10.タイムリープの実装問題(3)
今回は、前回「09.タイムリープの実装問題(2)」の続きのお話。
カウントダウン、10、9、・・・1、0!装置は光につつまれ、装置に入った後の1分後の世界にタイムリープした。
つまり、タイムリープした先は装置に入った直後の状態であるため、そこからタイムリープが行われる数分間を無限にループしている状態なのだ。
「おーい!助けてくれー」
装置には小窓がついており、外には確かに助手の鈴木くんがいて、こちらを見ている。目が合っているように感じるのだが、なぜかあまり反応がない。
「おーい!おーい!」
タイムリープは終わることなく、容赦なく続く。・・・既に回数を数える気力はなくなっており、数百回は繰り返していると思われる。ひげも伸びてきた気がするし、眠くなってきた。
このまま死ぬのだろうか?という気さえしてくるが、外の鈴木くんを見ると、当たり前だが、実験開始直後の顔をして、「頑張ってください!」という表情のままである。
そもそもなのだが、鈴木くんからはどう見えているのだろうか。
こっちはだんだん疲れてきて、ひげが伸びてきているのだが、鈴木くんは初めて乗り込んだ私を見ているのか、元気に助けを求めている私を見ているのか、それとも疲れたひげ面を見ているのか?
タイムリープにより複数の時間に世界が分かれてしまっていると思われるが、それが同じ時間に重なりあっているのだろうか?
なんて思いながらさらにその数分間を繰り返しながら鈴木くんを見ていた時、明らかにその表情が変わった。
「助けてくれ!」
窓をたたきながら助けを求めると、鈴木くんは外にある緊急停止ボタンを押してくれたのだ!1000番目くらいの鈴木くんに助けられた。
私は涙を流しながら装置の扉を開き、外の空気を吸った。
「どうしたんですか?」あっけらかんとした鈴木くんの反応。鈴木くん的には実験を開始したばかりのはずで、なぜ停止ボタンを押したのか?
「装置の中が見えなくなって…気になったのでボタンを押しました。」
外からはその大量の複数時間軸が重なりあい、複数の重なりにより視覚的にもハッキリ見えなくなっていたのだろうか?
まあ、とりあえず助かってよかった。伸びたひげを触りながらそう思った。つづく。
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