分子レベルで見るベルヌーイの定理
ベルヌーイの式で、
[静圧] + [動圧] = Const.
すなわち、流速が増すと静圧が減少することの考察です。
前回の記事は、
そういえば、「スッパ抜く」の語源が保留でしたね。(え?どうでもいい?まあそう言わずに、せっかく調べたのでお付き合い下さい。)
「スッパ」とは、南北朝時代の武将、楠正成につかえた忍者達のことだそうです。「透波(すっぱ)」と書き、情報収集能力はずば抜けていて、この忍者達の行動が常に意表をついたものだったことから、裏情報を掴む事を「スッパ抜く」というようになったとのこと。
ずいぶん昔からある言葉だったんですね。とうんちくを披露してみたのですが、南北朝時代とはどんな時代だったのかというのは、ほとんど知らないのでした。。。
閑話休題、
流体というのは、一般的には「液体」か「気体」です。広義には、いわゆるゲル状の「塑性体」なども含みますが、ここでは考えやすいように、これらのどちらかとします。
「液体」や「気体」では、分子1つ1つが、あちこちでたらめの方向に運動しています。そして、同じ圧力下(例えば大気圧下)であれば、「固体」より「液体」、「液体」より「気体」の方が、分子のエネルギーが高く、分子同士の束縛力(分子間力)が弱いのです。
さて、ここで「圧力」を分子レベルで考えると、流体が満タンに入った容器を考えて、その壁面に流体の分子1つ1つがぶつかった時の、力(力積)の総和と考えることができます。すなわち、分子がランダムに運動する、「熱運動」のエネルギーが、流体の圧力となっています。
これらを踏まえた上で、流体の流れを微視的に見てみましょう。分子一つ一つの運動を考えると、2種類の運動に分けることができます。
1つは先ほど述べた、圧力の正体である「熱運動」。もう一つは、流れ方向に向かう運動(「ドリフト運動」と言います)です。前回のゴムマリのイメージで、それぞれゴムマリ内の空気の動きと、ゴムマリ全体の動きに相当します。
しかし、これら2つは、同じ分子の運動エネルギーです。つまり,静止している流体では、分子の運動エネルギーは全て、「熱運動」のエネルギーになっています(下図)。
[図1]流体が静止しているときの分子の運動状態
それに対し、流れている流体では、分子の運動エネルギーの大半が「ドリフト運動」のエネルギーになっているわけです。
[図2]流れている流体の分子の運動状態
巨視的に見ると、ベルヌーイの定理の「動圧」部分が「ドリフト運動」、「静圧」部分が「熱運動」になっていて、動圧が上がればその分静圧が下がるのです。
実際の流体では熱の出入りがあり、液体では「位置エネルギー」も効いてきますから、もっと複雑になりますが、大まかなメカニズムはこんなところです。
ところで、ベルヌーイがこの定理を作った頃は、まだ原子や分子の存在など現在ほど明らかになっていません。ではどうして、こんな事が考えられたのでしょうか。
実は、ベルヌーイはすでに、流体力学の視点から分子運動論を築こうとしていた節があります。そしてそれは、熱力学を大きく発展させていくことにつながっていました。
次回からは、熱力学の発展の歴史についてお話ししようと思います。
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