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鶴と馬

北海道に、丹頂ヅルとばんえい競馬を見に行った。
数は少なく距離も遠かったが、雪原の中で見る丹頂ヅルは完璧うつくしかった。白と黒と頭のてっぺんのポツンと赤いとこ。あとで資料館で知ったが、あのてっぺんの赤い部分には羽毛はなく、むき出しの皮膚の色なのだそう。それからお尻の黒い尻尾のような羽。あれ尾羽でなく両羽の内側の下部分で、羽を閉じるとちょうどお尻をふさっと隠すあんばいなっているのだった。う~む、この絶妙のバランスはまさにグッドデザイン賞ものだな。ピョンピョンと地を蹴る求愛ダンス、キタキツネを威嚇するところ、そして連なって巣に帰っていく姿、どこを切り取ってもこの上なく優雅で目が清められたような心持ちがした。

そして帯広のばんえい競馬へ。どうせ行くなら真冬、馬たちの鼻息がSLみたいに白く立ち上るところを見たいとずっと思っていた。
行く前には少しネットで予習もした。世界唯一のこの競馬、まず全然早くない。普通の競馬のような疾走感とは対極の・・実にトロいレース展開である。だって1トンのソリ曳いてるんだ、当たり前か。しかしこのトロさに味がある。コースは直線のみの200M、途中2つの障害(坂)がある。途中で突然休憩する馬がいたり、じわっじわっと休まず進み続ける馬がいたり、ゴールまで一発逆転の可能性があるというところが面白い。騎手がスタミナを考えて馬を止まらせ一気にスパートをかけたりするのも見どころのひとつ。また「〇〇さんお誕生日おめでとう」とか「祝!〇周年!」とかローカルな冠スポンサーがついたレースもあってそういうのも(知らん人たちのことやけど)なんか楽しい。

競馬場についたのは夕方近く。第7レースが始まる少し前だった。地元のオッチャンたちが真剣な表情でオッズの掲示板を見ている。照明に照らされた真っ白な馬場に粉雪が降りしきる。そんな目の前の光景が自分の描いていたイメージのまんま過ぎて、かえって現実感がない。しかしこれはまさしく現実、せっかくなのでほんのり500円だけ馬券も買った。さ、いよいよ出走!

レースはあっという間だった・・・速いやん・・・とても1トン引いているとは思えない速さだった。それはどうやら雪のせいだった。ばんえい競馬では馬場の水分量がソリの滑りに影響しレースの展開を左右するということだが、この日の雪の降り方は半端なく、通常1分半くらいかかるところが30秒足らずで終わってしまったのだ。とはいえ楽しかった。馬券を振り回しながら夢中でコースに並走して雪の中を走った。走りながら、これこれ、私こういうのがやってみたかったんだ!と思った。

結局次の第8レースを終えたところでその日のレースは悪天候により中止となった。ソリが滑りすぎて危険ということなので仕方がない。これほどの事態もあまりないらしく、オッチャンたちもやや拍子抜けした表情で散っていった。私はビギナーズラックで300円ほど勝ち、閉店まぎわの売店でおにぎりとゆで卵を買った。
ホテルに戻って窓から雪を眺めながらもぐもぐとそれを食べた。

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