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雨の日も神様と相撲を 城平京著 講談社タイガ(2016年1月発行)

虚構推理シリーズにはまって、作者の作品をさがしているときに、出会ったのが本作です。作者特有の「乾いた」作風はそのままに、とても気持ちの良い爽やかな作品でした。ただ、設定は一癖あります。

「頼みがある。相撲を教えてくれないか?」神様がそう言った。子供の頃から相撲漬けの生活を送ってきた僕が転校したド田舎。そこは何と、相撲好きのカエルの神様が崇められている村だった!
村を治める一族の娘・真夏(まなつ)と、喋るカエルに出会った僕は、知恵と知識を見込まれ、外来種のカエルとの相撲勝負を手助けすることに。同時に、隣村で死体が発見され、もつれ合った事件は思わぬ方向へ!?

文庫裏表紙

主人公の「僕」とは逢沢文季(あいざわふみき)。相撲にただならぬ愛情を持つ両親のもとで、相撲漬けの人生を送っていたのですが、不慮の事故で両親を失います。
相撲漬けの人生と言っても文季自身は身長150センチ未満、体重も40キロ未満と、とても相撲に適した身体とはいえません。そんな彼が「相撲好きの神様が崇められている村」に転向するところから物語が始まっていきます。

本作に対して「爽やかな」ご紹介しましたが、その爽やかさを醸し出している要素がいくつかあります。

1.主人公の文季が前向きに生きている
中学生で両親を亡くしたのですから、とても悲しい思いをしています。しかし、それに負けることなく将来を見極めてまっすぐに生きています。それどころかまわりの大人たちも心配するほど淡々としているのですが、どうやら「感情を表に出す」ことが苦手らしく、読んでいるこちらもちょっと安心しました。

2.相撲は勝てないけど強い
小柄なため、試合ではほとんど勝てません。しかし相撲理論については完璧なほどに身についているため、相手が簡単に勝つことができません。さらに、取り口を見ただけで相手の弱点などを見極め、それを的確に言語化できるため、小柄なために最初は馬鹿にしていた同級生や村人から尊敬されるようになります。
それを正しく言い当てていたのが、以前に通っていた道場の監督で
「文季に十連勝できたら本物」
さらに村で相撲が一番強い大人が
「これはひとつ間違えただけで負けるんじゃないか」
ここまで相撲を極めているのに本人は「自分は弱い」の一点張り。その上で「相撲には真剣に取り組む」とも。
憧れないわけには行きませんよね。

3.ファンタジーではなくミステリー
カエルが神様でしゃべって相撲を取る、なんていうとファンタジーか童話かと思うのですが、作者はあの「城平京」でした。やっぱり殺人事件が絡んできます。これは物語の本筋とは深く関係はしないのですが、それとは別の「大きな謎」について文季が見事に解決します。

4.じつは熱いぞ、文季君
ラストシーンで、心に響くような展開を文季が見せます。「なんでそこまで見通せるのあんたは!」と思わせる、やや唐突な展開となってはいますが、そこに目くじらを立てずに読んでいけば、気持ちの良い青春ミステリーだったことに気がつきます。

もう一つヒロインに関するポイントがありますが、それはネタバレになるので、実際に読んで確かめてください。
それにしても本当に気持ちのいい物語だったなぁ。


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