永訣の朝 考

昔から、宮沢賢治さんの詩や童話が好きだったのだけど、ふと、永訣の朝に出てくる
あめゆじゅ とてちて けんじゃ
という妹とし子さんの言葉が、どんなイントネーションだったんだろうと気になった。

よく考えれば岩手で育った2人は、岩手の方言を話していたはず、はじめて詩を読んだときは、謎の呪文のようで、淡々とした棒読みで頭のなかに響いたけれど、そんなはずがない。

激しい熱やあえぎで、苦しかったときに、それも死を覚悟した日に、仲の良かったお兄さんに頼むその一言はどんなだったろう。

YouTubeで検索したら、それらしい方言で語る動画があった。そうだよね、棒読みでも呪文でもない、熱に浮かされた女の子の絞り出すような声。

突然白い紙にかじりつくように詩を書きなぐるような賢治さんの風景が浮かぶ。泣きながら泣きながら永訣の朝に贈る言葉をつづる賢治さんすがたが。

もちろんわたしはそこにいないし、その時に書かれたのかも知らない。でも、想像して泣いてしまった。賢治さんの豊かな感性が、暗い雲に覆われた天から降り注ぐ、恵みのような白い雨雪に、妹さんの美しい心を映した。

この詩が、今日まで伝わり、たくさんの人々の心を濡らす意味が、あぁ、ようやくわたしの心にも届いた。

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