佐伯君をクビにする! 迷わず行けよ、行けばわかるさ。行くぞー1.2.3話

目次

1.way 迷わず行けよ
2.way 行けば分かるさ
3.way 行くぞー!
4.way寝言も本気
5.way崖っぷちは落ちてからが勝負
6.way無謀かどうかは結果論
7.way馬鹿野郎てめぇこのヤロウ!は友好の言葉
8.way主役になれないなら神になれ
9.way変人に変態する勇気
10.way侮れないバカになれ 

1way

「この道を行けばどうなるものか」
突然であった。
私の部下は物思いに耽っている。
新世紀エヴァンゲリオンの親父殿よろしく鋭い眼光である。
……言っていることは猪木様の言葉であるが、なにせ部下の目は鋭い。
「どうしたの、佐伯くん?」
「課長に聞かれてしまった」
会話かと思ったら心底ウザそうな心の声なのだから、近頃の若者は困ったものである。
「隣なんだから聞こえるよね。君の渋い声よく通るし。で、どうしたの」
あまり聞きたくはないけれど、上司として聞かざるを得ない状況にため息ものなのだ。
「実は課長、嫁がヤクザに拉致されました」
コイツはそんなに僕と話をしたくないのだろうか、と思いたくなるノンスマイルの冗談は心に響くものがある。悲しみのため息とともに重い口を開くしかないのだ。
「……君の奥さん、君が嫌で1年前から実家に帰ってるんでしょ」
「義父がヤクザになったそうで。何度か帰ってこようとした嫁を包丁で脅しているそうで」
なんだかきな臭い話になってきた。

2way

「それで、課長。義父がこれを会社に送ってきまして」
小包をがっちり掴んだ佐伯くんはもう一度「この道を……以下略」を唱えた。
「佐伯くん、何これ?」
「ブービートラップです。義父に嵌められました。今下を向いている私の人差し指の下に赤いスイッチがあったのです。つまりいまスイッチオンです。ちなみに説明書が添付されてました。『指を離すと……ガキの使いやあらへんで』とだけ」
意味不明だよ。
「足元にはチクタクな感じのボックスもあります。ですから、この道を行けばどうなるものか、と」
「ダメだよね、離したら爆発とかそんなのだよね! 警察沙汰だよ佐伯くん!」
「課長! もうダメなんです。おションが限界なんです! 迷わず行けよ! 行けばわかるさ! 」
「離すな! 離しちゃダメだよ! わかる頃には死んでるよ!」
「おションを漏らしてもいいのですか!」
「いいから! 誰にも言わないから! おション漏らしても死なないから!」
「社会的に死にます! それだけは嫌だ! 人類の尊厳は偉大なり! もう無理だ! 行くぞー!」
離しやがった。
割と可愛がっていたと自称したくなる部下はおションと皆の命を天秤にかけておションをとったのだ。
許し難い!
あぁ、嘆かわしい!

3way

しかし、何も起こらない。
指を離した瞬間に脱兎脱帽、帽子どころか毛皮だけが残りそうなぐらいの勢いで駆け出した佐伯くんがトイレに向かって数秒経ったが、何も起こらない。
「課長、何か起こりました?」
許し難き佐伯が戻ってきた。
「起こってないよ、起こってないけど佐伯くん、僕はとても怒っているよ」
私は彼をクビにした。

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