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ピアノとソナタ 第5話



〇〇:ふぅ…

珍しく緊張してる
いや、こんなこと言ったら失礼かもしれないけど…
1人に聞いてもらうこと自体初めてだ
多くの人に聞いてもらうのは慣れていた
でも今は…
1人のために…
全く違う感情だ…


ガラガラガラ


瑛紗:おはよう!


〇〇:もうお昼過ぎだよ笑


瑛紗:いいじゃん別に!そんなこと気にしないの!

青のワンピース
彼女によく似合っている


〇〇:学校なのに私服でいいの?


瑛紗:ん?夏休みだから大丈夫でしょ?


〇〇:怒られないかな…


瑛紗:そんな小さいこと気にしないし!久保先生しか見に来ないでしょ?それなら大丈夫!


〇〇:うーん…でも…

ムニュッ


〇〇:にゃ、にゃんでしゅか????


瑛紗:制服の私見てもつまらないでしょ?それにせっかくピアノ聴かせてもらえるんだから少しはおしゃれしたこと褒めなさい?いい?


〇〇:は、はい…


瑛紗:今日の服どう?


〇〇:い、いいと思います…


瑛紗:似合ってるとか可愛いとか言いなさいよ!!!!


〇〇:うわ!!暴力反対!!


どんな時でも彼女は彼女だ
池田瑛紗というのはいつでもこうやって僕にとって今を変えていく人であるのだろう
仮面とは誰にもあるのだが彼女にはどんな仮面があるのか
それは僕にとって…


〇〇:ハァハァハァハァ…


瑛紗:お主…相変わらずの逃げ足よの…


〇〇:そ、そなたも…


瑛紗:プッ、あははは!またそなたって言うんだ!笑


〇〇:い、今の流れはそうでしょ!


瑛紗:バーカ笑


〇〇:なんでだよ!


瑛紗:ごめんね、ピアノ弾く前に疲れさせて笑


〇〇:本当だよ…弾けるかな…


瑛紗:弾きなさい。そして私のために見せなさい


〇〇:はい…


瑛紗:見せてくれるんでしょ?私のために笑


〇〇:うわ…怖い…


瑛紗:ん?また鬼ごっこから始める?笑


〇〇:もういいよ笑


瑛紗:じゃあ聴かせて


〇〇:うん


ふぅ…
大丈夫だ…
今聴かせるのは母じゃない…
ここにいるのは…
ふと見た彼女の柔らかな微笑みは
僕の心に柔らかな風を送った

〇〇:…スッ


モーツァルト きらきら星変奏曲
フランスで当時流行していた恋の曲

僕は意味もわからなくその時弾いていた

恋なんて知らない
恋なんて出来ない
恋なんてやらない

だけどもどんな人にも感情はある
感情とは抑えが効かないものだ
ピアノの表現とは感情なのだ
あの時の僕は輝く星でも恋の表現ではなく
ただ…音を出すだけ
でも今は違う
彼女のため
ただここにいる1人のために弾く

いつか…
本当にいつか…

ダァーン♪


瑛紗:……


〇〇:ど、どう??


瑛紗:〇〇は本当に私のために弾いてくれてるんだね…


〇〇:え?


瑛紗:音がね…私の中に入ってくるの


〇〇:????


瑛紗:普段聞いてる音なんてただの音なんだなぁって。でも〇〇のピアノの音はこうしたいとか感情とか色んなものが溢れてるの。だから私だけに弾いてる音はどんなのなんだろうって思ってた。今日聴いてわかった


〇〇:うん…


瑛紗:あなたはピアノ弾いて…私のために…


〇〇:え?い、池田さんのために???


瑛紗:なに?不満????


〇〇:え?良い話だと思ってたらまさかまるで違う答えで出てきたから…


瑛紗:だって人前で弾いたら特別感無いでしょ?


〇〇:えーっと…


瑛紗:別に無理しなくていいよ???ただその時は一生恨んでやる…


〇〇:ひ、弾きます…


瑛紗:分かればよろしい笑じゃあもう一曲ね!


〇〇:え!?


瑛紗:弾けるのあるでしょ?笑


〇〇:ま、まあ…


瑛紗:じゃあ弾いて笑


僕は強制された
ピアノを弾くのをやめたのに
ただ彼女のペースは違う
純粋に楽しみに聴いて、そしてそれに幸福感を得ている
そしてそんな僕も
幸せだった

ストラヴィンスキー ペトルーシュカ

ーーーーー

夏休みのある日 〇〇の家

総馬:なぁ!今年の花火大会どうする?


美空:そうだ!江の島の花火大会!今年も見ないと!


〇〇:去年は会場行って大変だったしな…


瑛紗:去年もみんなで見たの?


総馬:〇〇の家から見えるんだけど去年は会場から見たくて…でもあんまり見えなくて大失敗した笑


〇〇:じゃあうちから見るの?


美空:その方がいいじゃん!


瑛紗:私も行っていい?


総馬:なに言ってんの?瑛紗も一緒に見るんだよ!


美空:ねぇ瑛紗?一緒に浴衣着ようよ!ね!


瑛紗:浴衣か〜いいね!


総馬:え?2人の浴衣?


美空:なに鼻の下伸ばしてるの??


総馬:え?


〇〇:総馬って…


総馬:ち、違うわ!ちゃんと美空を想像して!!


瑛紗:それもそれでどうなの????


総馬:たすけてくれー!!

花火大会は中学の頃から3人で見ていた
だが今年は彼女もいる
僕だって彼女の浴衣は…


瑛紗:なに?〇〇?


〇〇:え?


瑛紗:私の浴衣そんなに見たいの??


〇〇:そ、そういうわけでは!


瑛紗:照れちゃって〜顔真っ赤だよ笑


〇〇:ぐっ…


瑛紗:見せてあげてもいいんだよー??笑

こういう時の彼女は1枚も2枚も上手だ…
そして彼女は感情を読み解くのが上手い…

ーーーーー

〇〇:おばぁちゃん今年うちで花火見ていい?


祖母:大丈夫よ?私達は泊まりに行っちゃうけど


〇〇:え?


祖父:近くのホテル取ってあるんじゃ。ばぁさんと2人で見てるから好きに使いなさい


〇〇:また…すごいね2人とも…


祖母:じいさんが毎年花火大会はゆっくり見たいって言ってたから今年はそうしたんだよ


〇〇:ここでもゆっくり出来るじゃん


祖父:ここからの角度は飽きたんじゃ


〇〇:すごい贅沢…


ーーーーー

〇〇:というわけで今日は自由に使えるよ?


総馬:持つべきものは友達!おじいちゃん!おばあちゃん!


〇〇:よくわからないけど…


総馬:あの2人はもうそろそろ来るんじゃないか?


〇〇:迎えに行った方がいいかな?


総馬:前に来たことあるから大丈夫だろ?


〇〇:そうだね


総馬:それよりもこれ!


〇〇:スイカ?


総馬:切って準備しておこうぜ!


〇〇:うん!

ジャー


総馬:〇〇さ


〇〇:うん


総馬:瑛紗が来たらお前ら2人っきりにしてやるから


〇〇:え!!?え!!?なんで!!?


総馬:ニヤニヤ


〇〇:あ、、


総馬:別にお前のそれが恋なのかどうかはわからないけどよ?俺はお前ら2人がくっつく方がいいと思うぜ?


〇〇:でも…池田さんは僕のことをおもちゃみたいにしか思ってないよ


総馬:堅苦しいその言い方がお前から予防線張ってるようにしか思えないな笑


〇〇:……


総馬:お前の好きなようにすればいいんだよ笑それに…俺はお前のそういうことに向けられるほどの余裕が出来たことの方が嬉しいよ


〇〇:うん…ありがとう…

📱ブーブーブー


総馬:お!もうすぐ着くみたいだぞ?


〇〇:蚊取り線香用意しないと

ピンポーン


〇〇:あ、はーい!

ガラガラガラ

美空:お待たせ!

彼女の浴衣姿は僕を一瞬で惹きつけた
なんてこんなにも…


総馬:可愛いじゃん2人とも!


美空:えへへへ///


瑛紗:似合う?


総馬:似合う似合う!!な!!〇〇!!


〇〇:え?あ、うん…


美空:お邪魔しまーす!


瑛紗:〇〇は褒めないの???


〇〇:え、?


瑛紗:相変わらず下手だね〜笑お邪魔します!


美空:あ!スイカあるじゃん!


総馬:俺が持ってきた!


美空:花火見ながら食べるの??


総馬:もちろん!


〇〇:縁側に蚊取り線香いくつか置いておこう


総馬:2階からも見えるんだよな?


〇〇:見えるよ?あのベランダから


総馬:じゃあ俺と美空はそっちから見るわ


〇〇:え!!?


総馬:どうせなら高いところから見たいじゃん!ニヤニヤ


〇〇:(やられた…)


美空:いいね!瑛紗は縁側で見る?


瑛紗:こっちで見るよ、〇〇もこっちね!


〇〇:え!!?


瑛紗:なに?


〇〇:は、はい…


美空・総馬:ニヤニヤ

ーーーーー

瑛紗:あと何分くらい?シャリムシャムシャ


〇〇:多分あと10分くらいかな?


瑛紗:夜になるとこの家からこんなに綺麗に町が見えるんだね〜


〇〇:う、うん


瑛紗:私友達と初めて花火見るんだよね〜


〇〇:そ、そうなの?


瑛紗:なんかタイミング合わなくてね笑それで家族としか見たことなくて…でも今年はこうやって見れて嬉しいんだ〜


〇〇:そうなんだ…

緊張して上手い返しもなにも出来ない…
隣で浴衣を着てる彼女は僕には眩しすぎた…


瑛紗:ねぇ聞いてる?


〇〇:え?な、なに?


瑛紗:スイカ食べないの?


〇〇:た、食べます!食べます!


瑛紗:なんで2回言うの笑


〇〇:ごめん…


瑛紗:謝ることじゃない笑


〇〇:……


瑛紗:〇〇はさ、堂々と生きていいんだよ?


〇〇:え?


瑛紗:君の凄さは私がよく知ってる!昔からね…


〇〇:え?

ヒュー…ドン!


瑛紗:綺麗だね〜


〇〇:う、うん…

彼女のアーティスティックなことは僕もわかっている
何度も見て、何度も話し、繰り返しの中で彼女には近づいて離れていく感覚があった
見えないなにかを彼女は持っていることは…


瑛紗:もし…


〇〇:え?


瑛紗:もしもこの花火が終わった時に…私がいなくなったらどうする?


〇〇:…考えたこともなかったな…でも…探すよ…僕は…い、池田さんのことが…大事だから…


瑛紗:…ふふ


〇〇:え?なんでわらっ…



ヒュー…ドーン!





一瞬の花火の光のように



彼女は




僕の唇にキスをした




そして彼女はまた花火を見上げた

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