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名探偵ぶたぶた 矢崎存美著 光文社文庫(2021年1月発行)

中学生のころは1000円あれば薄い文庫本なら3冊は買えたものでした。それが今や1冊買えれば良いほうです。あれから40年近く過ぎているのに頭の中身も財布の中身もほとんど変わっていない自分にとっては、読みたい本があってもすぐに買えるというわけではありません。

タイトルをみて、あらすじ読んで、文体が自分に合うかどうかしばらく中身を読んで、すべてクリアした状態で財布の中身と次の入金まで過ごさなければならない日数を計算して、そのうえで「また今度にするか」というのが日常です。

そんな中、新刊が出た時点で何も考えずに手にとってレジに向かうのがこの著者の作品です。特にぶたのぬいぐるみが主人公の「ぶたぶたシリーズ」は我が家の長女も大好きで、新刊を買って帰ると自分より先に読み始めます。本人曰く、一日一話と決めて楽しく読んでいるようです。

今回の新刊は既存の作品のスピンオフということですが、名探偵のタイトル通り話の構成がちょっとだけミステリーっぽくなっています(一番のミステリーはぶたのぬいぐるみがなぜこんなに万能なのかということなのですが、それはさておき)。

それでも基本的にはいつもの「ぶたぶたさん」で、

悩んでいる人がいる→ぶたぶたさんと出会い驚く→周りの人は平然としていることにさらに驚く→ぶたぶたさんと話しているうちに悩みの解消方法が見つかる

というパターンは変わりありません。

どれも面白かったのですが、一番いいな、と思ったのは最後の「女の子の世界」かな。ぶたぶたさんの「ぬいぐるみ属性」が発揮されたとは言えない作品ながら、ぶたぶたさんじゃないとべつの悲しい結末になっちゃうんだろうな、と感じさせてくれました。

ぶたぶたさんって超能力があるわけじゃないし、ズバッと何かの解決方法を示唆してくれるわけじゃない。強引にどこかの道へ連れていってくれるわけでもない。ただ優しく見守るだけ。でも本来の大人ってこうあるべきだよなということを強く感じさせてくれるのです。

基本パターンについ笑ってしまうのだけど、読み終わった後、心のどこかがいつまでもあったかいんです。これはなかなか人には伝えられません。「いいから一回読んでみ!」としか言えないのです。

次は6月かな、7月かな。今から新刊が楽しみです。

最後に自慢を一つ。

この著者の作品は文庫版のほとんどを持っています。

ぶたぶたシリーズ:徳間デュアル文庫5冊、徳間文庫3冊(「夏の日」と「クリスマス」が重複)、光文社文庫27冊
食堂つばめ(ハルキ文庫)全8巻
NNNからの使者(ハルキ文庫)全4巻
幽霊は…シリーズ(角川スニーカー文庫)全3巻
神様が用意してくれた場所(GA文庫)全3巻
繕い屋シリーズ(講談社タイガ)2冊
キルリアン・ブルー(TO文庫)全1巻
冬になる前の雨(光文社文庫)全1巻

長くなったついでに、この著者の作品の中で一番好きな作品を紹介しておきます。

「冬になる前の雨」収録の「グリーンベルト」です。この作品を読んでこの著者を知り、そして大ファンになりました。

ホラーです。ちょっと悲しいホラーなのですが、最後の数行で背中に冷たいものが走ります。とても落ち着いた書き方がされているのですが、魂が人であったものから人ではないものへと変わる一瞬がとても怖いです。

この作品が頭の中にあったので、ぶたぶた第一作を読んでいるときに「このまま怖いところに落ち着くのかなぁ」と思ったのは、今思うと嘘のような本当の話です。

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