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歌詞解釈

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並列関係に見る語り手の認識

 電車のドアが閉まる時に、「テアシニモツカサ オヒキクダサイ」とアナウンスする駅があった。もちろん、入口付近の乗客に対して、閉じるドアに挟まれないよう注意をうながす内容だが、アナウンスをしている駅員さんにとっては、「手」「足」「荷物」「傘」が対等な並列関係で把握されているという点に面白味を感じた。これらの概念が並列関係で認識される場面は、そう多くないはずである。  「並列」と言えば、平松愛理の「部屋とYシャツと私」を初めて聞いたときには、違和感があった。  いつも磨いてい

「あなた」再訪

 以前のノートで、小坂明子「あなた」の歌詞について言及した。そこでは、「私の夢」を構成する要素として「大きな窓」と「小さなドア」を備える「小さな家」、部屋の中の「古い暖炉」、「真っ赤なバラ」、「白いパンジー」、「子犬」という非人格的要素と「あなた」とが並列関係に提示されていることに違和感があり、その原因を「他の人格が自らの夢の一要素に過ぎないという世界観」であるとした。  さて今回は、徳永英明のアルバムVocalist 2を聴いていたら、偶然にも「あなた」がカバーされており、

「雨の慕情」――なぜ雨が連れてくるのか

「雨の慕情」の歌詞を読んで、気が向いたら後の設問を考えてください。 https://www.youtube.com/embed/FZMWYN8pzG0?rel=0 「雨の慕情」  作詞 阿久悠/作曲 浜圭介/唄 八代亜紀 設問:雨が降ると、なぜ「私のいい人」を連れてくることになるのか、以下のA~Eのうち、最も適切な発言をしている人物をひとり選択せよ。 A:彼は建築関係の仕事をしていて、雨が降ると暇になるからだよ。 (**) B:いや、それを言うなら、彼の職業は漁師でし

「あばよ」――極端かつ過剰な言葉の選択

 研ナオコが歌う「あばよ」を初めて聴いたのは、1976年の日テレ「カックラキン大放送!!」。私が、10歳の頃だ。子供心に中島みゆきが作った歌詞に違和感があったことを、いまだに思い出す。 (a)何もあの人だけが世界中で一番 やさしい人だとかぎるわけじゃあるまいし  (b)たとえば隣の町ならば隣なりに やさしい男はいくらでもいるもんさ  当時の思いは、概ね以下の通りだ。 ******************** (1)言葉が極端かつ過剰だ。  (a)の趣旨は「やさしい男はあ

「そんな女のひとりごと」――そんな女って?

「そんな女のひとりごと」の歌詞を読んで、気が向いたら後の設問を考えてください。 「そんな女のひとりごと」  木未野奈 作詞/徳久広司 作曲/増位山太志郎 歌 お店のつとめは はじめてだけど(*1) 真樹さんの 紹介で あなたの隣りに 座ったの あそびなれてる ひとみたい ボトルの名前で わかる(*2)のよ そんな女の ひとりごと 身体に毒だわ つづけて飲んじゃ ユミさんは こない(*3)けど 十時に電話が はいるわよ あなた歌でも 唄ったら すこしは気持も はれるでしょ

恋愛フィルタリング主義

 私の学生時代の友人に、合理的な恋愛観を持つ男がいた。彼はある日、 「恋愛においてベストな相手を見つけるためには、偶然の出会いを待つだけでは候補者が少なすぎるから、積極的に出会いを作るべきである。  しかし、むやみと出会っていても効率が悪いので、何らかのフィルタリングをかける必要がある。  自分が女性に求める条件は、大きく外見と内面に分かれるが、内面はじっくり話してみないと分からないから、フィルタリングは外見でいく。  したがって、当面は合コン(*)を頻繁に開催して、できる

「ルビーの指輪」――彼の敗因

 寺尾聡の「ルビーの指環」を中学生の頃に聴いて以来、ある仮説を持ちつづけている。  ルビー男の敗因は、 という言葉を、文字通りの意味に解釈して、ルビーの指環を贈ったことにある、というものである。  すなわち、未だに頭に渦巻いている「誕生石ならルビーなの」という「あなた」の言葉は、「でも、贈ってほしいのはダイヤモンド(の婚約指輪)なの」と解釈すべきだったのではないだろうか。  しかも、「ルビーの指輪」がリリースされた1981年2月の時代背景を考えると、当時「婚約指輪は給料

ありのままで?

 かつて、「アナと雪の女王(原題:Frozen)」の劇中歌「Let it go!(邦訳:ありのままで)」が大人気で、「レリゴー♪」の声が毎日のように聞こえてきたものだった。改めてあのストーリーを振り返ると、必ずしも「ありのまま」の生き方を肯定しているわけではないように思われる。  「ありのまま」を軸に話の展開を整理すると、 〇制御困難な「ありのまま」を隠して引きこもる生活 ↓ 〇「ありのまま」が世間にばれて、一人孤独に雪山にこもり、「ありのまま」を謳歌する生活 ↓ 〇「あ