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物欲センサー

15年くらい前に夜勤の仕事をしているときには、全く何も仕事がないまま朝を迎える、なんていうこともざらにあった。楽な仕事もあったものである。

某ソフトウェアのサポートセンターにいたのだが、何もない、というのはそれはそれは苦痛で、流石に何か調べ物をして勉強したり、開発環境を作ったりとしていたものだったが、そんな中、日本に旋風を巻き起こした超有名な商品が発売された。

モンスターハンターだ。

PlayStation Portableという携帯ゲーム機を購入した僕は、意気揚々とモンスターハンター(Monster Hunter Portable 2nd)で遊び始めたのだが、なるほどこれはかなり時間がかかるものだと気づいた。

このゲームはモンスターの体力表示がなく、いつになったら倒せるのかわからないというのがミソで、実は内部的にヒットポイント的な数値を割り出すことはできるのだが、初心者の僕は予想する術もなく、無闇やたらにモンスターに斬りかかり、殺されるという繰り返し。

さらに、アクションゲームであるこのモンスターハンターシリーズは、全く爽快感がなく、長大な武器を担いでは、重そうにゆっくり動くハンターを操作し、細かくも激しく動く凶暴なモンスターの隙を見計らってタイミングを見定めて一撃を入れて、逃げるというヒットアンドアウェイ戦法が基本だ。

非常に焦ったいアクションゲームなのである。

さらに、プレイヤーは武器と防具を作成し強化していくのだが、それらの武器防具はモンスターから剥ぎ取ることができる貴重素材を多く使用する。

クエスト、という時間制限付きのモンスター討伐ミッションをクリアすると報酬がもらえる、というのがこのゲームの基本なのだが、それだけではレア素材は全て集めることはできない。

重要素材はモンスターを討伐し、「剥ぎ取る」ことで入手できたり、モンスターの尻尾を切断し、そこからしか剥ぎ取ることができなかったり、体力が減った頃に罠に嵌めると捕獲することができるのだが、その捕獲報酬で出やすかったりと、なかなかに面倒な収集方法となっていた。

ちなみに十数メートルはあろうかという巨体を持つモンスターを狩猟しても、「剥ぎ取る」ことができるのは3回までだ。いやいやこんなでかい体からだったら、1000回くらい剥ぎ取る余地あるだろうと思うのだが、そのような仕様になっているので文句を言っても仕方ない。

これは、その後多々リリースされたシリーズ作品でも同じ仕様で、なかなか出ない素材を求めて、同じモンスターを数十匹以上狩ることも珍しくない。

モンスターごとの狩猟数は、ギルドカードというものに記録されているのだが、中には数百匹狩ったことを記されているようなギルドカードを持つハンターもいて、そのモンスターはもう世界から絶滅しちゃったんじゃないの?っていうレベルで繰り返しプレイしている人もいる。(私もそうだった)

この素材集めだけでもかなり時間を要する。さらに、「プレイヤースキル」という、ゲームプレイヤー自身の技術を磨くことにも一生懸命になるのがこのモンスターハンター。

凶暴なモンスター相手に、どのように立ち回り、上手く隙を捉えてダメージを与え、最速で何分で討伐できるか、など、いつの間にやら自分との戦いになってしまっているプレイヤーがたくさんいるのだ。

ゲームプレイ時間は累積で表示されるのだが、ひどい人で1000時間を超えたりする。(私もそうだ)


つまり、非常に時間のかかるこのゲームをこなすには通常の余暇時間だけでは圧倒的に足りないため、僕はこの夜勤時間の暇で暇で苦痛でしかない夜を、モンスターハンターとして過ごすことにした。

職業はハンターだ。


大抵、引き継ぎがてら出社し、23時を超える頃にはチームは僕一人になる。隣のチームに人はいるがだいぶ広大なフロアを借りているので、5島くらい離れていて全く気にならない。

ゲーム機のボタンをかちゃかちゃさせていても、空調の音にかき消されてしまう。

僕は体力の続く限りモンスターを借り続けた。

なぜか。

全くレア素材が出ないからだ。

レア素材が欲しい、そう思えば思うほど出ないのだ。これを「物欲センサー」という。

ゲーム機に物欲を検知するセンサーが備わっており、欲しいと思えば思うほど、出現率を低下する機能が実装されているのではないかと揶揄するものも(当時からかなり)いることをご存知だろうか。

もちろんそんなものはなく、欲しいものが手に入らない、という心理的に願望が叶わないことによる苦痛が増した結果抱いた妄想に過ぎない。

それはさておき、攻略情報では取得率が3%程度のレアアイテムを、10個必要、みたいなそういうプレイの仕方をしていたので、ただただこの夜勤時間は最高の環境だったという話である。


Monster Hunter Portable 2ndに飽きたころ、続編として、
Monster Hunter Portable 2nd Gというアップグレード版が出ると、またもや熱を取り戻し、夜勤中に必死でモンスターを狩り続ける。

舞台はポッケ村という雪に覆われた山村なのだが、ポッケ村のBGMを聞くたびに今でも故郷を感じるほどになった。たまにオーケストラバージョンを聞くと懐かしさに涙が出るほどだ。完全に病気である。

結局夜勤の中でハンターに転職していたことは誰にもバレず、約2000時間ほどプレイした僕は、その後のモンスターハンターシリーズもどっぷりと楽しんだのだが、ここ数年ゲーム自体から離れていた。

Monster Hunter 3 G
Monster Hunter Portable 3rd
Monster Hunter 4
Monster Hunter 4 G
Monster Hunter XX

この辺りをどっぷり楽しんだのだが、シリーズ累計のプレイ時間は恐ろしくて数えていない。10000時間を超えることはないと思うのだが。


数年前にPlayStation 4他、高解像度の据え置き型ゲーム機でMonster Hunter Worldというシリーズが出たが、仕事が忙しく全く手が出せなかったのだが、この度、Nintendo Switchで発売された、Monster Hunter Riseというタイトルをゲーム機本体ごと購入した。

欲しい欲しいと思い、最近になって少々時間ができたこともあり購入したのだが、これが不思議なもので、昔ほどゲームにハマれないのだ。

オフィスビルの一角で夜を徹してハンティングしたものだが、あの時の情熱は何処へ。

本体とソフトウェアで4万円ほどする買い物だったので、もっと楽しんだほうがいいのだと思うのだが、過去費やした非生産的な時間がよぎるのか、狩猟行動に昔ほど魅力を感じなくなってしまった。

ある意味、あの頃のように楽しみたいという一種の欲が、物欲センサーに検知されたのか、どうにも楽しい時間を思ったように工面することができない。やはり望めば望むほど手に入らない機能が実装されているのだろうか。


そんなMonster Hunter Riseは、先月末にV2.0という大型アップデートで機能が拡張されたのだが、特段拡張された機能を満喫することなく2回ほど遊んで、引き出しにゲーム機を収納したままにしている。

そしてどうやら今月末に、早くもV3.0というアップデートがあるそうだ。このゲーム、エンディングが未だに実装されていない、という珍しい形でリリースされたのだが、今回のアップデートでそのエンディングに辿り着くことができるのだという。

モンスターハンターシリーズは、エンディングまでは通常のゲーム同様に数十時間で辿り着くように設計されている。あくまでやり込み要素が多いために数千時間など費やすようになっているだけだ。

一旦この追加されるというエンディングは、買った手前見たいと思うのだが、果たして昔のようにまた再燃するだろうかと、少しざわざわなのかもやもやなのか変な気持ちでいる。


なんだか、ゲームで楽しむよりも、ビジネスの方が面白いと感じるようになってしまったことで、ようやくいい歳の大人になったことを思い出した。

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