第6話 無謀かどうかは結果論

6way
3日後である。
あれからというもの、私の廃退の様はもう……
貯金だけはよく貯めたものだと思っていたが、逆にそれが仇となった。
習慣となった朝5時の起床時間から浴びるほど酒を飲む。
昼頃から寝る。
風呂は入るがヒゲは剃らない。
髪もくしゃくしゃ。
見た目はドロドロだった。

そんな最中、突然妻が戻ってきた。
「あなた、何をしているの?」
妻は言う。
「私があなたを捨てたと、そう思っているの?」
最早、私から声と呼ばれるものは出なかった。
ただ、涙が出る。
うな垂れる体を鏡が写す。
ほうほうの体で縋り付いた妻の体は、とても温かく、とても安心できた。
自分が幼児退行したのではないかと思うほど、妻が撫でる私の頭はくすぐったくて、そして目は腫れていった。
「あなたは、私のことをいつも一番に考えてくれる。その気持ちが拗れて、私には仕事の話を何もしてくれない。どうにもならなくなって初めて、クビになった、その一言だけ。あなたのことはよく知っているわ。だって夫婦だもの。いろんな我慢をし合った仲だもの。だから、そこまで話ができなかったあなたの我慢を責めない。でも、今度はもう少し、あなたの不安を教えて欲しいの」
妻は私を抱きしめた。
涙でドロドロの私を見て、まだ恋だった頃のあの笑顔で私を抱きしめた。
私の妻は、私を見捨てたりなどしないひとだった。
「あなた、復讐をしましょう」
「え?」
「佐伯さんのことは会社の人に聞いたわ」
「今まで調べていたのか」
「そうよ。あなたにあんな顔をさせたのが誰なのか。私を大切に思ってくれるあなたを貶めたのが誰なのか。喧嘩をしたって、暴言吐いたってあなたは私の一番なんだから。そんな人を困らせるだなんて、私には許せない」
「しかし、俺はもうあの会社の人間じゃない……誰も引き止めてくれなかったんだ。もう戻れないよ」
「弱気なこと言わないで。いつものあなたは私を守ってくれるじゃない。これはその延長よ? 会社に戻って? お願い。私を、守って」
そうだった。私が働かなきゃ、私は妻を守れない。
取り戻さなければ。
取り柄のない私が、唯一妻を守る手段を。
あの会社であの地位に着けたのは、妻を支えたい一心だったんだ。
それをあんな訳のわからんクソガキに奪われたんだ。
奴が戻れて、私が戻れない筈がない!
ことはやらねば結果は出ない。
無謀かどうかは、終わってみなければ分からないのだ。
「ありがとう。俺はお前を守る」
「うん、よろしくね」

ネクスト

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