライゾン・ワイヤレス)のボーダフォンの持ち分45%全てを1300億ドルで買取り合弁を解消。それにより長年望んできた米国シェア1位の約1億人の利用者をかかえる携帯電話事業の完全子会社化を達成しています。

固定電話事業が鈍化する一方で携帯電話事業は売上が成長。個人向けには光ファイバー・ネットワークサービスのFiOS(高速インターネット・テレビ)も提供しており、企業や政府向けに電話回線やデータサービスを提供しています。

自社の国際間IPネットワーク用の長大な光ファイバーケーブル網を活かし、そのネットワークとデータセンサー・クラウド、セキュリティサービスをあわせて提供できるのがベライゾンの強みです。(セキュリティは2007年の米サイバートラスト買収で強化、クラウドは2011年のTerremark、CloudSwitch買収で強化)

近年ではAOL、アメリカオンラインを買収しました。かつてはプロバイダーとして名をはせた、インターネット業界の老舗です。ITバブルの主役でした。

 引き続いてベライゾンは米国ヤフーの買収をしました。通信事業というインフラとインターネット系事業会社のコンテンツの相乗効果を狙っています。買収戦略は明確です。AT&Tが衛星テレビ放送DirecTVやタイム・ワーナーを買収したのと路線は同じです。

AOLの買収で38億ドル、Yahoo!の買収で45億ドル投じました。逆に固定電話事業、とくに近距離電話網の売却も並行して行っています。いわば、業態変換のさなかにあると言えるでしょう。

プロダクト・ビジネスモデル

子会社を通じて、通信、情報、エンターテイメント製品及びサービスを消費者、企業、政府機関に提供する。ベライゾンコンシューマーグループ及びベライゾンビジネスグループの報告セグメントで構成されます。

コンシューマーセグメントは、無線及び有線通信サービスを提供。無線サービスは、「Verizon Wireless」ブランドで米国のワイヤレスネットワーク全体に提供されます。

有線サービスは、中部大西洋及び米国北東部の9つの州で、「Fios」ブランドのもとで、従来の銅ベースのネットワークを介して100%光ファイバネットワークで提供されています。

事業セグメントは、モノのインターネット(IoT)サービス及び製品を提供するために、ワイヤレス及び有線通信サービスと製品、ビデオ及びデータサービス、企業ネットワークソリューション、セキュリティ及びマネージドネットワークサービス、ローカル及び長距離音声サービス、ネットワークアクセスを提供しています。

有線サービスは、中部大西洋及び米国北東部の9つの州で、「Fios」ブランドのもとで、従来の銅ベースのネットワークを介して100%光ファイバネットワークで提供。

事業セグメントは、モノのインターネット(IoT)サービス及び製品を提供するために、ワイヤレス及び有線通信サービスと製品、ビデオ及びデータサービス、企業ネットワークソリューション、セキュリティ及びマネージドネットワークサービス、ローカル及び長距離音声サービス、ネットワークアクセスを提供。

売上のほとんどが通信関連事業となっています。また、2018年10月には次世代技術の5Gを世界で初めて家庭向けにサービスを開始しました。

日本と異なり、米国は人口がまだまだ増加しています。人口が増えるに伴い通信への需要も高まるので、VZは安定的に成長している会社です。

収益全体の7割を占めるワイヤレス事業は、携帯キャリア米最大手のベライゾン・ワイヤレスを通じて展開。

リテール契約件数は、約1億1800万件にもなります。

固定回線事業では、AT&Tに次ぐ2位の位置にいます。

5G、デジタル広告、遠隔監視サービスなどの分野に事業を展開しています

競合AT&Tがタイムワーナーを買収してコンテンツビジネスに資源を集中させているのとは対照的に、ベライゾンは既存の通信インフラ業に専念する方針です。

とは言え、ベライゾンももう一つの成長の柱を追い求めており、デジタルメディアへの投資を進めています。2015年にはAOLを買収。2017年に米ヤフーのインターネット事業を45億ドルで買収しました。

デジタル広告の競合はグーグルやフェイスブックといったシリコンバレーの王者たちですから甘くはありません。あくまでも本業は通信インフラです。

2020年にバークシャーがベライゾン株86億ドル相当を取得したことが判明。バークシャーの上場株ポートフォリオの約3%を占める規模です。

第5世代移動通信システム(5G)

ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)は同業のAT&Tがコンテンツ事業を拡大しているのと対照的に通信通信事業を第一に投資を行っており、M&Aによる新規事業取得よりも米ヤフー等の同業者の買収による技術向上、通信ネットワークの改良・改善を最優先する戦略に取り組んできました。
特に直近では5Gへの先行投資がその例と言えます。2018年に同業の通信大手であるAT&T(T)との買収合戦を行った末、ストレート・パス・コミュニケーションズを買収し5G回線開発の競争で優位に立っています。

この5Gは回線速度の上昇と更なる収益をもたらすことが期待されており、通信業界のみならず、自動運転に加えクラウド、医療・ヘルスケアも含めた様々な分野での活用が模索されているため世界中からの注目を集めています。

当初ベライゾンは、ハイバンド(ミリ波帯)で5Gを展開していました。しかし速度は圧倒的に早かったものの、ミリ波の特性からエリア拡大が難しかったのです。

そのうちTモバイルが、エリア拡大が比較的容易なローバンドの5Gを全国的に展開し、5Gの繋がりやすさではトップとなります。やむを得ずベライゾンもローバンド5Gを投入し、5Gの電波を掴む時間は伸びたものの、速度が出ないという状況になっています。

Availability(ここでは5Gを掴んでいる時間の割合)は向上したものの、
速度はいずれも50~60Mbps程度となっています。

速度は4G/LTE以下になっているため、「現状アメリカの5Gは、マーケティング的な競争でしかなく、実際の利用シーンは何も変わっていない」とも見て取れます。

もちろんキャリアはいつまでもこの状態を維持するわけではありません。今進んでいるのが、ハイバンドのエリアの狭さ、ローバンドのスピードの遅さの中間で、通信速度と繋がりやすさが丁度いいミッドバンドの獲得です。TモバイルはSprintとの合併によって2.5GHz帯を多く所有していますが、ベライゾンとAT&Tが現在所有するミッドバンドは、すでにLTEのユーザーが使用しているため、新たな帯域を獲得する必要があります。

ベライゾンは通信領域に集中

ベライゾンは通信領域の取り組みに集中しています。
まずは固定無線ブロードバンド市場への参入です。2018年からハイバンドの固定無線ブロードバンドサービス「5G Home」をエリア限定で提供しており、展開都市の拡大を検討しています。将来的には、中堅中小企業もターゲットにするとのことです。
アメリカでは、固定ブロードバンドで一番強いのがCATV事業者であり、固定通信事業者が各地域で圧倒的なシェアを持っている日本とは随分状況が違います。このCATV事業者から市場を奪いたい考えのようです。
MEC(モバイルエッジコンピューティング)の取り組みも進んでおり、Amazon Web Service(AWS)と提携し、「5G Edge」として5Gとワンセットでサービスを提供しています。収益化は2022年を見込むと同社CEOは語っています。

AWSと連携し、MECサービス「5G Edge」を提供する
(※資料の一部を加工しています)

さらに、ベライゾンはMECに画像処理の機能を搭載する予定で、NVIDIAのGPUを本格導入し、開発を進めています。具体的なユースケースとして狙うのはゲームです。

今人気を集めているPCゲームでは、高精細な画像描写などのためにゲーミングPCにグラフィックカードを入れる必要があります。しかし、ベライゾンのMECを使えば、グラフィックカードの入ったハイスペックなPCではなく、スマホからでも同様のゲームができるというものです。
このほか、法人向けソリューションの開拓にも積極的ですが、今後成長が期待できるとして、MVNOの買収やサブブランドの投入などにも注力しています。

地域別売上比率

売上高は100%米国内であり、完全に国内インフラ事業となっています。

市場動向

市場規模

Precedence Researchによると、2021年の通信サービス市場は1兆7300億米ドルで、2030年には約2兆6500億米ドルに達し、2022年から2030年までのCAGRは4.85%で成長すると予測されています。

2021年のアジア太平洋市場のシェアは33%で最大となりました。通信サービス市場は、5Gネットワーク、スマートフォンの可用性だけでなく、eコマースにより高騰しています。

日本、インド、中国がこの市場の成長における主要国である。インドと中国は、国際電気通信連合の発表によると、世界のインターネットユーザー数は8億5,400万人で、トップとなっています。
ICTを取り入れた政府の取り組みが増加し、アジア太平洋市場の拡大に貢献すると期待されています。インドでは、100のスマートシティ計画があり、その金額は6億ドルにのぼると予想されています。また、北米や欧州でのIFCの導入も市場拡大に寄与するものと思われます。

アジア太平洋地域は、人口の急増、インターネット普及率の上昇、スマートフォンの普及により、この市場を支配すると思われます。

通信サービス市場規模、2021年〜2030年(1兆ドル)

【米国通信業界の展望】

情報通信政策

• 米経済の競争促進を図る大統領令(2021年7月)に基づき、連邦通信委員会(FCC)は、ネット中立性規則の制定やブロードバンド規制等に取り組む。連邦取引委員会(FTC)は、大手プラットフォームを規制するルールの策定を目指すが、実現には時間を要する見通し。

• インフラ投資法(2021年11月成立)では、650億ドルのブロードバンド関連予算を電気通信情報庁(NTIA)やFCCに割当。

ユニバーサルブロードバンドの実現に向け、FCCは基金の拠出メカニズムの見直しを含め、取るべき施策について検討を開始。

• 大手プラットフォームの市場支配力に対処するため、連邦議会では反トラスト(独占禁止)法改正の議論が継続。当面は部分的な見直しに留まる見通し。連邦レベルのオンラインプライバシー法制定の機運も高まるが、2022年中に成立する可能性は低い。

 5G・6G関連動向

• 2022年には2.5GHzのオークションが開催予定。FCCは、より高い帯域や衛星、国防総省等が利用する帯域の開放に向けて検討を加速。
• 主要3社(Verizon、AT&T、T-Mobile)の5G展開のプライオリティは、ミッドバンドによる高速5Gエリアの拡大。

• これにより、消費者は、移動時でも高画質映像のストリーミング、クラウドゲーム、ARなどが快適に利用可能となる。

• 法人向けには、企業の設備に専用ネットワークを導入するプライベート5G網の商用化が始まる。

• 第4事業者のDishが5Gネットワークを商用化予定。主要3社に対抗する競争力を持つには、2〜10年掛かるとの見方。

• ⺠間主導イニシアチブが北米の6Gロードマップを発表予定。ネットワークの信頼性、コスト効率、環境配慮や、AI、クラウド、仮想化技術の
活用などの目標の実現を目指す。FCCは6Gタスクフォースを設立し、業界団体が検討している標準技術に関する評価を開始する見通し。

ビデオ市場の競争

• AT&TとVerizonはビデオ・メディア事業をスピンオフし、通信事業に回帰。キャリアとOTTビデオの関係は競合から提携へ。

• 米国のOTTビデオ市場は、既に飽和状態。大手プロバイダー間の競争はグローバルレベルへとシフト。
5Gネットワーク・エリア
・LTEと明確に差別化された高速サービスを広いエリアで提供するために、 2022年はミッドバンドによる5Gエリアの拡大が主要3社共通のプライオリティ。

• 2.5GHzで既に全米カバー済のT-Mobileに加え、AT&TとVerizonがCバンドによるサービスを開始し、2023年以降全米カバー予定。

参考: 「2022年の米国通信業界の展望」KDDI総合研究所

市場シェア

2011年1Qから2022年2Qまでの米国における通信事業者別ワイヤレス契約数のシェア(Statista)


ソフトバンクのスプリント買収やT-モバイルUSなどの米国通信業界3位・4位が仕掛ける価格競争による競争激化は懸念されていますが、ベライゾンは2000年代に同業他社が設備投資を削る中でインフラ投資を重ねてきた結果、他社に比べエリア・品質において数年先行しており、顧客がそれをどう天秤にかけ評価するか、また、Googleなどの参入によるシェア争いがどう動くか注目されています。

業績

売上高・EPSの推移

FY21の売上高は1,336億ドルで前年比+4%。一部事業売却があったものの、消費者向けワイヤレス事業が成長。顧客数増加のほか、既存顧客がより高額なプランに移行したことも貢献。

純利益は221億ドルで前年比+24%。営業利益も+13%と売上伸長以上に伸びています。

セグメント利益推移

セグメント利益率推移

おおむね右肩上がりで成長してきています。ただし、北米における携帯電話事業そのものが競争激化傾向にあります。ソフトバンク系のスプリント、Tモバイル、AT&T、ベライゾンの4強の争いです。

キャッシュフロー

FY2017の営業CFとフリーCFが少ない為、高い成長率となっております。FY2017を除外した成長率は営業CF4.81%、フリーCF2.88%となります。営業CFマージンは25%を超えており高い水準となっております。フリーCFマージンは、やはり設備投資を多く必要とする業種だけに低い数値となっております。

今後のリスクとして、米国に対するサイバー攻撃等による業務停止や評判悪化、新型コロナによる顧客事業への変更、5Gネットワーク展開における性能や遅延の問題などを将来的なリスクとして抱えています。

配当に関しては上昇幅は限りがあるものの、連続増配であることが見て取れます。おおむね配当性向は高い傾向にあります。中でも2010年や2012年には100%以上の数字を示しています。

 このように高配当でありつつも、100%以上の配当性向を示す業界としては昨今の原油業界があります。単純に利益以上以上の配当を出しているからそうなるわけですが、これが恒常的になると当然ながら連続増配も難しくなるでしょう。

 比較的安定的な携帯電話事業からの利益を先行投資であるネットコンテンツの買収に充てたわけですが、相乗的な収益化が急がれます

成熟企業らしいキャッシュフローの推移です。要は、安定的であるものの伸びていないということです。米国内の人口は基本的にこれからも増えますから、ユーザー数は微増を続けるでしょうが、この業態である限り劇的な成長は見込みにくいということですね。

 5G回線への投資などが今後本格化するでしょうが、その額は懸念するほどではないとされています。とはいえ、携帯電話事業はもともと設備投資額が大きい事業です。本業に関する限りは似たようなキャッシュフローの流れが続くと思われます。また、本業とのシナジーを狙う買収案件、このスピードも気になりますね。
 
 通信業界の参入障壁は決して大きいものではありません。特に固定電話時代からワイヤレスになってからはそうです。そのため、収益は安定しているものの、大きな成長性はなく、新規参入に脅かされる、という見方がつきまとう業界でもあります。

資産

FY21に総資産が前年比で+17%増加しています。ワイヤレスライセンス476億ドル取得のためです。原資は主に借入です。

負債純資産

株主還元

配当は安定しているものの増配率は低いです。この10年の増配率は年2.5%。昨今の米インフレ率を考慮すると、今後はもう少し高い増配を期待したいところ。自社株買いは2015年度を除いてこの10年ほぼ実績なしです。

経営者

CEOのHans Vestberg(1965年6月23日生まれ)は、スウェーデン生まれ。彼は同社のネットワークとテクノロジーチームのエグゼクティブバイスプレジデント、最高技術責任者を歴任してきた人物です。

それ以前は、通信会社エリクソンのCEO、スウェーデンオリンピック委員会の会長、スウェーデンハンドボール連盟の会長を歴任しています。

スウェーデンのウプサラ大学で学び、1991年に経営学と経済学の学位を取得しています。

1991年にフーディクスヴァルのエリクソン・ケーブルズでキャリアをスタートさせ、25年間、エリクソンに勤務し、スウェーデン、中国、ブラジル、メキシコ、米国で管理職を務めました。

2000年から2002年まで北米のエリクソンでCFOと米州の会計を担当し、2002年から2003年にはメキシコのエリクソン社長に就任。

2010年1月にカール-ヘンリック・スヴァンベリに代わってエリクソン初のエンジニア出身でないCEOとなりました。

Vestbergは2017年4月3日に同社の最高技術責任者兼ネットワーク・技術チームの執行副社長としてベライゾンに入社しています。

そこで彼はベライゾンのファイバーネットワークとベライゾンの初期の5Gネットワークの開発を監督。

ベライゾンは、2018年8月1日にVestbergがLowell McAdamの後任として同社のCEOに就任すると発表しました。

2021年、ベライゾンとVestbergは、Vestbergの3940万ドルのゴールデンパラシュート役員報酬プランについて批判を受け、Association of BellTel Retireesという退職株主グループがこの規模は取締役会の不正行為であるとして申し立てました。

株価推移

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