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旅は静かな観察と想像、対話でしょうか うたかたの世界を彷徨った記憶の断片、ここにある今日の旅、そして出立つ前の無限の自由を綴る、モノローグとダイアローグとトラべローグ https… もっと読む
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消え去った王国の首都で沈没しかけた旅

 シッキムはインド北東端に位置する、ネパール、ブータン、そして中国のチベット自治区に囲まれた地域。そのほぼ全域は、インドで人口で最小、面積で2番目に小さな州になっている。地図を見ると、インド領の一部が、チベット族系の人々が暮らすシッキム・ヒマラヤ山系に突き刺さっているようでもある。現在のシッキム州はかつて「シッキム王国」と呼ばれる独立国だったが、南アジアの地政の動きに翻弄され、1975年に消滅した。外国人がシッキムを旅をするのに今も「入境証」が必要な理由は、そんな複雑な歴史に

Armenia: Noir

2019年4月、アルメニアを再訪した。 About my revisit to Armenia in April 2019.

熱病に浮かされたキューバ旅

 旅に病(やまい)は付きものだ。  そう話すと、お前は心身が弱い、と笑われることがしばしばある。もちろん道中、健康に過ごすに越したことはない。ただ、予期せぬ事態や体調の変化はあって当然で、それを押してまで義務感で日程をこなすのは、もはや旅ではないのではないか。旅先の病床でぼんやりとそう思いを巡らせつつ、芭蕉翁のあの有名な句を脳内に響かせたことは、幾度もある。これはそんな旅のひとつ、高熱に浮かされて予定変更を余儀なくされた、2013年のキューバ縦断の旅の記憶である。 ー ー 

バンコク・夏のはじめ・2016

ある初夏の日のタイ・バンコクの風景 The scenes of the city of Bangkok on an early summer day in 2016.

[Jordan] ヨルダン 1200km ロードトリップ (12 of 12 travelogues)

Dead Sea, Jordan — アカバから死海に向けてヨルダンの西端にあるデッドシーハイウェーを北上する。高度アプリの示す海抜がマイナス350メートルとなる頃に、死海の南端に到着。気候変動と流れ込む水量の減少で死海は縮小しており、現在は南北の2つに別れている。北側の死海にあるホテルのプライベートビーチに繰り出し、さっそく身体を水面に浮かべると、誰かが「胎内体験に近い感覚」と書いていたことを思い出す。死海は超低地のため酸素濃度が高いことや水蒸気によって紫外線が低減されてい

[Jordan] ヨルダン 1200km ロードトリップ (11 of 12 travelogues)

Aqaba Bay & Dead Sea Highway, Jordan — ヨルダンで唯一外海に面する街、アカバ。郊外に紀元前6世紀の遺跡があり、旧約聖書に港町として記述があるなど、その旧市街にはヨルダンの他都市とは異なる独特の趣がある。アカバ湾を挟んだ対岸には、イスラエルの港町やエジプトのシナイ半島を臨める。現在、アカバはヨルダンの海上貿易の拠点。臨海部に経済特区が設置されて、国内他地域に比べて国際的なモノの流通が容易なのが特徴だ。大規模な商業施設を含む総合開発が進み、ペ

[Jordan] ヨルダン 1200km ロードトリップ(10 of 12 travelogues)

Wadi Rum, Jordan — 砂漠の自然保護地区、ワディ・ラムは、赤く細かい砂と岩山だけの世界。砂漠の真ん中にあるデザートキャンプに宿泊し、巨岩に囲まれた砂漠を疾走する4WDのデザートサファリに出かける。ドライバーはまるで大海原を進む船頭のように自在にハンドルとアクセルを操り、この砂漠には知らない場所はないと言う。ここは有史以前から人が住み、ギリシアやローマ時代の文献にもその名が記された土地。かつてはブドウの木などが茂っていたが、今では赤い砂の大地と岩山だけの世界に。

[Jordan] ヨルダン 1200km ロードトリップ (9 of 12 travelogues)

Petra, Jordan — ペトラ遺跡は紀元前2世紀から紀元2世紀ごろに栄えたナバテア王国の都市遺構。山岳地帯に残された建造物の多くは、高さ数十メートルの岩山の側面を精巧に削って建てられている。遺跡を巡るトレイルコースは複数あるが、「都市」を隅々まで彷徨うのは1日では足りない。そしてナバテア人が誇った高度な利水、治水、建築技術、農業発祥の痕跡などの存在感と時間軸は、一般的な想像や常識を凌駕するもので、そこに立つだけでリアルと想像の境界があいまいになるほどだ。一旅人、あるい

[Jordan] ヨルダン 1200km ロードトリップ (8 of 12 travelogues)

Desert Highway, Jordan — ヨルダン南部のペトラ遺跡に向かう。ヨルダンを南北に移動するルートには国内西端のヨルダン川と死海に沿う古代からの交易路「王の道」に加えて、東側の砂漠の中に「デザートハイウェー」が建設されている。岩の砂漠地帯を突き抜けるその高速道路を、リン鉱石の採掘場所などを遠望しながら疾走する。陸路そのものは国境の先のサウジアラビアへも続いているという。数時間後、ペトラ遺跡付近のハイグレードのホテルに到着。ここはこの地のネイティブの部族の村をそ

[Jordan] ヨルダン 1200km ロードトリップ (7 of 12 travelogues)

Madaba, Jordan — マダバはあらゆる時代の遺跡が残る美しい街。旧約聖書を知る人には、郊外のネボ山がエジプトを出たモーセの終焉の地であると記されていることも重要だ。宗教に疎い私にはその意味の大きさはよくわからない。しかし、ネボ山から大地溝帯とヨルダン川西岸、エルサレム、死海を遠望し、その光景が数千年変わらずここにあり続けていることが、訪問者に特別な感慨を与えていることは旅人として理解できる。マダバ中心部の遺跡や史跡の中で圧巻なのは「マダバのモザイク地図」。紀元1年

[Jordan] ヨルダン 1200km ロードトリップ (6 of 12 travelogues)

Umm Qais, Jordan — 国内最北の街ウムカイス。ヨルダン北部には緑が多く、中東=砂漠というイメージを覆す手つかずの森林や自然保護区が広がる。宿泊するゲストハウスはのどかな村の中にあり、レモンなどの木々が生い茂る庭とそこを吹き抜ける風や木漏れ日が快適だ。地元の女性宅に夕食に招かれ、チャーチールというヨルダン北部の伝統料理などを客間でいただく。旅先では人々の家や暮らしを拝見するのが最も楽しい。もてなしを受け、この土地の人たちは来訪者の扱いを知っている、そう感じる。ど

[Jordan] ヨルダン 1200km ロードトリップ (5 of 12 travelogues)

Jordan Trail, Jordan — ヨルダントレイルの北の起点付近をトレイルガイドと共に歩く。このトレイルはヨルダンを南北に約600キロ縦貫し、ルートの一部は古代からある交易路に沿っている。踏破すればこの土地に流れる「時」をも歩めるだろうか。ルートから少し外れた国境近くの高台から、隣国イスラエルが占領するシリアの領土のゴラン高原を遠望する。「今現在は軍事的な緊張感はほぼないが、明日はわからない」とトレイルガイドに告げられるものの、世界の複雑さは一介の旅人にはすぐには

[Jordan] ヨルダン 1200km ロードトリップ (4 of 12 travelogues)

Jerash, Jordan — 早朝にアンマン離れ、約50キロ北にあるジュラシュの街に到着。古代ローマ遺跡がある、とのことだったが、目の前に広がっているものはその規模と精巧さで想像をはるかに超えるものだった。それは2000年以上前の都市の輪郭と構造がそのまま残る、巨大な遺跡群だったのだ。思わず立ちすくんでいると、その美しさに眩暈を覚えた。石畳に刻まれた轍や教会跡に残るモザイクに手を触れれば、そのまま古代ローマに引き込まれるように錯覚した。その極みはほぼ当時の姿のまま残された

[Jordan] ヨルダン 1200km ロードトリップ (3 of 12 travelogues)

Al Salt & Al Iraq Amir, Jordan — 首都中心部から北西約30キロにある街、サルト。アンマンとエルサレムを結ぶ街道沿いに古代から繁栄した街は、20世紀に入りアンマンの拡大に伴って衰退した。現在は、伝統的な街並みの中で人々が静かにそして豊かに暮らす古都として存在感がある。アンマンへの帰路に、アル・イラク・アミールの村に立ち寄り手作りのヨルダン料理を楽しむ。そこは地元の女性によるローカルビジネスの興隆を目指す拠点で、敷地内には陶芸や紙漉きなどの工房やワ