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他学部卒のための臨床心理士指定院入試対策 心理統計編

序文

この記事は、私が臨床心理士指定院入試を経験する中でなんとなく感じた事や、今後目指される方にはこのような事を意識するべきなのではないかという事を、個人的見解のもと、つらつらと書くものである。

以下のマガジンに過去に(院試関連で)書いたものをまとめているので、興味のある方は参考にしていただければ。。。

もう一つ最初に書いておくと、心理系院試における専門科目の勉強範囲は、

  • 基礎心理学

  • 応用心理学(精神医学含)

  • 心理統計

に分けられる。今回はその心理統計編である。

私について

(地方国立)他学部を卒業した年である2022年5,6月から勉強開始。秋に3校受けて全落ちし、その後心理系院受験予備校に入って3,4ヶ月後、2月入試で2校に合格(私立と国立)。

心理統計という関門

突然だが、『彼を知り己を知れば百戦殆からず』という故事を知っているだろうか。敵および自分自身をしっかり理解していれば、百回戦おうとも百回勝てる(自他分析が大事)という意味なのだが、これはあらゆる試験において重要な概念であり、心理系院試においても例外ではない。

他学部卒にとって、とりわけ文系にとって鬼門となるのがこの「心理統計」である。学習において出来る限り避けたいと思われる方もいるかも分からないが、心理系院試においては99%逃れられない。覚悟を決めるべきだ。

本当に統計から逃れられないのか

これに関しては、私の体験談を話す事で分かって頂けると思う。

私は前述した通り秋に全落ちした訳だが、9月上旬時点で心理統計の知識は0だった。3校中2校は、例年統計の問題が出されないor問題選択式で統計を避ける事が可能だった。3校中1校は、英語の試験で分散分析や多変量解析の知識が求められた。私は英語が得意だったので、今考えるとアホ極まりないが、3校目に関しては試験前に統計の参考書を1,2週間見れば何とかなるだろうと思っていた。

結果に関しては言うまでもない。また、例年統計が出題されていなかった院でも、私が受けた時にいきなり統計範囲が出題され、面接でも統計について詳しく聞かれた。心理統計からは逃れられないのである。

立ち位置を知る

話を元に戻す。先述した故事の通り、心理統計を攻略するためには、『いまあなたがどの程度の実力で、受験校はどのレベルまで出題するのか』を過不足なく把握する必要がある。まず、あなたの心理系院試における実力を、下に用意した質問群でものすご~~~く雑に簡単に測ってみよう(面倒くせえという方は次の章ごと飛ばしてほしい)。

心理統計知識レベル簡易チェック

初めに断っておくが、各質問の回答は私の方で用意しない。全て検索すれば分かる事だからだ。

1.中央値・平均値・最頻値のそれぞれの違い。
度数分布表とは何か。

2.母集団と標本の違い。
分散と標準偏差の違い。

3.カイ二乗検定とは何か。
95%信頼区間とは何か。

4.最小二乗法とは何か。
スクリープロットとは何か。

統計検定について

上に質問集を載せたわけだが、一応、何の根拠もなくこうしたわけではない。統計検定というものが世の中には存在する。上記のものは1~4に、一番簡単な4級から準1級まで、統計検定の過去問で用いられている統計用語をベースにして私が適当に書いたものである。

統計検定のHPを参照すると、4級は中学生レベル、3級は高校生レベル、2級は大学基礎科目レベル、準1級は応用的な統計学レベルらしい。統計検定と心理系院試は、当然直接的には関係ないが、ところが同じ統計学を扱っているだけあり、問題のレベルそのものは似通う(統計検定の方がはるかに難しいが)。

私の個人的な感想を言うと、1~2までは全員必須、3は受ける大学院による、4は統計で点を稼ぎたい人にという感じだ。いわゆる難関校でも、4は殆ど出題されない(出題されても受験生はほぼ書けないと思われる)。

どうだろうか。人によっては、1すら知らない、という事もあるだろう。中学生レベルも知らなかったのか、と落ち込むかもしれない。安心して欲しい。やってくうちに嫌でも覚える

心理統計の問題について

若干補足的な話になるが、心理統計の問題については、受験校の傾向をかなり気にした方が良い。人によっては、どう頑張っても無理と言いたくなるような、表•図の読み取り計算を伴う出題をする院も存在する。こと心理統計については、過去問をいちはやくチェックするべきだと私は思う。

思わぬ落とし穴~心理研究法について~

さて今まで、私はある事に言及せずに書き進めてきた。それは見出しの通り心理研究法である。統計と研究法は、全く異なるものだ。

この事が分からない方も、もしかしたらいるかもしれない(過去の私)。そんな心理系院試バブちゃんのために簡単に説明すると、

統計:研究法の中でも量的研究で用いられる分析方法で、数量的にデータを把握・処理すること。院試においては、用語説明レベルからt検定や因子分析の結果を分析させるような問題まで様々ある。
心理研究法:心理学の研究における手法。質問紙法・実験法・面接法・観察法などがあり、院試においては、各下位分類や注意点等が出題されがちである(ex:層化抽出法とは何か,ABデザインでなくABA,ABABデザインを用いるメリットは何か)。

↑こんな感じになる。つまり統計とは、研究法の中でも量的研究で用いられるデータの分析方法なのである。

であるから、心理系院の受験生は、心理統計の勉強に加えて、そもそも心理研究法の勉強もしなければならないのだ。

心理研究法の知識レベルについて

これは私個人には手が余る話だ。下記に研究法に関する過去問を載せるので、各々何とな~く現在の実力について把握して欲しい。

実験において無作為割り当て(random assignment)を行うことの利点について説明しなさい。
筑波大学院・2022年
臨床心理学における量的研究と質的研究の特徴についてそれぞれ述べなさい。
神戸松蔭女子学院大学院・2020年
「インターネット」「友人関係」「適応」をキーワードに研究を行うと仮定して、あなたはどのような計画を立てますか。目的と意義・研究方法・予想結果についてそれぞれ述べなさい。
東京学芸大学院(改題)・2021年

いや~~~~~~幅が広過ぎる。ちなみに、上二つは出来ておいた方が良い。学芸大院の計画立案はかなり難しい。もっと難しい問題を出すところもあるけど。

計画立案の問題について少し

以下は私個人が勝手に考えている事なので、参考程度にされたい。

学芸院は問題のヒント(採点基準)を掲載しており、それはなかなか参考になる。それを参照しつつ考察すると、「インターネット」「友人関係」「適応」に関する臨床心理学的知識+適切な研究法及び分析法の取捨選択+仮説の設定と結果の予想が出来ているか、この3点が採点する時に見られるんじゃないかなァ~~~~??? という気がする。知らんけど

だが実際、計画立案の問題を解くと、この三つが出来ていないと書けないことに気付かされるのだ。

他学部卒のための勉強法

ここまで読んだら他学部卒の人でも、おおよそ『己を知』る事が出来ているのではないだろうか(彼を知る、は各々の受験校の傾向に依存する)。

漸く本題だが、ではどんな勉強をすれば良いのか、という話である。『百戦殆からず』にするためには、適切な勉強を行う必要がある。適切な勉強を行うためには、適切な参考書がいる

ちなみに私は、心理統計(および研究法)に関してほぼ独学だった。なので多少なりとも他学部卒の人にとって参考になると思われる。

おすすめの参考書とサイト

この本は神だ。ものすごくわかりやすい。それに尽きる。しかも、心理統計の根本的な理解についてロジカルにわかりやすく解説してくれる。サブタイトルの「統計手法の選び方」がミソで、これは前章で触れた、「計画立案」を出題する院を受けるにあたって必須の知識である。私が知るところだと、学芸大、早稲田、他国立大が該当する。

わかりやすいものの、やはり初学者にはまあまあキツい。一日に一章、ゆっくり読んでいくと良いと思う。

ぶっちゃけこれ一冊だけでも良い。それくらい良い。練習問題もあるし回答解説もあるし、各用語をレベル分けした索引まである(かなり便利)。唯一、何故か院試頻出である「信頼区間」だけ本文中の記述が0なので、統計の難度が高めの院を受験する場合は自習しておこう。

新書サイズで携帯しやすいが、言い回しがいちいち小難しく、更に本文中は同じサイズの明朝体がずらずら~~~と並んでいるので(視覚的に)起伏に乏しく、まさに寝落ちに最適だ

ところが言い回しにさえ慣れてしまえば、説明は意外にわかりやすく、更に(院試における)情報量は満点で、"アクション・リサーチ"・”フォーカスグループインタビュー”・”Cohen's d”など、まあまあニッチな単語まで載っている。その上、研究における具体例や実施上の注意・限界・倫理的配慮にいたるまで詳しく載っている。各用語の英語表記もあるのが嬉しい。私は本文中にマーカーを引いたり付箋を貼ったり、覚えておきたいと思った用語に関してはルーズリーフに書き写し、反復させていた。

だがこの本の欠点を言うと、臨床心理学分野の研究法に弱い(質的研究・効果研究など)。ただそれは、ほぼ完璧にミネルヴァのよくわかる臨床心理学でカバーできる。

また下のサイトでも自習可能だ。

このサイトは、最早心理系院試におけるweb大辞林である。分からない単語が出てきたらここで調べたら大体出てくる。心理統計に関しては上二つの本でしっかり勉強して、研究法に関しては有斐閣の本とよくわかる臨床心理学を携えると良いだろう。

補足

時間をかけよう

私だけではないと思いたいが、統計および研究法の勉強は難しい。というか細部まで理解する事は不可能だし、基本的な事ばかり理解するといっても、こればかりは短期間でどうにもならない。私自身、秋受験の全落ちが確定した後10月中旬より始めた事は、心理統計・研究法を1から学び直す事だった。

そこから本番に至る2月頭まで、つまり4ヶ月弱もの間、心理統計と研究法に関しては殆ど毎日何かしら学習し続けた。逆に言えば、他学部卒でも、3,4ヶ月くらいかければ何とか難関レベルまで食らいつくことが可能である。

一つの本を繰り返し学習して良い

何故か知らないが心理系院試では『複数の本をもとに学習するべし』みたいな言説がある。

たとえば、"分散分析"に関して学習したい場合、統計の本を2,3冊くらい開いて各本の該当箇所を読み比べ、それらをもとにノートにまとめる……みたいな勉強法である。

個人的には、一つの本を繰り返し通読•演習し、知識を定着させる方法がおすすめである。少なくとも私はそうした。

対比させて覚える

勉強してると、色々似ている用語が出てきて困惑する。内的妥当性と内容的妥当性、無作為抽出と無作為割り当て、事例研究と単一事例実験……これらは字面だけ似てるが、それぞれ全く異なる概念である。

こういう紛らわしいのほど、対比させて覚えるチャンスであり、まとめノートの出番である。内的妥当性は"交絡/統制"が関連して、内容的妥当性は"網羅性"がキーワードだったな……みたいな。スマホで検索してスクショして画像編集すれば、電子版まとめノートにもなる。

スマホで出来る勉強法

紛らわしいからこそ、区別して覚えてしまえば、そうそう忘れる事はない。

まとめ

私は哲科出身なので、当然(?)院試の勉強を始めてからこれらの概念を知った。母集団と標本、という単語すら、耳にした事はあっても意味は知らなかった。ニーチェとかショーペンハウアーを勉強してたんだから知らなくて当然だよなあ!?

でも統計の勉強は、やってから気付いたがそこまで苦じゃなかった(数式は厳しいが)。大変は大変なのだが、ロジカルな世界なので、ある種全て道理にかなっており、おもれーな、と感じる瞬間は結構あった。相関と因果の取り違え/切断効果/交絡と統制/質問紙の尺度は質的変数か量的変数か/サリヴァンの関与観察/RCTと事例実験とメタ分析……ここらへんの話には、学問としての面白さを感じていた。特に、点で覚えていたような知識が、時間をかけて学習する事によって、線で繋がってくるような時は面白かった。

いずれにせよ、他学部卒でも心理統計は何とかなるので諦めずに頑張って欲しい。

それではまた次の記事でお会いしましょう。