マガジンのカバー画像

超短編小説

5
運営しているクリエイター

2021年7月の記事一覧

持たせ切り(公開予告風)

 40代最後の夏を迎えた鈴木は、電車の中でふと思い出した小説タイトル「粗にして野だが…」をきっかけに、学生時代の記憶に沈潜する。かつて、電車の改札口では、駅員たちが匠の技「持たせ切り」の技を競っていたことを思い出す。井の頭線にも「持たせ切り」の巧みな技を披露する一人の駅員がいたが、鈴木はその技の背後に、ある特殊な法則性があることに気づく。  改札鋏の謎を追ううち、関係者のだれもが口をつぐむ「幻の改札鋏」の伝説に導かれた旅の中で、志を同じくする仲間たちとの出会いと別れ...改

持たせ切り

 電車のシートに座った瞬間に「粗にして野だが卑ではない」というタイトルが頭にいきなり浮かんできた。時代劇映画のタイトルだったような気がするが正体を思い出せず、wikipedia で調べたところ、国鉄総裁だった石田礼助をモデルにした、城山三郎の作品だった。  国鉄総裁と言われても若い方はピンとこないと思うが、民営化前のJRは日本国有鉄道、略して「国鉄」と呼ばれていたのだ。そのほか、JTの前身が日本専売公社、NTTになったのが日本電信電話公社であり、かつて日本には3つの公社(国