ベーシックインカムは所得格差を改善するか?~受験算数で考えてみた

所得格差を改善するには、高額所得者から税金を取って低額所得者へ分配する方法と、定額給付金やベーシックインカムのように、全員に一定のお金をばらまく方法など、いろいろな方法が考えられます。

上に挙げた2つの方法は、中学入試の算数に登場する倍数変化算で、その本質部分を捉えることができます。

税金を取って分配する数理は、以下の倍数変化算が参考になります。

兄と弟の所持金の比は9:1でしたが、兄が弟に200円あげたので、所持金の比は7:3になりました。兄のはじめの所持金は?

兄が9、弟が1の割合でお金を持っていて、兄から2のお金(税金)を取って弟に渡せば、兄は7、弟は3の所持金になり、元々の9:1だった所得格差が7:3に改善されたと見なすわけです。

ちなみに、上の算数の問題を解いてみます。2人の所持金の和を⑩円とすると、兄のはじめの所持金は⑨円、弟は①円。兄が弟に200円あげて、所持金の比が7:3になったので、兄は⑦円、弟は③円となり、兄が弟へあげたお金は⑨―⑦=②=200円。よって、兄のはじめの所持金は、⑨=900円となります。

これは、やり取りの前後で、2人の所持金の和が変わらない場合の、倍数変化算(和一定算)に相当します。

一方、全員に定額給付したりベーシックインカムでお金を配ったりして、所得格差を是正する数理は、以下の倍数変化算で捉えることができます。

兄と弟の所持金の比は9:1でしたが、お母さんから500円ずつもらったので、所持金の比は7:3になりました。兄のはじめの所持金は?

この場合、2人とももらった金額は同じで、はじめ、兄は⑨円、弟①円とすると、その差⑧円は7:3になっても変わらないので、差の4は⑧円に相当します。従って、1は②円となり、兄の7は⑭円、弟の3は⑥円となるので、兄は⑭―⑨=⑤=500円もらったので、兄のはじめの所持金は、⑨=900円となります。

これは、2人の所持金の差が変わらない場合の、倍数変化算(差一定算)に相当します。

和が変わらない場合も、差が変わらない場合も、いずれも、格差の9:1が7:3に緩和される点は同じです。

ところが、前者の場合、兄⑨円、弟①円から合計⑩円、後者の場合、兄⑭円、弟⑥円から合計⑳円なので、後者は前者の2倍の金額になっているので、兄を高額所得者、弟を低額所得者、合計金額を全発行紙幣と見なせば、後者は前者に比べてお金の価値は半分になるので、お札を刷ってばらまくことは、お金の価値を下げること、すなわちインフレを表していると見なすことができます。

格差を解消するのに、税金取って分配するのか、それとも定額給付やベーシックインカムのように、お札を刷って分配するかの違いではありますが、後者の場合、インフレが付き物であることを、算数として理解できるのではないでしょうか?

もちろん、現実は、こんな簡単ではありませんが、その本質部分は、この数理でもって捉えることができると思います。

お札を刷って、全員にばらまけば、当然、その分だけお金の価値は下がりますから、現金資産を多く持っているお金持ちにしてみれば、資産の劣化を招くので、やってほしくない政策になると思います。

また、為替相場にしても、円の価値は下がりますから、円安方向に力が働くことは必至です。

1回だけの給付であれば、一時的なインフレで済みますが、ベーシックインカムのように定常的に給付されると、お金の価値は定常的に劣化するので、現金として持っているリスクが高まり、現金以外の物へ変える動きが出てきて、悪性のインフレを助長してしまうことにもつながります。

これは、お金の価値が半減期を持つことを意味するので、価値が劣化しないうちに使ってしまおうとする働きもあるので、景気の潤滑油としてはプラスの効果もあるでしょう。

ただ、経済運営として、お金の劣化が速いことは、悪いインフレを招くので、好ましいことではありません。そう考えると、お札をばらまくにしても、デフレギャップが大きい場合など、デフレ下においてなら可能ではありますが、インフレ下では、インフレを加速することになり、やるべき政策ではありません。

そう考えると、大規模にベーシックインカムを導入することは、インフレを考えると難しい気がします。

やろうとしても、悪性インフレにならない程度に給付金を減らしてマイルドにやるか、低額所得者などに対象を限定的して小規模にやるかの、いずれかなら可能かもしれません。


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