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ランチタイムのぶたぶた 矢崎存美著 光文社文庫(2021年6月発行)

今回のぶたぶたさんはランチタイムです。どちらかと言えばぶたぶたさんが食べているシーン多めです。鼻の下に運んだ料理が消えていくシーンが目に浮かびます。

この本は7つのストーリーからなっています。全体にやや短めですが、とてもほんわかする良い話が揃っていてどの話でも「ランチタイム」が重要なポイントになっています。そして、現在の大変な状況であることが前提として物語が描かれています。

ぶたぶたさんのお店も休業を余儀なくされたようですが、そんな中で変えなくてはいけないこと、変わらないこと、そして変えてはいけないことが優しく表現されています。作者が意図しているかどうかに関係なく、この芯の強さと優しさが大きな魅力です。

物語は様々な人々のランチタイムに登場するぶたぶたさんが描かれます。いや、ぶたぶたさんと出会うことによって、悩みを抱えた登場人物がどのように感じ、前へ進んでいくのかが描かれます。

一人暮らしを始めた大学生の男の子。リモート授業になってしまいゲームにのめり込みます。ある日寝落ちしてしまったところに突然ぶたぶたさんが現れて…それをきっかけにぶたぶたさん手作りのお昼ご飯を一緒に食べるようになるのですが…(寝落ちの神様)

リモートワークでランチタイムに外食がしにくくなった柚子。気分転換にと出かけた先でぶたぶたさんに出会います。驚きながらもこっそり後をつけてたどり着いたのが古い民家風のレストランでした。(ぶたにくざんまい)

お母さんが熱で寝込んでしまい、六歳になったばかりの莉世は代わりにお昼ご飯を作るためお母さんには内緒で意気揚々と買い物に出かけます。そこで出会ったのがぶたぶたさん。ぶたぶたさんは莉世に頼まれてお母さん用のお弁当を作る手伝いをするのですが。(助けに来てくれた人)今回の中で一番好きな話です!

スーパーで働く聖乃はお昼休憩に同僚とたわいもない話が出来なくなって寂しい思いをしていました。そんなある日、期間限定でチラシ作成などを手伝いにやってきたぶたぶたさんと出会います。お互いの弁当について盛り上がりますが、とある日曜日にぶたぶたさんの家族が弁当を届けにスーパーへ現れます。(ぶたぶたのお弁当)

出張の際の食べ歩きを趣味とする太明。数年前のある日、ぶたぶたさんと相席になります。驚くのですが周りがあまりにも平然としているので逆に近所のおすすめを聞き出すまでになりました。後日、そのおすすめの店で再開した時にぶたぶたさんがイタリアンの店を開いていることを知り、訪問するチャンスを狙っていたのですが…(相席の思い出)

苦労して開いた店を閉めざるを得なくなった暉久。実家に戻り、年老いた両親の面倒を見つつ、唯一残された自転車でぶたぶたさんを見かけます。同時に先輩から聞いていた評判のイタリアンのお店が休業していることを知ります。

寂しい思いをしている中、イタリアンレストランの「再開のお知らせ」を目にした暉久は再開日に予約を入れ出かけるのですがそこで出会ったのが…(さいかいの日)

店内には再開を待ちわびた多くの人(といっても限られた席数ですが)が来店しています。この作品はあくまでも短編集なのですが上質な美しい長編を読んだ気にさせてくれました。ぶたぶたさん、嬉しかったろうなぁと思ったらちょっと込み上げてくるものがありました。書き下ろしならではの巧みな構成です。必ず順番通りに読んで欲しいです。

そして最後の短編「日曜日の朝」。これは、とにかく読んでくれ!としか言えません。感動、なんて使い古された言葉では表現できない、暖かくて優しくて気持ちの良い感情に包まれます。人によっては、涙で前が曇って読めなくなるかもしれません(誰のことでしょう?)

とにかく大満足の一冊でした。さあ、次は12月かなっ?

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