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スカイリム雑記 ムジョルとアエリン(後編)


 同居する女性の寝顔を床板にめり込みながら見つめる男、彼の名はアエリン。こんな危ない男に妻の周りをウロウロされちゃ困るということで、「how to kill Aerin」はムジョルを愛する世界中のドヴァキンの一大関心事となっています。
 今更TESシリーズに初めて触れた身ではありますが、ゲーム内の作品世界が重厚であることに加え、ファンの多さゆえに攻略や経験、分析などがネットに情報として大量にもたらされているのがTESシリーズの魅力だなと私は思いました。豊かな作品世界を反映して蓄積された情報たちは、作品そのものとはまた違った魅力を放っており、まるで河口湖に映り込む逆さ富士のようです。

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 街で見かけたひとコマ。いやはや、床にめり込んだ姿を目撃してさえいなければ、聴いただけで頬が赤らむような甘い台詞です。


 アエリンはムジョルと友人関係にあるので、当然のことながら殺しがバレると彼女に嫌われてしまいます。暗殺ももちろんシンプルかつ有効な手段として支持されていますが、ムジョルに文字通り影のようにつきまとう彼の習性を利用して「不慮の死」を遂げさせるという、より狡猾で安全性の高い手段も存在します。ペラペラの服をまとっただけのレベルの低いNPCが不運にも、そうまったくもって不運にもドラゴンや巨人との戦闘に巻き込まれてしまったら? ああなんて恐ろしい。でもここは過酷な土地、自然の猛威と人間の悪意が渦巻く修羅の土地スカイリムなのです。難しいことは何もありません。「この世界は彼のような優しい人間が生きるには少し、残酷すぎたんだよ……」アエリンの葬儀で涙を流すムジョルの肩を抱き寄せながらそう言って慰める時、口元に笑みが溢れないよう用心するだけでいい。

 「ムジョルが悲しまないように」とアエリンの遺体をガラスの展示ケースに入れて自宅に飾ってあげているという、優しい旦那様もいらっしゃいましたが、私が読んだ中で最も感動したアエリンの殺害方法は以下のようなものです。少々長くなりますが引用します。「If you could be convicted for crimes committed in video games, what would be your worst charge?」-「ゲーム内で犯した罪を追求されるとしたら、あなたの最も罪深い悪行は何?」というタイトルのスレッドからです。拙いですが和訳を後続して付します。特に言及がないので、プレイヤーは「私」で訳します。

 So in Skyrim I met Mjoll in Riften and decided to try and make her my wife. We adventured together for a while and things were good although I was quite annoyed at how close she was to this Aerin fellow who saved her life blaugh blaugh blaugh.
 Every time she mentioned his name I cringed. And every time we went to Riften he would appear and all I'd hear was Aerin this and Aerin that. Needless to say I developed a deep seething hatred for him.
 Regardless, I still made her my wife and we were happy for a time. But everything came to a head when I left to go solo adventuring and returned to find that Mjoll was sleeping in Aerin's house. That was the final straw.
 So I crafted a sword and named it Aerin's folly. I imbued it with flame and gave it the ability to trap the soul. I waited until the next night and went to the pub in Riften. Sure enough he and Mjoll were there drinking and carrying on. It was all too much. So I waited until he left and then sneaked after him and followed him to his house.
 I waited until he was in bed asleep then made my attack. I used Aerin's folly to slay him in his sleep and then captured his soul into a black soul gem.
Then in the dead of night I crafted his soul into an magical amulet which I named Aerin's lament.
 Needless to say Mjoll now adventures with me wearing Aerin's tormented soul around her neck at all times and is wielding the fiery sword that I used to murder him and trap his soul.
 She still mentions his name from time to time, and it makes me smile.

 :edit: I just checked and the sword was called Aerin's Recant. The necklace, Aerin's Lament, was imbued to fortify health and fire resistance, because irony.

引用元 〈https://www.reddit.com/r/AskReddit/comments/4e6pt0/if_you_could_be_convicted_for_crimes_committed_in/?depth=1

拙訳:
 Skyrimをプレイしていて、リフテンでムジョルと出会い、彼女を妻に迎えようと決めた。私たちは一緒に冒険をして仲良くやってはいたんだけど、彼女の命を救ったとかなんとかいう男友達アエリンと彼女の親しさが、私をひどく苛つかせた。
 ムジョルが彼の名を呼ぶたび萎縮した。私たちがリフテンを訪れれば、いつでもアエリンが現れて、彼についてあれやこれや聞かされる羽目になるんだ。彼に対する強烈な憎しみが湧き上がっていたことは言うまでもない。
 そうは言っても彼女は私の妻であり、楽しい時間だって共に過ごした。しかし単独での冒険から帰ってきた時、アエリンの家で眠るムジョルを目の当たりにして、何もかもが決壊した。もう耐えられなかった。
 だから私は「アエリンの愚かさ」と銘打った剣を作り、火炎と魂縛の付呪を施した。次の晩を待って、リフテンの酒場へ行く。すると、さも当然って様子で奴とムジョルが酒を飲んでいちゃついていやがるんだ。何から何まで、もううんざりだった。私は彼が帰るのを待ち、自宅まで尾行した。
 彼が寝静まると、攻撃を実行に移した。私は「アエリンの愚かさ」で眠っている彼を殺し、その魂を黒魂石に捕らえた。
 そして真夜中に彼の魂を魔法のアミュレットに封じ込めて「アエリンの嘆き」と名付けたんだ。
 もちろんムジョルは今、アエリンの苦痛に満ちた魂を首元にあしらい、アエリンの殺害と魂縛に用いた剣を帯びて、私と冒険をしている。
彼女は今でも時折彼の名を口にするけど、それを聞くたび笑顔になれるよ。

 追記:ちょっと確認したところ、剣の銘は「アエリンの否認」だった。皮肉を込めて、ネックレス「アエリンの嘆き」には体力と炎耐性を符呪したよ。

 すごい。素晴らしい。スタンディングオベーション。ゲームシステムを存分に活かした創造性といい、耽美さすら感じられるほどの陰湿さといい、オリンピックに殺人の種目があれば芸術点で優勝を狙えるレベルです。
 魂の牢獄と化した小さなネックレスをムジョルに着けさせたまま、彼女とベッドを共にして「恋人の癒やし」を得るのは、どんなにか興奮するでしょう? ネックレスをしたムジョルを正面から抱きしめる度に、自分と彼女の間に否応無く位置を占める別の男の魂について、圧倒的な優越感を伴いながら思いを馳せるのは?
 そして誰よりも、夫であるドヴァキンよりも彼女の近くに在り、自分を苦境に追いやった脅威に抗う力を今更ながら与えられ、”友人”であった女性に加護をもたらしながら完全に死ぬことも許されていないアエリン。彼の魂はネックレスの中で、何かしらの感情を有することを許されているのでしょうか? もし許されているのだとしたら、その感情は「lament」というひとつの言葉に集約し得るものなのでしょうか? そう考えているうちに、自分がドヴァキンよりも、ネックレスに閉じ込められたアエリンに対して倒錯的な羨望を抱いていることに気付きます。とにかく、この殺害方法は本当に素晴らしい。天才の所業です。

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 リフテンの酒場兼宿屋、ビー&ハイブでは「drinking and carrying on」なムジョルとアエリンを度々見かけることができます。仲良しだな。

 
 アエリンをどう殺すか、その魅力的な議題を論じ続けるのもやぶさかではありませんが、ともあれムジョル&アエリンはなかなか存在感のあるコンビです。そこに異論を挟む余地はあまり無いでしょう。単に「平凡だが人の好い男性が、タフで英雄的な女性に片想いをしている」という、勧善懲悪モノのカートゥーンアニメに挿し挟まれる微笑ましいプラトニック恋愛要素めいた絵図では語りきれない狂気の気配が、私を強く惹き付けます。ムジョルに不死属性が付与されていることもあり、このふたり、少なくともムジョルがもっと大々的に活躍する大きめのクエスト(盗賊ギルドと対立するような)があったのではないかとも勘ぐらずにはいられません。

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 アエリン宅に意味深に転がっていた「助けのお願い!」も気になる要素のひとつです。つい考えてしまいませんか? 偶然「助けのお願い!」を拾い読みした瞬間、デュケデンッと例のSEが聞こえてクエスト開始、「ムジョルに手紙を見せる」というサジェストが白文字で画面に浮かび上がる。手紙を握り潰そうとしたアエリンにムジョルは激怒し、「僕はただ、あなたにずっとここにいてほしくて……」などと弱々しい言い訳を呟く彼を尻目にリフテンを出ていってしまう。ムジョルとアエリンの仲が致命的に決裂する(ムジョルと結婚可能になり、アエリンは付きまとわなくなる)か、あるいは雨降って地固まり、ふたりがConfidant以上の関係にこぎつける(プレイヤーはムジョルと結婚できなくなる)のかは、あなたの選択次第……みたいなね。 背徳的な略奪愛に酔うも良し、キューピッド気取りで仲人役を果たすも良し。ムジョルと結婚したい場合、偏執傾向のある男をわざわざ殺す手間も省けてお得なクエストです。妄想が膨らみますね。でも今となっては全てが、潜在化してしまった可能性でしかありません。こういうクエストがあったら、前述したような素晴らしい殺しが行われることもなかったわけですし。

 ここまで長々としょうもない話を続けてきましたが、正直言って着地のさせどころが分かりません。でも至るべき結論って、いつだって拍子抜けするほどシンプルなものですよね。つまりSkyrim超楽しんでますってことです。 ありがとうベセスダ。ありがとうムジョル&アエリン。そしてこの混沌とした文章を最後まで読んでくださったあなたにも多大な感謝を。

(おわり)

たすかります!