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日本語学、入門してみた。

理系出身一般男性の備忘録。
2021年は日本語学および方言学に挑む年になった。その間に通読した書籍を、簡単なメモとともに残す。
なお、筆者は全くの門外漢なので悪しからず。

1)山口堯二『日本語学入門 しくみと成り立ち』昭和堂(2005)

図書館で最初に借りた本。
「成り立ち」とあるように、日本語史を絡めながらの説明がされていた。特に音韻や文法について、高校で学ぶ古文の世界から現代の日本語へのつながりが感じられた。
後になって気づくのだが、最初に読む1冊ではなかったかもしれない。

2)沖森卓也 編『日本語概説(日本語ライブラリー)』朝倉書店(2010)

図書館で借りた。
見開き2ページで説明されていて、日本語学の全体像や基礎的な事項を知るのに便利。テンス、アスペクト、モダリティなど「よく聞くけどなんだったっけ?」を解決してくれた。
広く浅く系の本なので、この本を出発点に興味を持った分野に進んでいくのがよさそうだ(ここで1冊目に読む本を間違えたんじゃないかと感じた)。

本筋からは離れるが目に留まる記述もあった。

 また、「終わりにする」ことを「お開きする」と言ったり、「梨」を「有りの実」などとしたりするのは、縁起の悪いことばや不吉なことば(忌みことば)の連想を避けるためである。「落第」を「留年」として、好ましくないことばを美化して言い換えることもある。

(p133)

おいおい、「留年」はすでに好ましくないことばとして市民権を得ている気がするぞ……

3)益岡隆志 編『はじめて学ぶ日本語学 ことばの奥深さを知る15章』ミネルヴァ書房(2011)

図書館で借りた。
日本語学の専門家がそれぞれの分野について深く語る本。敬体で書かれているので、読み物としてとっつきやすい。
章の展開も見事で、方言や敬語などの身近なテーマから出発し、中国語などの対照言語学へと世界を広げている。
「通読して面白い」というのが率直な感想だ(1冊目に読む本を間違えたと確信した)。

一方で、文法などの基礎知識がないと読み進めるのに頭を使うところもあったので、もう少し教科書的なものに触れる必要があると考えた。

4)庵功雄『新しい日本語学入門 ことばのしくみを考える』

図書館で借りた。
文法を中心に説明してくれる本。少し骨太に感じるが、出典明示度も高く、ほかの研究者の紹介が豊富だった。
ボイス、アスペクト、テンス、モダリティの説明にページが多めに割かれていて助かった(わかったとは言っていない)。

でもやっぱり文法は難しい。「母音語幹動詞」「ナ形容詞」と言われたときに具体例や活用がすぐに浮かばないから話についていけなくなる。
ただ、今までの4冊の中で最も教科書的であったので、精読するならこの本だと思う。もう一回挑戦させてほしい。

5)渡辺実『日本語概説』岩波書店(1996)

本棚に眠っていた本。
著者特有の用語が多く、日本語の体系を独自の組み立て方で論じている。他の書籍で日本語学の知識を入れたあとのほうが面白く読めると思う。

5冊目にもなると日本語学の書籍のパターンが見えてきていた。ざっくり言えば音→語→文という順に章が進んでいく。「あーはいはい、形態論ね」だとか、どういう議論がされているのか概略をつかめるようになってきた。

また、単著で書かれたものを連続で読んで、その面白さに気づいた。一冊を通して一貫した論理展開があるのもそうだし、クセの強い主張もお楽しみポイントである。

「です・ます」付きの文章が、啓蒙的な出版物に進出しているようだが、本来的に書き言葉は。言語活動として無敬語のものである。書き言葉は相手の居ないひとりの場で、対象と向き合う時の言葉なのだから、これが自然というものであろう。

(p137)

こういう調子でこの本には付箋を貼りまくった。いろいろと日本語学関連本を読んできたおかげなのか、一番楽しく読めたと思っている。

(それにしても、この本を買っていた過去の自分に感謝だ。ブックオフで500円で投げ売りされていたのを連れて帰ってきたのだが、当時は言語学にすら関心を持っていなかった。)

あとがき

以上がこの2021年の軌跡である。8月から10月に読んだものを慌てて振返っているから、内容を充実させられなかったのが悔やまれる。

はじめは書籍の選び方がわからなかったが、次第に共通しているところ、特色が出ているところなど各書の違いがわかるようになってきた。特に共著か単著なのかの違いは大きく、共著のものは網羅性が高い一方で、単著のものは筆者の専門が存分に発揮されているように感じた。

5冊を通読してみて、日本語学の深さにただただ驚かされた。母語だからと侮れないものだ。そして、少しは詳しくなったかと言えばそうとも思えない。代わりに、生活のなかで「ことば」に関する疑問が増えたように思う。一生困らない趣味を見つけてしまったかもしれない。

日本語学の書籍を読み漁ったあとは方言学へと進み、『新・方言学を学ぶ人のために』(世界思想社)や『はじめて学ぶ方言学 ことばの多様性をとらえる28章』(ミネルヴァ書房)などを読んだ。こちらはまだ道半ばであるから、紹介するのはまたの機会としたい。それでは。

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