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【企業分析】Thermo Fisher Scientific(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)

TMO (NYSE)
時価総額: 2,010億ドル
株価: 500ドル
売上高: 392億ドル
営業利益: 100億ドル
(2021年)

事業内容: 科学機器・試薬メーカー
設立年:1956年、1967年上場
本社: 米国🇺🇸マサチューセッツ州
代表者: Marc N. Casper (CEO)
従業員数:13万人

概要

サーモフィッシャーサイエンティフィック社は、科学機器、試薬、消耗品、ソフトウェアサービスを提供する米国企業です。

アメリカ合衆国マサチューセッツ州に本社を置く世界最大の科学機器・試薬メーカーである。世界に70,000人の従業員を擁し、200億ドルの収益を上げている。2006年に『フィッシャー・サイエンティフィック』と『サーモ・エレクトロン』が合併してできた会社です。
フィッシャー・サイエンティフィックは、1902年に設立された会社で、ライフサイエンス機器に強みをもった会社です。
サーモ・エレクトロンは、1956年に設立された会社で、実験装置に強みをもった会社です。
合併後も40以上の会社を買収し、事業は大きく拡大しました。

また2014年ライフテクノロジーズ社を買収し、世界最大規模の科学機器・試薬メーカーとなりました。

サーモ・フィッシャー本社

プロダクト・ビジネスモデル

製品ポートフォリオは企業買収とともに多様化してきました。
 
サーモ・フィッシャーの事業は、大きく4つの事業に分類することができます。

・ライフサイエンス・ソリューション
・分析機器
・特殊診断
・ラボ製品とサービス

売上構成のグラフ

ライフサイエンス・ソリューションは、医薬・バイオ企業の研究開発向け機器・試薬を提供しています。

試薬、器具及び消耗品のポートフォリオで構成されています。これは主に、使い捨て手袋、サージカルマスク、注射針、注射器など、研究・新薬開発・生産・診断に使用される非耐久性の使い捨て用品や治療目的のアイテムで構成されています。

分析機器は、研究開発や生産現場で使用される検査・分析機器を提供しています。

ラボ、生産ライン、フィールドでのさまざまな用途に使用される機器、消耗品、ソフトウェア、サービスを提供しています。具体的な事業は、クロマトグラフィーと質量分析、および化学分析です。

特殊診断は、臨床診断などで使われる機器・検査キット・試薬などを提供しています。

ヘルスケア、臨床、製薬、工業、食品安全などの分野の顧客に診断検査キット、試薬、培養液、器具、関連製品を提供。臨床診断、免疫診断、微生物学、解剖学的病理学、移植診断、ヘルスケアマーケットチャネルなどの事業を展開しています。

ラボ製品とサービスは、研究所向け機器・消耗品、医薬品受託開発(CDMO)を提供しています。

自社製造および調達したラボラトリー製品およびサービスを提供。ラボラトリー機器、ラボラトリー消耗品、リサーチ&セーフティマーケットチャネル、バイオファーマサービスが主な事業内容です。

顧客セグメント

サーモフィッシャーサイエンティフィックのビジネスモデルは市場細分化されており、微妙に異なるニーズを持つ顧客層が存在します。
同社は、以下のエンドマーケットをターゲットに製品を提供しています。

バリュープロポジション

同社は、アクセス性、コスト削減、ブランド/ステータスの3つの主要な価値提案を提供しています。

同社は、幅広い選択肢を提供することで、アクセスしやすさを実現しています。この3つを実現するために、同社は多くの企業買収を行っています。FEI、Affymetrix、Alfa Aesar、Advanced Scientifics、Life Technologiesを買収しており、このような戦略により、同社は能力の多様化とポートフォリオの拡充を実現してきました。

同社は、多くの案件を提供することでコスト削減を図っています。

その成功により強いブランドを確立しています。遺伝子検査や精密検査機器市場においてトップクラスの企業である。

チャンネル

同社の主な販売チャネルは、直販部隊です。また、第三者である販売代理店、カタログ、ウェブサイトを通じて販売も行っています。同社は、ウェブサイト、ソーシャルメディアページ、セミナー、ワークショップ、展示会、会議への参加を通じて、製品の販売促進を行っています。

顧客との関係

顧客との関係は、主にセルフサービス型です。顧客は、従業員とのやりとりを制限されながら、同社製品を利用します。同社のウェブサイトには、製品選択ガイドとツール、製品ドキュメント(技術マニュアル、安全データシート)、ビデオ、ウェビナー、よくある質問に対する回答など、セルフヘルプのリソースが多数用意されています。

このような方向性にもかかわらず、以下のようにパーソナル・アシスタンスの要素もあります。

トレーニングサービス 

世界各地にカスタマートレーニングセンターを運営し、お客様がアプリケーショントレーニングコースを受講できるようにしています。
このコースでは、アプリケーションや装置の操作に関する知識を深め、コンピューターベースのインタラクティブなトレーニング、ラボでの実地体験、アプリケーションサイエンティストとの共同作業の機会などを提供します。
サポートサービス - 機器サービス(メンテナンスプラン、コンプライアンス、バリデーション、キャリブレーションサービス)、カスタムサービス(1対1のヘルプ)、ライセンスおよび商用供給サービス、エンタープライズサービス、金融およびリースサービス、エンタープライズレベルのラボインフォマティクスサービスなど、さまざまなカスタマーサポートサービスを提供しています。

市場動向

医薬品製造受託業界の市場シェア、規模や再編について分析をしております。製薬会社からの製剤にかかるアウトソースの流れを受け、業界は拡大しております。サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックによるパセオン買収のように業界大手が買収される動きが続いています。

市場シェア

医薬品製造受託会社の2021年度の売上高を分子に、後述する市場規模を分母にして、2021年の医薬品製造業界の世界市場シェアを簡易に算出すると、1位はサーモ・フィッシャー・サイエンティフィック、2位はキャタレント、3位はロンザとなります。

市場規模

当サイトでは、各調査会社等の公表データを参考にし、医薬品製造受託業界の2021年の世界市場規模を1836億ドルとして市場シェアを計算しております。

再編

ロンザ、サーモ・フィッシャー、AGCなどが積極的に買収を行っています。2021年には業界大手であったRecipharmをEQTが買収しました。売上高倍率は3~5倍程度と今後の成長を見込んだ高いバリュエーションが続いています。

医薬品製造受託企業(CMO、CDMO、CROの違い)とは

製薬会社から、医薬品や原薬(医薬中間体)等の製造、製剤のアウトソースを受ける企業をさします。Contract Manufacturing Organizationの頭文字をとってCMOとも言われています。またCMOに医薬品のDevelopment(開発)のDを加えて、製剤設計の研究開発を行う機能として、CDMOと略される場合もあります。

一方で、Contract Research Organization(CRO)は、創薬(動物を使った実験や臨床試験)を専門に取り扱う分野で、新薬を開発する際に製薬会社が外部に研究と開発を委託することです。なお、病院が治験を外部に委託する際にはSite Management Organization(SMO)を利用します。

日本CMO協会によれば、新薬先発メーカーは、抗がん剤・バイオ抗体医薬を中心とする新薬研究開発、医薬情報提供・マーケティングに特化し、固定費の大きい自社工場は縮小・集約されていきます。ジェネリックメーカーは、薬価改定、開発費増から自社工場への設備投資に慎重となります。製造販売メーカー全体が生産分業化される方向にあります。

業績

売上高(セグメント別、地域別)の推移

FY2020(2020年1-12月期)の売上高は322億ドルと、前年度比+26.1%、過去5年間で年率+13.7%となりました。

2021Q2(2021年4−6月期)の売上高は93億ドル(前年同期比+34.1%)と、コンセンサス(87億ドル)を上回りました。

新型コロナウイルス関連の売上高は19億ドルです。

過去10年間で、サーモ・フィッシャーの売上高は2.4倍にもなりました。
時価総額が1,721億ドルの大企業になった今でも高い成長率を維持しています。

サーモ・フィッシャーの成長率が高いのは、有望な事業をM&Aにより獲得しているからです。

毎年2〜3社、買収している。近年の主な企業買収がこちら。

また、グローバルで売上を伸ばしています。
2010年から2019年までの中国事業の売上高年平均成長率は16%。

セグメント別の売上高は、以下の通りです。

・ライフサイエンス ソリューション:36億ドル、前年同期比+37%

・分析機器:15億ドル、前年同期比+41%

・特殊診断:12億ドル、前年同期比+25%

・ラボ用製品&サービス:36億ドル、前年同期比+29%

セグメント別の売上高構成比は、ライフサイエンス ソリューションが36%、ラボ用製品&サービスが36%、特殊診断が15%、分析機器が13%を占めます。

FY2020のタイプ別売上高構成比は、消耗品が58%、機器が21%、サービスが21%を占めます。

FY2020の地域別売上高構成比は、北米が53%、欧州が26%、アジアパシフィックが18%を占めます。


大規模な企業買収をしているため、のれん償却により利益率は押し下げられています。
のれん償却を除いた調整後営業利益率は、2019年度が23.4%、2018年度が23.1%で非常に高い利益率を維持しています。

利益(セグメント別)の推移

FY2020の営業利益は78億ドルと、前年度比+69.7%、過去5年間で年率+27.2%となりました。

営業利益率は24.2%と、前年度の18.0%から改善しました。

セグメント別の営業利益率は、以下の通りです。

FY2020の非GAAP EPSは19.55ドルと、前年度比+58.3%、過去5年間で年率+21.5%となりました。


1株あたりの純資産は長期的に徐々に増加しています。
 
サーモ・フィッシャーのバランスシートには、企業買収のために使った多額の借入が計上されていることを押さえておく必要があります。

現金および現金同等物58.2億ドル
短期借入金6.8億ドル
長期借入金206.4億ドル
借入の額は、日本で42番目に時価総額が大きい三井物産の時価総額と同程度です。(2020年10月4日時点)
しかし、サーモ・フィッシャーが保有する現金やフリーキャッシュフローが潤沢であることを考えると無理のない範囲の借入だと考えます。

キャッシュフローの推移

FY2020の営業キャッシュフローは83億ドルと、前年度比+66.7%、過去5年間で年率+23.0%となりました。

営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は25.7%と、前年度の19.5%から改善しました。

FY2020のフリーキャッシュフローは68億ドルと、前年度比+68.4%、過去5年間で年率+22.0%となりました。

フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は21.2%と、前年度の15.8%から改善しました。

株主還元(配当、自社株買い)の推移

株主還元に消極的です。

経営者 

マーク・キャスパーは、科学分野における世界的リーダーであるサーモフィッシャーサイエンティフィックの会長、社長兼最高経営責任者(CEO)です。「世界をより健康に、より清潔に、より安全にする」という当社の使命を果たしている。

会長、社長兼CEOのマーク・キャスパー

2001年、ライフサイエンス部門の社長としてサーモエレクトロン社に入社。2003年に上級副社長に就任し、2005年には全事業部門の責任者となった。

2006年のサーモフィッシャーサイエンティフィック社との合併後は、同社の執行副社長兼アナリティカルテクノロジー事業担当社長に就任し、2008年には同社の最高執行責任者に就任しました。2009年より最高経営責任者兼社長に就任し、2020年に会長に就任。

サーモフィッシャー入社以前、マークはケンドロ・ラボラトリー・プロダクツの社長、最高経営責任者、取締役を務めていました。それ以前は、臨床診断プロバイダーのデイドベーリング社の社長(アメリカ)を務めていました。ベイン・アンド・カンパニーで戦略コンサルタントとしてキャリアをスタートし、その後、ベイン・キャピタルに入社。

ウェスリアン大学、マス・ジェネラル・ブリガム、米中ビジネス協議会の理事を務めています。それ以前は、Advisory Board Company、Zimmer Holdings、U.S. Bancorp、Brigham & Women's Hospitalの取締役を務めていました。ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを優秀な成績で取得し、ウェスリアン大学を卒業、経済学の学士号を取得しています。

創業者

George Nicholas Hatsopoulosは、1927年1月7日 - 2018年9月20日)は、熱力学の研究で知られ、サーモエレクトロンを共同設立したギリシャ系アメリカ人の機械工学者です。

ハトプロスは1927年にギリシャのアテネで生まれ、アテネ工科大学の元学長ニコラス・キティキスと親戚関係にありますをアテネ工科大学を経てMITに入学し、学士と修士、機械技師、理学博士を取得しました。

マサチューセッツ工科大学在学中、ハトプロスはニューヨークのマトラッド社の技術部門長を務めていました。

マトラッド社とマサチューセッツ工科大学は、彼の博士論文「熱電子エンジン」にも資金援助を行っています。マトラッド社はハーバードビジネススクール出身のピーター M. ノミコスの一族の所有でした。1956年、ノミコスとハトポールはサーモエレクトロン社を共同設立。数年後、ジョージは弟(ジョン・ハトポロ)に財務責任者として入社を要請。

ジョージ・ハトポロスのもと、サーモエレクトロンは様々な領域の分析機器とサービスを提供する大手企業となりました。

株価推移

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