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【ネタバレあり】きこえる 道尾秀介

はじめに

「いけない」で完全にハマって完璧なネタバレnoteを書きました。その流れで「いけないII」も完全読破して、ネタバレnoteを書きました。作者の道尾秀介はミステリー作家でミステリーの新しい可能性に挑戦し続けています。いけないシリーズでは、小説の最後に画像が置いてあり画像を見ることで小説の内容がひっくり返る仕掛けになっていました。この仕掛けに興奮して前述のnoteを書くまでにハマったのです。
今回は小説の最後にQRコードが貼ってあり、これを読み込むことでYoutubeにリンクしてあります。Youtube動画の音声を聞くことで物語の内容が大きく変わってしまう仕掛けになっています。面白かったです。
全部読んで解説も読んで、理解したので内容をまとめておきます。ネタバレを大いに含みますので、本編を未読の方は絶対に読まないようにお願いします。




1.聞こえる

亡くなった夕紀乃の荷物を回収しにやってくる男性は、夕紀乃の父親と名のりますが、実は父親ではなく夕紀乃を殺した犯人だったという事でした。本文では、男性が夕紀乃の父親であるかのように叙述されていますが、本当のお父さんは男性が荷物を運び去ったあとに軽トラで良美の家を訪れます。その後の展開はどうなったか書かれません。
最後の音声にある、「これから来る人はお父さんじゃない。その人に殺されたんです。ヘッドホンを外してください。聞いてください」という部分は死んだあとの夕紀乃が喋っていることになりますから、この部分はホラーとかファンタジーで片付けることになるのでしょう。非現実的な内容をトリックに使うのは嫌いなので、この作品はちょっとナシかな。

2.にんげん玉

これが一番良かったです。これこそ「音」が無いと真相にたどり着けない小説。叙述トリックと音声の合せ技で最後に物語がひっくり返る仕組み。思わず2回目読み直しました。2回目を読んでみると確かに。どっちの人物が犯人とも取れるように叙述部分で仕掛けてあり、セリフの部分はどっちが喋ってもおかしくないようなセリフになっています。最後の刑事の言葉で「元先生」というのがあるので主人公のスズキ元高校の数学教師だったんだとわかります。最後の最後にひっくり返せるように書いてあります。タイトルのにんげん玉と途中に挿入されている100円玉のどっちが表かというエピソードと併せて考えると「どっちが犯人にもなり得る」というメッセージが込められています。

3.セミ


小学生の男の子の話。主人公の秀一と仲良くなったセミは夏休みの毎日秀一と遊びたいと秀一の家を訪れますが、相手にしてもらえないという内容。秀一の家に来たときにラジカセの音声を聞いてしまい、それが本当におじいちゃんおばあちゃんが会話しているものと勘違いした、というオチです。
「皆川さんとこの星矢くんのをもらってくるか。」という部分は本当はオムツをもらってくるか、という内容の会話ですがこれを聞いた星矢(セミ)は自分が心臓を秀一にあげれば秀一は助かるんだと勘違いするという、ほっこりするオチです。

4.ハリガネムシ

気持ち悪い塾講師の話。教え子の女子高生の自宅に盗聴器を仕掛けて夜な夜な盗聴をしていた塾講師の男(30歳代、自宅暮らし)。教え子の高垣紗那の生活音を聞きながら彼女の家庭のかかえる問題を知ったつもりになっていた。
最後の音声では、高垣紗那が盗聴器に向かって「手伝ってください」と言っているのがわかるようになっています。高垣紗那は盗聴器があることを知っていて、自分の家庭環境を塾講師の男にわかるように仕向けていたというオチでした。
高垣紗那は殺人を隠すために塾講師の男を利用して死体を隠して事故にみせかけてメデタシメデタシです。

5.死者の耳

これは音声部分の画面が最後に動き出すので、ちょっとルール違反かなと思いました。純粋に音声で答えがわかるのではなく、動画として見ることでか答えがわかるようになっています。
瀧沢鐘一が死亡した。妻の玲那は瀧沢がいつも飲む酒に睡眠薬を入れておいて眠ったところを殺すつもりだった。
その様子を友人の女に録音させて殺人を隠蔽し、滝沢が自殺したように見せようとした。滝沢の遺体は元妻に預けたアトリエの絵と同じポーズになっていた。怜那と愛人の飯田は瀧沢の死体(まだ死んでない)を発見したあと電話で何を話していたのだろうか。怜那は自分からマンションのベランダから飛び降りて自殺したのか。
いろんな疑問が残る本文ですが、最後の動画ですべてが明らかになります。瀧沢の視覚ははっきりとしていて、ウイスキーの色が青に変色していることに気がついていおり、妻が自分を殺そうとしていることに気がついた状態でウイスキーを飲んだのです。しかし、眠っている間に玲那が飯田と電話で話している内容を聞いてしまい、玲那を殺すことを決意した。そしてベランダに二酸化炭素のボンベを取りに行った玲那を突き落としてころし、そのあとで自分で描いた絵と同じポーズを取ってから二酸化炭素で自殺した、というのが真相です。

女性にしかわからない部分で、同級生の女性二人が会話している音声を聞くときに「どっちが主導権を握っているか」わかると言います。この物語では玲那がつねに主導権を握っているのが音声でわかる、というのも音声を聞くときに大切な要素となるようです。(男性にはよくわからない)

最後に


本当によくできた小説と思います。このような道尾秀介の挑戦的な試みはとてもおもしろいです。今後も道尾秀介の挑戦をフォローしていきたいと思いました。


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