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司書による司書のための推し本 vol.1 「羊皮紙の世界」/八木健治

「司書おすすめの本」と冠した読み物は巷にたくさん溢れているけれど、なかなか司書の仕事に役立つ本で軽やかな気持ちで読めるようなワクワクする本って見つからないものだ。

私の経験によるところでは、休憩時間や休日に読むにはいささか学術的過ぎるかな?といった内容に巡り合うことが多いように思う。

その中でも、一筋の光のように「司書業務にも役立つうえに自分の心にも潤いを与えてくれる...!同じ業務に励む方にもこんな素晴らしい本があることを伝えたい...!」と思える類稀な1冊に出逢えることがある。

そんな司書による司書のための推し本を紹介したいという情熱から、記念すべき第1回の執筆に取り掛かることにした次第です。

なんだか熱い語り口でここまで書いてしまいましたが「図書館に携わる人はきっとこれ面白いはずだから読んでみて!」って話したいだけなんですけどね。

さて、私がなぜこの本を手に取ったかというと昨年のある日のこと。上司の「犬ガムで羊皮紙作ってる八木さんって、さくらさん知ってる?新刊案内か何かでちらっと見たけど専門が近いみたいよ」という一言がきっかけでした。

その時は八木健治さんのお名前を存じ上げなかったのですが、その日からもう“犬ガムで羊皮紙”というパワーワードがやけに頭から焼き付いて離れない。そして研究分野がもしかしたら近い...???それならばと思い、読んでみることにしたのでした。

羊皮紙といえば、かつて図書館史の講義で習った馴染み深い言葉でもあるので、読み始めてすぐに羊皮紙の世界に没入。

八木さんの「現地に赴いて、自分の目で確かめる」という行動力が文章から感じられて、羊皮紙=植物紙誕生以前の紙と認識しきっていた自身の固定概念に気づかされます。

現代日本における司書業務では羊皮紙の図書館資料って貴重書として接する事が多いと思います。私もその1人で、装飾写本の拝見の機会に恵まれた時の感動は今でもよく覚えていますが、当然のことながら貴重書ゆえに実際に触れることは叶いませんでした。

これまで羊皮紙のもつメディア特性を五感を使って理解する機会が少ないので気づけませんでしたが、この本を読んで書物や図書館の歴史に触れながら羊皮紙の懐の深さや可能性について深く知る事ができました。

これだけ充実した内容なのに、豊富な写真にやさしい解説が見事に融合していて、楽しく読めるのでワクワクがとまらない。

あ、冒頭で触れた犬ガムから羊皮紙を作る方法も載っています!この方法を幼い頃に知っていれば、夏休みの宿題にやりたかったなぁ。

余談ですが、元々私は図書館資料の始まりを学びたいと思い大学時代は西洋中世史を専攻してきました。

しかし、大学院ではより実務に則した研究に取り組むべく図書館情報学の道に進んだので、院生時代は“珍しい”とか“畑違いの分野になぜ来たの?”と言われることが多く、自分では一本筋通っているつもりなのに妙な疎外感をどこかで感じていました。

上司が言ってくれたようにこの本を読んでみて研究してきた分野にたくさんの共通項を見つける事ができ、読み終える頃には、自分の選んできた道は間違いではなかったのだと勇気づけられました。

付録の小さな羊皮紙も愛おしいんですよ。
司書のみなさんやこれから司書を目指す学生さん、この夏の読書にいかがでしょうか。

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