【読書メモ】比ぶ者なき
「比ぶ者なき」は、ある種の革新的な作品であり、私が初めて経験する、藤原不比等を主人公に据えた歴史小説でした。馳星周は彼の物語を通じて、我々に一つの仮説を提示しています。それは、、、藤原北家が、自らと天皇家を絶対的な存在として確立するために、日本書紀を作成したのではないかというものです。この視点は、我々が日本の歴史を理解する新たな角度を提供してくれます。
本作はまた、平城京の建設とその遷都を強行する藤原不比等の力強い描写を通じて、読者をその時代に引き込みます。平城京の図面と現在の地図を参照しながら読むと、この古代の都市が目の前に浮かび上がり、その街並みが一層鮮やかに感じられます。馳星周の巧みな描写は、読者が物語の舞台を具体的にイメージすることを可能にします。何度か私は馳星周の他の作品との繋がりを感じることがありました。それは、彼の他の作品に登場するキャラクター、劉健一が区役所通りを歩くシーンと、本作の主人公である藤原不比等が朱雀大路を歩くシーンが、何となく重なって見えたのです。その異なる二つの世界が、このように結びついていると感じると、馳星周の作品の中に一貫性と多面性が共存していることを実感しました。これは、彼がどのようなジャンルを手掛けるにせよ、その中に独自の哲学とビジョンを織り込んでいる証拠であり、これまでにない新たな視点で古代の日本を見つめる「比ぶ者なき」が、まさにその象徴と言えるでしょう。
馳星周といえば、これまで私が思い浮かべていたのは、ノワール小説やピカレスク小説でした。しかし、「比ぶ者なき」を読んで、彼の筆は現代の街角から古代の宮廷まで広がりを持つことを理解しました。馳星周の歴史小説に対する挑戦は、新たな視点と鮮やかな描写をもって、読者をその世界に引き込む力を持っています。この作品は、馳星周の新たな可能性を感じさせ、彼の今後の作品が楽しみになる一冊でした。
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