地主にとって借地のメリットはないのか(1冊目)
『スペシャリストが教える借地権の悩みベストな解決法』
住友林業レジデンシャル(2018年) ★★★★☆
飛込営業をしていると、辺り一帯の土地を持っている大地主さんと話せるチャンスがある。そんな時によく聞く悩みが「借地はホントに大変だよ‥」。では、地主さんにとって借地のメリットはないのか。そんな疑問を持ち、借地本を読んでみた(文:KEN設)
(1)内容と感想
住友林業の借地専門チームが実際の事例をもとにノウハウを教えてくれる本。問題が山積すると判を押した様に「当社が購入」になるのはご愛嬌だが、内容は濃い。
(2)特にタメになった話
① 地主にとって借地はメリットがあるか
地主さんとのお話の中で「借地人は私の土地を不当に安く借りている」と不満を漏らす方がいるが、相続評価額が大幅に圧縮されることで手放さなくて済む。
② 共有名義は災いのもと
借地を相続した次の代では利害関係者が多くなる傾向がある。そのため、底地を買う、借地権を売る、等価交換をする等、今の代で決着をつけることが大切である。
(3)本の要約
たとえば、渋谷区の借地上の建物に住んでいるBさん、古くからの大地主で底地を持っているOさんがいたとする。
① BさんはOさんの承諾なしに借地権を売却することはできない。
② Oさんの承諾を得た場合、Bさんは譲渡承諾料を支払う。
③ Bさんが借地のみを売却しようとした場合、通常の半値以下になることが多い(Oさんが底地のみを売却しようとした場合も同様)
④ BさんとOさんの話の折り合いがつかない場合、等価交換となることもある
⑤ Oさんが地代を上げたい場合、確たる根拠(固定資産税もしくは周囲の地代の上昇)を示す必要がある。
⑥ Bさんが娘さんとの2世帯住宅にするため建替たい場合、建替承諾料の目安は更地価格の2~5%。
⑦ BさんとOさんが同時に売却する場合(底借同時売却)、利害関係者が多いため、通常の所有権売却より格段に難しい。
⑧ Bさんが借地契約書を無くした場合、借地権保全には「地代の領収書があるか」「建物登記があるか」という2つのポイントがある。
⑨ 借地は賃貸借であり、諾成契約のため、そもそも契約書がなくても成立する。
*****
(まとめ)
普通、この手の本だと一般的ケースだけ紹介して終わりだが、かなり突っ込んだケースまで展開していて勉強になった。例えば「地主さんが底地を売却することはほぼありません」など、ともすれば主観的だが、経験に則った話まで書かれていた。
営業マンとしては実務的な内容で、3つ面白かった話がある。
まず、土地の登記簿を引いた時に「●年●月●日相続税の物納許可」と書いてあった時に追客を諦めていたが、地主である国は土地を売却して現金化したいため、数年に一度「底地を●●円で売ります」と建物の所有者に通知が来ていること。住友林業はそのようなケースでも借地権を買い取る方向で追客しているようだ。
次に、大地主が巨大な底地を分筆しないまま、借地上にはいくつもの家が建っているケースがあるが、その意図を初めて知った。(引用:pp.68-69より)
「借地権を売りたい。借地は品川だから高く売れるでしょう」こう相談に見えた借地人がいました。
ただし、公図で見ると、地主さんが借地の周り一帯を全部持っています。道路も地主さんの所有です。道路は、地主さんの私道というわけです。こうした借地の場合、第三者に売却しようとしても実際にはたいへん難しくなります。
道路が私道のため、古い建物を建て替えてガスや水道を引き込み直す場合、地主に道路の掘削承認をもらわなければなりません。地主がそれらすべてを承諾してまで、第三者への売却を許可するケースは非常に少ないからです。
こうした事案は、地主が借地権の買い戻しに応じるパターンが一般的です。地主による買い戻しは、第三者への売却より金額が安くなる傾向があります。」
最後に、住友林業には、地方の底地を大量に相続した都会の子孫向けのサービスとして「立替払い付き地代管理システム」というものがあるらしい。借地に強みのある大手は、こんなことまでしているのかと勉強になった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?