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読書感想『ある特別な患者』

こんにちは。栗原白帆です。朝日新聞の書評で気になった『ある特別な患者』を読了しました。

作者はオランダでジャーナリストをしている女性です。彼女が新聞に連載した医療従事者へのインタビューをコラムとして連載したものをまとめたもので、オランダではベストセラーになったとのことですが、納得。
医師も一人の人間なんだということを、痛切にかんじることのできる1冊です。

ただ、私はこれを医療従事者に限った話と読むのではなく、人と接するすべての職につく人たちに共通する感覚を描いたものだと感じました。

たとえば私は教員ですが、この本の中で印象的だったのは次の一節です。

私たちは、あくまでも謙虚に、自分にできるささやかな貢献を続けていくしかないのだ。

『ある特別な患者』2021年12月発行 P.240

これは二人の少年の命に直面した医師から、「自分には患者の人生を変える力がある」と思いこみがちな駆け出しの医師に対するメッセージです。

同じことを我々教員も肝に銘じなければならないと思います。

教員はときに生徒の人生の岐路に一緒に立つときがあります。
進路を考えるとき、高校生活を考えるとき、友人関係や親子関係について一緒に考えることもある。

高校生の世界はせまく、彼らにとって信頼できる教員の言葉の影響力はこちらが思っているより強烈である場合があります。
こちらが正しいと思う方を生徒が選択し、のちに感謝されたりすると教員はつい誤解してしまいます。

「私のおかげで、この子は正しい選択ができた」と。

でもそうじゃない。それはいくつかの偶然と本人の努力がたまたま重なって生まれた結果であって、うまくいかず生徒や保護者から恨まれる結果になることだって十分ありえたことなのです。

生徒の人生に関わるとき、結果にどれほど感謝されたとしても、それは実際のところは、生徒自身の努力であり、運であり、成果です。
私たちがしたのは「ささやかな貢献」であること。それを忘れて驕ってはいけないと思います。

この本に登場する医療従事者の方たちは、誰もが謙虚に患者に向き合っていました。美談ばかりではなく、死なせてしまった患者についても赤裸々に語られていて胸を打ちます。

読み終わった後、再び読み返したくなる一節がありました。

好むと好まざるにかかわらず、患者と過ごしたすべての時間が医師を形作ると私は思っている。

12月発行 P.337

「患者」は「生徒」に、「医師」は「教員」に置き換えても同じことだと思います。他の職業にも当てはまるはずです。

生徒と過ごしたすべての時間が教員を形作る。
謙虚に彼らに向き合いたいと思わせてくれる、すばらしい一冊でした。


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