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タヌキの弁明(5)
取調べ方(以下、「調」) 「それでは被告人に質問します。あなたがおばあさんと二人きりになったときのことを尋ねします。おばあさんはどんな着物を着ていましたか?」
たぬき(以下、「た」) 「はい。紺色で白い井桁のような模様がところどころにある着物を着ていました」
調「どんな素材からできていましたか」
た「わたしは布の素材のことはよくわかりません。たぶん木綿だと思います」
調「あなたの話では、おばあさんとあなたが大鍋の近くで争ったということですが、そのときにもその着物を着ていましたか?」
た「はい」
調「では、おばあさんは、その着物を着たまま大鍋の中に落ちてしまったことになりますね?」
た「はい。その通りです」
調「木綿の着物は、お湯の中に入れておくと、溶けてなくなりますか?」
た「わたしは着物を着ないのでよく分かりませんが、溶けないと思います」
調「お奉行様。取調べ方からここで、証拠の提出を申請いたします。これは、おじいさんが仕事から帰り、たぬき汁であると信じて大鍋の中身をお椀一杯分食べた後の、その大鍋の様子を示す写真であります。…被告人に質問します。この写真をよく見てください。さっきお話をしていた、おばあさんの紺色の着物がどこかに確認できますか?」
た「いいえ、見えません」
調「先ほどあなたは、『おばあさんの肉はトロトロになっていたことでしょう』と言っていましたが、着物もトロトロに溶けたのですか?」
た「いえ、着物が溶けたとは思いません」
調「お鍋の中におばあさんの着物が浮かんでいたら、おじいさんはその鍋の中身を食べると思いますか?」
た「それは分かりません。だいたい、『おばあさんの肉はトロトロになっていたことでしょう』と申し上げたのは、おじいさんが大鍋の中身を食べたらおばあさんの肉が入っていた、とお取調べ方がおっしゃていたので…」
調(途中で遮って)「では、次の質問です。うさぎがもともと月の住人だと話した、と言ってましたが、あなたはそれを信じていますか?」
た「荒唐無稽だと思っていましたが、本当かもしれません」
調「なぜ、本当かもしれないと思うのですか?」
た「うさぎが作った2段ロケットが、本当に空を飛んだからです」
調「あなたが乗ったロケットは墜落しましたね?」
た「はい」
調「墜落したとき、怪我をしましたか?」
た「いえ。怪我というほどではありませんが、全身が打ち身になりました」
調「全身ということは、頭も打ったんですね?」
た「まあ、打ったというか、後で気がついたらコブができていました」
調「頭が硬いものに強くぶつからないのに、コブができたことはありますか?」
た「いいえ。」
調「もう一度訊きます。墜落したときコブができるくらい強く頭を打ちましたね?」
た「はい。でも、あの時はちょうど…」
調(遮るように)「質問を終わります」
(つづく)
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