見出し画像

鑿壁読書 September 2020


画像1


1)河合隼雄『こころの処方箋』新潮文庫(1998)

読了。

2)河合隼雄『カウンセリングの実際』岩波現代文庫(2009)

クライエントの言うことを受けいれていく、入れ物としてのカウンセラー自身の自我を放っておいて、ただ受けいれさえすればよいと考えている人は、まるで、入れ物の大きさを知らずに、口さえあけていれば何でも入ってきていいと思っている人です。そういうのは、受けいれというよりは受け出しといった方がいいようで、それはほとんど効果がないわけです。(p.112)

カウンセラーに必要な心がまえを記した本。鷲田清一が解説で「いやむしろ、反マニュアル主義の書である。」と述べているように、本書の中で繰り返される「ほんとうにむずかしいことです」という言葉が印象的でした。

3)河合隼雄『生と死の接点』岩波現代文庫(2009)

 可能性の拡大や追求は、どうしても西洋的自我と結びついて、進歩発展や拡張の方にばかりすすむようであるが、真に可能性を望むのならば、老の意識、女の意識、少年の意識などをこそ、もっと追求すべきであろう。老人が若がえり、女性が男性化することのみが可能性の追求ではない。(p.136)

4)河合隼雄『心理療法序説』岩波現代文庫(2009)

 心理療法家はできる限り、心的エネルギーを使う方に賭けるように心がけるのである。それを間違って、クライエントのために、あちこち走りまわったりするのを「熱心」と思ったりする人がある。もちろん、自分の能力の限界に従って、われわれは行動しなくてはならぬこともある。しかし、それは熱心だからではなく、自分の能力が低いためであることを自覚していなくてはならない。(p.28)

5)河合隼雄『大人になることのむずかしさ』岩波現代文庫(2014)

原因―結果の連鎖を探り出そうとする態度は、ややもすると目を過去にのみ向けさせ、そこに存在する悪を見つけて攻撃したり、後悔の念を強めたりするだけで、そこから前進する力を弱めることが多い。意味を探ろうとする態度は、むしろ未来へと目を向け、そこからどのように立ち上ってゆくかという建設的な考えに結びつきやすいのである。(p.29)

6)小川洋子、河合隼雄『生きるとは、自分の物語をつくること』新潮文庫(2011)

臨床家の河合隼雄と作家の小川洋子の対談。河合氏はもともと数学科の出身であり、『博士の愛した数式』についての話題も。

河合 人間は矛盾しているから生きている。全く矛盾性のない、整合性のあるものは、生き物ではなくて機械です。
(中略)
河合 「その矛盾を私はこう生きました」というところに、個性が光るんじゃないかと思っているんです。
小川 矛盾との折り合いのつけ方にこそ、その人の個性が発揮される。
河合 そしてその時には、自然科学じゃなくて、物語だとしか言いようがない。
小川 そこで個人を支えるのが物語なんですね。(pp.105-106)

7)小川洋子『博士の愛した数式』新潮文庫(2005)

前述の『生きるとは、自分の物語をつくること』を読む以前に『物語の役割』(小川洋子著、ちくまプリマ―新書)を読んでいたのだが、どちらの著作でも触れられている『博士の愛した数式』を読んだことがなかったので、これは読んでおきたい、ということで読みました。物語を進めていくのは記憶が80分しかもたない数学博士のところに派遣された家政婦で、その家政婦の息子を含めた3人で話が展開してゆく。はじめ、家政婦の「私」は、恐る恐る博士に接しているのだが、だんだんと博士の記憶がもたないことが気にならないほどに打ち解けてゆく様子に胸が温かくなりました。

8)外山滋比古『思考の整理学』ちくま文庫(1986)

9)島宗理『使える行動分析学』ちくま新書(2014)

まえがきで驚きました。

 行動分析学は心理学の一つで、目の前の行動をそのまま対象とし、行動を変える変数を実験によって探る方法論をもっています。他の多くの心理学とは異なり、何かができないときに、その原因を意志の弱さや能力のせいにしないところに特徴があります。(p.11)

行動の原因を性格に求めてしまうと「循環論」に陥ってしまい、自分の可能性を限定してしまうと。なんだか希望が持ててきます。本書は、行動分析学を解説するというよりは、「じぶん実験」を通して生活や習慣を分析していく実用的なものになっています。具体例が多く載せられていて、その応用範囲の広さが伺えます。


まとめ

読了した冊数こそ多くないが、河合氏の著作に多く触れ、心理療法の意義と難しさについて、そして自分が大人になっていくうえでのハードルについて考えることができた。我々が医者に行くときは「治してもらおう」という考えを持っていくのだが、心理療法では「治す」というよりも、自らの力でクライエントが「治る」ことが多いのだそうだ。病的なものには対策をうつものだと考えがちであるが、「可能性に目を向け、そこから生じてくるものを尊重する」態度も持っていたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?