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「XF CUP 2019」の大会意義、そして女子サッカー発展にもたらすもの【特別寄稿第一弾/第1回 日本クラブユース女子サッカー大会U-18】

■決勝にふさわしい死力を尽くした戦い

「フリー! 前、向ける」

黄色のユニホームに身を包んだ選手たちは、後半の立ち上がりからピッチ上で躍動し始めた。燦々と陽が降り注ぐ芝生には、いくつもの甲高い声が木霊する。守備に奔走し、ほとんど自陣に張り付けにされた状態だったジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18(以下、ジェフL)は、ハーフタイム以降、一気に息を吹き返した。

前半、圧倒的にボールを握っていたのは日テレ・メニーナ(以下、メニーナ)だった。両サイドバックがなるべく高い位置に張り出し、二人のセンターバックがその2ポジションやボランチを中心に攻撃を組み立てる。ペナルティエリアの角あたりに崩しの起点を作りたいメニーナは、そこに狙いを持ちながら何度もパス交換を繰り返す。

しかし、ジェフLの選手たちは守備陣形に穴を空けることなく、ファーストディフェンダーが抜かれたら即カバーできる程よい距離感を常に取り続けていた。メニーナの選手たちからすると、ボールは持っているけれど、最後の崩しの部分で相手をかき乱すまでの攻撃が仕掛けられていた感覚はあまりなかっただろう。なかには、惜しいシーンもあったが、最後は千葉Lのディフェンダーが体を投げ出し、ゴールを死守していた。

次第に、メニーナが保持するボールはサイドからサイドへと自陣に向かって弧を描くように流れる時間が長くなった。それは千葉Lの全員がボール保持者に対する激しいプレッシング、それに連動した周囲のポジショニングと予測を途切らすことなく行っていたからだ。そして、その粘り強い組織的な守備は「やれる」という暗示を、自分たちにかけるには十分なプレーだった。
後半早々、千葉Lは前半にはなかった高い位置からのプレッシングを仕掛けた。ボールホルダーに隙があれば、激しく体をぶつけながらボールを奪いにかかる。それに呼応するように周囲の選手たちはパスという選択肢を潰すようにマークに付いた。前半、あれだけ高く張り出していたメニーナのサイドバックがどんどん守備ラインに吸収されていく。10分を経過した頃には、全体的な立ち位置が後ろへとズレているのが見て取れた。そうなると、千葉Lの前線からのプレッシングはますます勢いづく。相手陣内でボールを奪う回数が増え、メニーナのゴールを脅かすようになっていった。前半、守備に忙殺されていたゲームメーカーも高い位置でボールが触れられるようになり、徐々に攻撃に絡めるようになる。すると、サイドの選手たちの縦へのスプリント回数が増え、いい形で攻撃を終えられるようになった。

一方、メニーナは前半センターバック以外を相手陣内に押し込むことで、たとえボールを失っても即プレスをかけられる人数を作っていた。サッカーは自分たちの立ち位置のさじ加減によって攻撃と守備のバランスを保つシーソーのようなスポーツだ。当然、少しでも全体的なポジションが後ろに下がれば、相手に付け入る隙ができる。千葉Lはボールを保持する時間も徐々に増え、試合の主導権を握ると力の限りプレスをかけ、時にがっちりとブロックを敷き、ボールを取ったらスペースへと走るというチームが目指してきたサッカーを表現した。その姿は、観客にも「千葉、これはいけるぞ」と思わせるほどの躍動感だった。

だが、両チームの選手たちはこの決勝戦までに5日で5試合を戦い抜き、疲労がピークに達していた。30度を越える暑さもあり、少しずつ運動量が落ちていくと足下でパスをつなぐサッカーを展開するメニーナが、再びボールを握る時間が多くなった。ただパススピードと判断スピードが上がらず、千葉Lの守備陣を振り回すほどの力はもはや残っていなかった。残り5分でサイドからチャンスを作ったが、ゴールを割ることはできなかった。

炎天下の中、互いが今大会までに学んできたサッカーを最後まで出し尽くした試合は、0対0のままPK戦で決着をつけることになった。

ジェフLは三人目までノーミスでネットを揺らす。それに対し、メニーナは一人目がゴールキーパーにシュートを止められ、二人目がバーの上に外してしまった。結果、PK戦4対2で千葉Lが「XF CUP 2019」(第1回 日本クラブユース女子サッカー大会U-18)の初女王に輝いた。

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■夏のカップ戦が女子サッカーにもたらす意味

今大会が女子サッカーの「普及」と「発展」という点で大きな意味を持つことは、そこまで認識されていない。

2011年のワールドカップ優勝後、女子サッカーは一大ブームを巻き起こしたが、それも徐々に下火になり、昨今のなでしこリーグの観客数は減少傾向にある。冬に開催される「全日本高等学校女子サッカー選手権大会」は、世界一になった翌年からテレビ放映されるようになり、U-18年代の目標として盛り上がりを見せたが、そこへとつながるU-15年代に女子選手のプレー環境をたくさんもたらす波は来なかった。

現在、U-12年代では男子と女子を区別することなく、4種としてカテゴライズされているが、実はその次のU-15年代となる3種も、女子は男子の中学校サッカー部に選手登録が可能で、女子サッカークラブとの掛け持ちができることはそう多く知られてはいない。しかし、フィジカル差がつき始めるこの年代での男子との活動は、互いにジレンマを抱えることは想像に難くない。

そもそも女子のU-18、U-15年代に目標となる大会が少ないことは、いまだに解消されていない。それはリーグ戦化を含めて、今後、女子サッカーが普及・発展していく上では超えなければならない障壁となる。なぜなら、それは「サッカーを続けたい」と願う女子選手のプレー環境に大きく影響を及ぼすからだ。JFAが様々な施策を行い、「女子サッカーの環境をより良くしていこう」と努めていることは重々承知している。

だが、一協会だけでこの問題が解決できないことも事実だ。

だからこそ日本クラブユースサッカー連盟は、2018年のプレ大会を経て、夏にもU-18年代の目標となる大会を作ることに尽力した。高体連に所属する選手には夏にインターハイがあるが、クラブユースの選手には夏に目標とする大会がなかったことを考えたら大きな前進である。近い将来、男子と同じように高体連とクラブユースとの間で今大会を通じた交流が図られるようになるだろうし、そうなればU-15年代の環境にも変化が現れるはずだ。

文責=木之下潤
写真=佐藤博之
取材協力=日本クラブユースサッカー連盟

▼第二弾記事

【出場チーム】
北海道リラ・コンサドーレ
マイナビベガルタ仙台レディースユース
日テレ・メニーナ
ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ
浦和レッドダイヤモンズレディースユース
ジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18
横須賀シーガルズJOY
AC長野パルセイロ・シュヴェスター
JFAアカデミー福島
伊賀フットボールクラブくノ一サテライト
INAC神戸レオンチーナ
FC.REVO山口
アンジュヴィオレ広島U-18
高知ユナイテッドSCレディース
ANCLASノーヴァ
San Jose Earthquakes

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