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ローマで髪を切ってもオードリーヘプバーンにはなれないし、ジェラートは高いし、イタリアの好青年には出会えない

「できるだけ短く。あとはおまかせします。」

2020年2月初旬、私はローマのとある美容院にいた。1ヶ月前まで成人式のために伸ばしていた髪。バッサリと切るのはローマでと決めていた。

映画『ローマの休日』にこんなシーンがある。

アン王女

オードリーヘプバーン演じるアン王女は、退屈な城での日々から抜け出しローマを巡るのだが、その途中、偶然通りかかった床屋で大切に伸ばしていた髪をバッサリと切る。

アン王女

そしてそれが、なんとも美しく、愛らしい。

アン王女バイク

控えめに言っても、めちゃくちゃ、かわいい。

「よし、私もローマで髪を切ろう。名前も知らない偶然通りかかった床屋で、バッサリと髪を切ろう。」

そしてローマでの最高の休日を過ごすべく、私は淡い期待を抱きながらはるばるイタリアを訪れたのである。

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夢の国

そもそも当時どのくらい髪を伸ばしていたかというと、写真の中央で楽しそうに笑っているのが私です。もうかれこれ2年ほど、ロングでした。

加えて私は、成人式までの20年間美容師を変えたことがありませんでした。美容師の方が母の知り合いで、私は小さい頃からずっとその方に髪を切ってもらっていたのです。進学して地元を離れても、髪を切るのは帰省したとき。その美容師の方以外の人に自分の髪を委ねることが怖く、謎の抵抗感を持っていました。

なのでこの試みは二重にも幾重にも、私にとって初めての経験でした。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港に到着後、シャトルバスでローマ中央にあるテルミニ駅へ向かいます。私のローマの休日が開幕しました。

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早朝からバチカン市国を堪能でき、次第にお店もぽつぽつと開いてきたので美容院を探すことにしました。

ぐるぐると歩き回り、ようやく出会えた美容院。よし、ここだ。

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「できるだけ短く。あとはおまかせします。」

美容師の方は姉御感ただよう女性の方。何の前置きもなく、まずは肩のあたりまで私の髪をバッサリと切りました。

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「あっ」

と言うまもなく頭が軽くなり、足下は私の髪が悲しいほど多く散らばっていました。

そしてシャンプー台へ案内してもらい、「首痛くないですか」「お湯加減は大丈夫ですか」「痒いところはありますか」など声をかけられることもないまま、豪快に頭を洗われました。(めちゃくちゃ首が痛く、この状況を客観視するあまり可笑しくなり、お腹も表情筋も死にそうでした。)

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無事に首を守りぬき、美容師の方は最後の仕上げに向かうべく軽快にハサミを入れていきます。鏡に写る自分を見ながら、ようやくこのとき「私、なんでローマで髪切ってるんだろう」と自問することができました。

そして切り終えたのがこちら。

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なんだかんだ、お気に召されたようです。

ローマの休日ジェラート

そしてそのままスペイン階段へ向かい、ジェラートを食べることにしました。映画でも、アン王女はスペイン階段でジェラートを食べ、そこにグレゴリー・ペック演じる新聞記者のジョーが現れます。

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スペイン階段はジェラート含め飲食物を持ち込むことはもちろん、座ることさえも規制されているため、階段の近くで食べることにしました。

ちなみにこのジェラート、日本円でおよそ1500円。まだユーロの値段感覚に頭が追いついていなかった私は、「12€」を妥当だと勘違いし、嬉しそうにこのジェラートを受けとっていました。

後々気づくのですが、周りには3€や、高くても5€のジェラートがたくさん売っています。完全に騙されました。

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ローマは街が1つの美術館のように観光名所がぎゅっと詰まっていて、少し歩けば映画で登場した聖地なる場所が現れます。とても綺麗でした。

しかしどこまで歩いても、私に声をかけてくれる好青年が現れることはありません。そして日は沈み、私がアン王女になることはありませんでした。

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「髪型、このモデルさんのイメージでお願いします。」

美容院に行くとき、誰もが漠然でも「こんなイメージ」と理想の髪型を思い浮かべているのではないかと思う。ローマでの私は、髪を短くすることで、完全に映画のヒロイン・アン王女になった気分でいました。

しかし髪を切っても、スペイン階段でジェラートを食べても、私は私で、アン王女に、オードリーヘプバーンになることはありませんでした。

髪は自分を纏う1つのアイテムでしかなく、服やメイクと同じで、私はまぎれもない私で。どこへ行っても、どんな髪型にしても、私は私でしかないことを、ローマが教えてくれました。

それでも、髪は伸び、私は何度も美容室へ通い続けます。未だわかっていない自分に似合う髪を模索しながら、これからも、鏡に写る自分を大事に磨いてはご自愛していくのだと思う。

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帰国後、私は通い続けた地元の美容院でなくても髪を切ってもらうことができるようになりました。最近は、パーマなんか当ててみたり... まだまだ模索は続きます。

しかし未だ、あのローマでの豪快な散髪を越える美容院は現れません。日本は、とても丁寧で素敵な国みたいです。

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