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「XF CUP 2019」の大会意義、そして女子サッカーを現場はどう考えているのか?【特別寄稿第二弾/第1回 日本クラブユース女子サッカー大会U-18】

■優勝監督に今大会、現状の女子サッカーを語ってもらった

特別寄稿第一弾を踏まえて、今大会の意義を広い視野で見つめ直してみたいと思う。そこで、優勝に導いたジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18の三上尚子監督のインタビューから当事者の目に映っている女子サッカーの景色を伝えてみたい。ぜひ読んでいただけたら幸いだ。

――まず、大会を終えた率直な感想をお願いします。

三上「連戦の中で、チームとしてタフに戦えたことは本当にいい経験になりました」

――チームとしては今大会にどのようなテーマを持っていたのでしょうか?

三上「攻撃に関して具体的な指示は出していません。テーマにしていたのは守備。どう組織的に守備を行うか。グループとしてどう守るか。しっかりと守った上で、どう攻撃に移るか。そういうところはコンスタントに力を発揮できたように感じています」

――組織的な守備という点では、試合を重ねるごとに良くなっていった印象です。特にボールサイドから離れた選手たちのポジショニングは他のチームより的確でした。

三上「シンプルに『チャレンジ&カバー』と『コンパクトなディフェンス』は意識するように言葉をかけていました。そこを徹底しているので、11人全員が関わった守備ができていたのだ、と。まだ甘い部分はありますけど、フォワードも守備のために戻りますし、選手一人ひとりの意識は高かったと思います」

――今大会はクラブユースの日本一を決める大会である一方で、育成のための大会でもあります。それは出場チームすべての順位を決める試合を行うことで、全チームに6試合を経験させるレギュレーションにしたことからもその配慮がうかがえます。

三上「予選3試合、決勝トーナメント3試合がある中、トータルとしてどう戦うか。私たちは、予選の3試合はいろんな選手に試合経験を積ませながら、決勝トーナメントからは予選のパフォーマンスを見て、メンバーを選びました。6日で6試合とタフに戦う中で、予選では『こういうサッカーをやりたい』というイメージが選手に伝わった部分がたくさんありました。ただ、プレーという結果として満足できるものではありませんでしたが、大会前からの積み重ねの延長線上でこの大会でサッカーのイメージが共有できるようになったことはよかったと考えています。個々の能力についてはまだ積み上げ段階ですし、オン・ザ・ボールでは課題が多かったと感じています。体が疲弊してきた時に技術的な甘さが出ました」

――個人の能力に差はあれ、チームとしてどの選手が出てもイメージが共有できることは大きかったのではないでしょうか。

三上「もちろん、どの試合でも同じようにチームとしてのプレーができるわけではありませんが、大会前からそういうことができない試合も多かった中で、この大会を通じてみんなの共有しているサッカーが深まったのはよかったと思っています」

――グループリーグでは課題に感じたことも、発見があったこともあったと思います。

三上「グループリーグでは、やはり個々に差があるなと感じながら選手を見ていました。でも、暑い中でもコンスタントに力を発揮できる選手が見られたのはよかったです。攻撃面でも思い切ってシュートを打てる選手がいました」

――今大会、というより女子の大会では選手の登録状況に違いがあります。出場チームすべてが17、18歳の選手で一つのチームを構成できるわけではないので、レベル差が出てしまうのは仕方がないことでもあります。そういう側面がある中、選手が自分たちの戦いを集中するのは容易ではありません。

三上「うちは、チーム内の競争が大きなモチベーションになったと思います。今大会では20名を連れて行きましたが、今後はそれほどの選手を連れて行けない試合も出てきます。それは選手にも伝えていたので、彼女たちは危機感を持ちながら試合に臨んでいました」

――今大会は見事に優勝を飾られましたが、まだ第一回大会です。正直、大会自体が発展途上段階です。三上監督はどういう位置付けで大会に出場されたのでしょうか。

三上「全国大会が年二回になり、初代チャンピオンになりたい思いはありました。夏を制したことは意義があることですし、猛暑の中で戦うことはタフさが身につきます。選手の成長が一つの形として表れたと思っています。しかし、まだシーズン途中ですのでこれからしっかりと強化をしていかなくてはなりません」

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――今後はきっと高体連との交流も測られるはずですし、夏のチャンピオンを決めるようなレギュレーションが組まれていくのではないでしょうか。

三上「公式戦として高校のチームと戦うことが少ないので、公式戦として日本一を争えるといいですね」

――少し女子サッカー界のための情報が配信できたらと思います。まず、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースのアカデミーとしてはどういうサッカーを目指しているんですか?

三上「基本的にはボールポゼッションを多くし、試合を優位に進めたいと考えています。そのためには高いレベルでの技術が必要になるので、トレーニングの中で技術の向上は常々言い続けています。そういう基本的な考えに基づき、このクラブが大切にしている『走る』、『戦う』といったサッカー選手のベースづくりは欠かせない要素です。特にアカデミーでは守備面、頭を使ってプレーすることは口酸っぱく選手たちに要求しています。このチームはなでしこリーグのチームをはじめ、日テレ・メニーナ、浦和レッズレディース、JFAアカデミー福島などの強豪チームと対戦することも多いです。その際、自分たちはいい守備から入り、そこから攻撃に転じる力を身につけないと戦っていけませんから、そういうことは念頭に置いています」

――その時々の状況に応じて機転の効いたプレーができる選手とも言えますね。

三上「技術が高い選手はもちろん、頭を支える選手を育てたいです。きちんとしたポジショニングがとれる。チャレジ&カバーができる。守備時の立ち位置だったり、攻撃時にどういうポジションでボールを動かせるかだったり。そういうことをいかにオフ・ザ・ボール時に『どうするか』と考えられる選手を育成することを意識しています」

――トップチームにどのくらい昇格させたいなどの方針はあるのでしょうか?

三上「なるべく多くというのが答えです。メニーナさんのようにトップ選手のほとんどを輩出できるようになれば、それは嬉しいことです。でも、トップ昇格は本当に狭き門で、難しいことも理解しています。ただ一方で、外部からの刺激も重要だとは思っているので、当面は多くのアカデミー選手たちをトップに昇格させられるように努力を積み重ねていきたいと考えています」

――現在、ジェフLにはどのくらいの選手が在籍しているのですか?

三上「高校生が21、中学生が40です。ユースとしては25名くらいで活動しています。立ち上げた頃はユースだけで3チーム分くらいの選手を抱えていましたが、千葉県内にはU18、U15と3年区切りの大会やリーグ戦しかありませんので、選手の人数を増やしたからと試合経験を積ませられるわけではありません。例えば、ジュニアユースの男子のようにU13、U14、U15とそれぞれにリーグ戦や大会があればいいですが、現状の女子は県内にジュニアユースでも20弱のチーム数しかありません」

――女子選手の受け皿としてジェフLアカデミーはどういう位置付けで進んでいきたいと考えていますか?

三上「ジェフLとしてはもちろん、他のチームもできるだけ多くの選手にプレーの機会を持ってもらうことがベースにあるのではないでしょうか。ここ数年でチーム数が少しずつ増えてきましたし、その受け皿が増えてきた時にジェフLとしてどうするかはその時々で考えていくことだと思います。女子自体の選手人口が少ない中、私たちの立ち位置としては強化側にいるのかもしれませんが、全体を考えると普及の部分も担う必要もあります。トップチームを見据えながら、千葉県内ではジェフLが引っ張っていきたいという思いは持っています。最近の関東はなでしこリーグ参入を目指すクラブが増えていますから、そういう関東の強豪にも勝っていけるチームづくりをしていきたいです」

――まだ女子サッカー自体が発展途上の段階にあるので方針を定めてしまうのは難しいところです。夏休みを利用してスウェーデン遠征に行かれていましたが、何か得られるものはありましたか?

三上「フィジカルそのものが全然違いますし、例えば足が出てくるタイミングとかは日本人と全く違います。あとは、異国の地で自分の実力を発揮することの難しさ、大会や観客の雰囲気の違いなど、選手たちも様々なことを感じたと思います。やはり海外遠征による学びは大きいです。今大会も『San Jose Earthquakes』が出場していましたが、対戦できたチームはいろいろ経験できたのではないでしょうか。だから、海外からチームを招待することにはかなり大きな意味があると思います」

――最後に、このチームの目標を教えてください。

三上「個人の能力を上げること。そして、チームとしては冬の全日本U-18女子サッカー選手権大会に出場することです。関東を勝ち抜くには薔薇の道なので、この大会で得たことを積み重ねてがんばります」

文責=木之下潤
写真=佐藤博之
取材協力=日本クラブユースサッカー連盟、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース

▼第一弾記事

【出場チーム】
北海道リラ・コンサドーレ
マイナビベガルタ仙台レディースユース
日テレ・メニーナ
ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ
浦和レッドダイヤモンズレディースユース
ジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18
横須賀シーガルズJOY
AC長野パルセイロ・シュヴェスター
JFAアカデミー福島
伊賀フットボールクラブくノ一サテライト
INAC神戸レオンチーナ
FC.REVO山口
アンジュヴィオレ広島U-18
高知ユナイテッドSCレディース
ANCLASノーヴァ
San Jose Earthquakes

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