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インパクト投資のもやもやを考える(4)「どんな企業にもインパクトはある」は本当か

「どんな企業も、そこに活動がある以上、何らかの(社会的・環境的)インパクトがある」という見方がある。それは、正しいかもしれない。しかし、もしこれが正しいなら、「すべての企業に対する投資は、インパクト投資である」ということが成り立ちそうである。今回は、これについて考えてみたい。

企業活動とインパクト

前回、「インパクト投資」における「インパクト」とは、「組織に起因するアウトカム《効果・影響》の変化のこと。正もあれば負もあり、意図されたものもあれば意図されないものもある」という意味だと確認した。

「インパクト」は、プラスもマイナスも含む。狙ったものも狙っていないものも含む。とすると、「すべての企業活動にはインパクトがある」は、やはり正しいと言えそうだ。

倫理的投資の対象から外されるギャンブルや武器に関わる企業にも、それはマイナスかもしれないけれど、インパクトがある。(もちろん、同時にプラスのインパクトがある可能性も十分にある。)かつて深刻だった工場による大気汚染や水質汚染も、それが認識されていたか否かに関わらず、明らかなインパクトだ。どんなにささやかな活動も、そこに関わる人がいる限り、そのモノやサービスが誰かに受け取られる限り、やはりインパクトを生んでいる。何のインパクトもない企業活動は、なかなか思いつかない。

投資とインパクト

それならば、「すべての企業に対する投資は、インパクト投資である」といえるのか。

ここで1回目で見たインパクト投資の定義に戻ると、それは「NO」になる。

インパクト投資とは、金銭的なリターンと同時に、正の、かつ計測可能な社会的・環境的インパクトを生み出すことを意図して行う投資のこと(GIIN)

インパクトなら何でもよいのではなく、「正」かつ「計測可能」という条件がついている。

「正」はわかるとして、「計測可能」とは何だろうか?国際的な枠組みを作っている Impact Management Project (IMP)は、インパクトを測るには5つの側面を見よ、と言っている。

1.WHAT(どんなインパクトなのか?)
2.WHO(誰に対するインパクトなのか?)
3.HOW MUCH(どのくらいのインパクトなのか?)
4.CONTRIBUTION(インパクトへの貢献度は?)
5.RISK(どんなリスクがあるか?)

逆に言うと、これに答えられることが、「計測可能」の基準と言えるのかもしれない。

ここでまず、「WHAT(どんなインパクトなのか?)」に注目してみる。単純に、その企業の主要なインパクトが「正か負か」という軸だけを用いると、答えは4通りほど考えられる。

① 正のインパクトがある
② 負のインパクトがある
③ 両方ある
④ わからない

①であれば、わかりやすく「インパクト投資」と結びつく。では、②や③の場合、つまり大きな負のインパクトがある場合はどうか。

下は、同じくIMPの、企業や投資の総合的なインパクトの分類である。「WHAT(どんなインパクトなのか?)」に対して、「負のインパクトがある」という場合、あるものはDに、あるものはAに分類される。その違いは何か。

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それは、負のインパクトがあっても、それを把握し、小さくする努力をしているかどうか、にあるようだ。温室効果ガスを大量に排出する産業が排出削減の技術を導入したり、不当に安い賃金で働いている労働者の労働条件を改善したりしてればAに、それを認識していても何の対処もしなければDに、などと考えられる。

そして、④「わからない」場合は、Dに分類されることも重要な点だと思う。もしかしたら重大な正のインパクトかもしれないし、負のインパクトかもしれないけれど、わからない以上は「負のインパクトを生んでいるかもしれない」と認識されてしまう。

ここから言えること

ここまでで、2つのことが言えそうである。

1つめ。とにもかくにも、「どんなインパクトがあるのか?」を知ることが第一歩、ということ。正のインパクトがあっても認識されなければ(投資においては)存在しないのと変わらないし、負のインパクトがあっても、それに対処することで「正のインパクト」を生むことができる。

2つめ。「どんなインパクトがあるのか?」を知ろうとすること、負のインパクトを減らそうとすること、それらはすべて「正のインパクトを生もうとする意図」がなければ為されない。やはりインパクトは「意図」から生まれるのだということ。

ここでまた、スタート地点の「意図」に戻ってきた。一体この探索が前に進んでいるのか分からなくなってしまったけれど、このまま次回は、「インパクトの5つの側面」をもう少し丹念にみていきたいと思う。

文/今尾江美子

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