「ソーシャル・インパクト・ボンド」を検討している事業者の方へ
弊社は、日本初のソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)を組成して以降、国内の主なSIB案件全般に深く関わってきたという実績から、SIBに関するお問合せを多くいただきます。その中には、事業者の方が「新規事業として」「行政へのアプローチとして」と関心を寄せられる例も多くあります。
そこで今回は、SIBについてよくあるご質問、ご相談についてお伝えしたいと思います。そもそもSIBとは?についてはこちらをご覧ください。
SIBには「社会的成果」の買い手が必要
まず最初に押さえたいことは、SIBには「社会的成果(社会的価値)の買い手」が必要、ということです。事業者などの取組みによって社会課題が解決された、もしくは新たな社会的価値が生み出されたとき、それに対して資金を出すところです。
いまのところ日本では、ここを行政(政府や地方自治体など)が担うケースがほとんどです。(海外では、他に、国際機関や財団などが担う例もあります。)行政が公共サービスを民間に委託する際、「これまでとは違う方法を試したい」「でも成果が出るかはわからない」という場合に、行政が出す資金を「成果」に連動させることでリスクを下げ、新たな民間との連携を可能にする手法の一つがSIBです。
そのため、事業者が「より効果的な行政サービスのために、自分たちの技術やサービスを活かしたい」とSIBを検討する場合、その成果の買い手が誰になるのか?が最初の確認ポイントとなります。お問合せいただく事業者の中には、既に特定の行政などと話を進めているところと、そうではないところがあり、後者の場合は、まずはその主体を見つけることが必要になります。
それは、SIBになり得るか?
事業者が活用したい技術やサービスは、SIBを活用できるものなのか?については、基本として次の2つを確認します。
1つめ。それは「行政サービス」になり得るのか? 既に行政がやっていること(例:がん検診の受診勧奨)であれば明らかに行政サービスで、それをさらに効果的にできる技術やノウハウであれば、SIBとなる可能性が出てきます。行政がやっていないことであれば、まずはそれが行政サービス(公的サービス)になり得るのか?を考える必要があります。本来は行政がやるべき公益のある領域、民間ビジネスにはならない領域かどうか。
2つめ。それは行政から民間に委託できるものか? これも既に委託されていれば、SIBになる可能性はあります。一方、行政サービスの中には民間に委託できないものがあり(例:予算編成)、そうしたものはSIBの領域からは外れることになります。
SIBが「最適」なのか?
上の2点から、それが「行政が民間に委託して、より良い成果をめざしたい」と考える領域といえる場合。次に考えるのは、その民間委託の方法として、SIBが最適なのか?ということです。
SIBには2つの要素が組み合わさったものです。1つめは、支払いが固定ではなく、成果連動であること。2つめは、その支払いを民間からの資金調達で賄うこと。つまり、SIBが最適なのか?という問いは、この2つの要素が必要なのか?を考えることでもあります。
1つめについて。固定より成果連動の方が良い、というのは、行政にとって「それがまだ本当に成果が出るかわからない」「最も成果が出る方法がはっきりしていない」など、行政にとって投資リスクが大きい場合です。反対に、事業者にとっては、固定であれば「成果に関わらず支払われる」のに対し、成果連動になると「成果を出さなければ支払われない」ので、リスクは高まります。一方で、固定であれば仕様によってやり方を固定されるのに対し、成果連動は基本的には「成果が出るならやり方は自由」なので、事業者側のモチベーション、イノベーションが促進されるという側面もあります。
なお、この成果連動の支払い契約は、PFS(成果連動型民間委託契約方式:Pay For Success)と呼ばれます。
2つめについて。そのPFSの中でも、さらに支払いを民間からの資金調達で賄うのがSIBです。民間から資金調達することで、事業者が抱えている「成果が出なければ支払われない」というリスクを、投資家に移転することができます。ただし、外部の投資家を入れると、それだけ契約が複雑になるのに加え、通常は資金調達コストを事業者が負担するため、それでもSIBにする必要があるか?は慎重に検討する必要があります。たとえば、成果が出なくても経営への影響が小さければ、投資家を入れないPFSの方が適している場合も少なくありません。一方、成果が出ないと経営に深刻な影響が出る場合や、規模が大きい(数十億など)場合には、SIBを検討することになります。
組成コストは、一般的に、固定報酬型→投資家を入れないPFS→SIB、の順に高くなるので、そのコストを加味してもなおSIBが最適なのか?と考えていきます。その結果、それなら投資家を入れないPFSに、固定報酬型に、となることもままあります。
行政との連携で大切なこと
最終的にどのような契約形態になるにしても、将来的に行政との連携をめざす上で、大事なことは何でしょうか?
一つ言えることは「エビデンスをとる」ことです。その技術やサービスは本当に成果が見込めるのか?それは現状よりも高い成果なのか?それらについて、ある地域での研究や実証に基づくエビデンスを蓄積することは、ゆくゆくPFS(含むSIB)で成果目標や支払い条件を決めるに当たって、重要な情報となります。何より、行政サービスの民間委託は、最終的には競争入札で決まるため、(契約形態にかかわらず)有力なエビデンスは強い切り札となります。
ケイスリーの役割は?
弊社は、SIBの調整・企画・設計・(民間事業者の)調達・資金調達と、最初から最後まで関わっていますが、基本的にはSIBの主体である行政側のアドバイザーという立ち位置です。そのため、直接的に事業者を支援する立場ではないですが、行政とやりとりする中で具体的な困りごとがある場合は、ぜひご相談いただければと思います。
SIBは、共通の社会課題に対して、異なるセクターが連携するためのツールの一つに過ぎません。複雑化する社会課題の課題には民間の知恵と力が必要で、持続可能な社会のために、これからも様々な手法でパートナーシップを促進していく必要があります。そのため弊社では、行政だけでなく、事業者、金融、非営利にまたがる支援を行い、SIBに限らない多様な仕組みに挑戦し続けていきます。